禁断の魔法
城外。街は炎に包まれ、城の上では光が飛び交う。
(兄さん、大丈夫かな……)
ラジックは兄を心配する。父は街の消火活動のため、既に街に出ている。力のない自分に、情けなくなる。
爆発音とともに、城の一部が落ちてくる。今や城さえも破損を続け、かろうじて建物をかたどっているいる状況だ。
(なんで、こんなことに……)
不意に、近くで音がする。うめき声も聞こえた。
「……兄さん⁉」
ラジックは落ちてきたハルバードに近寄った。剣も、杖も持っていない。衣服も、体もボロボロだ。
「兄さん!しっかりして!兄さん!」
「……ラジックか……。これを持って、遠くへ……」
ハルバードは、頭につけていた王冠を、昨日の戴冠式で得たばかりの王冠をラジックに渡した。
「誰だ?そいつは」
先程の女が、下りてきた。こちらの女も、ハルバードほどではないにしろ、傷ついている。しかし、余裕があるのは、女の方だった。
「こいつは関係ない。お前の相手は、私一人だ」
剣も杖も持たず、ハルバードは己の拳を構えた。
「そんなこと言ってやるなよ。弟なのだろう?」
ハルバードとラジックは、ともに絶句した。
「貴様らの事情はよく知っている。昨日が戴冠式だったことも。その王冠が魔法を強くする道具だということも。すべては、コイツが教えてくれた」
そこには、ラジックが朝に見かけ、ハルバードが情報を引き出した男がいた。
「コイツ、ロボットなんだよ。ロボットは知っているか?機械。人が造り出したもの」
女はロボットに手を触れた。
「さあ、行け。兄弟もろとも消し炭となれ」
ロボットは光りだした。
「危ない!」
閃光、高熱、黒煙、爆音を共にし、ロボットは霧散した。
「兄さん……」
ラジックの上に、ハルバードが覆いかぶさっていた。
「大丈夫か、ラジック……」
体中が黒く焦げている、ハルバードの姿が、ラジックの目に映る。
「国民を一人でも多く助けるのが、魔法王の使命だ」
ハルバードは立ち上がり、女を見据える。
「これでも生きているとはな。感心したよ、魔法王よ。どうだ、魔法王。我らと一緒に来ないか?貴様には魔法などなくてもやって行ける。魔法を捨て、魔法を滅ぼし、勇者とならんか?」
女は、最後の譲歩というように、右手を差し出す。
「ふざけるな!私は魔法王だ!魔法使いだ!そうであることに誇りを持っている!」
ハルバードは右腕を高くつき上げた。
「本当は使いたくなかったんだがな。非常事態だ。許せ、精霊王よ……。ディアボロス・ディサピレンス!」
その呪文を唱えた瞬間、天に突き上げたハルバードの右腕が、消えた。
「ああああああああああああ」
しかし、叫び声を上げたのは、女の方だった。女の右腕が、消えていた。
「貴様、まだそんな魔法を……」
女の顔から、余裕が消えた。
「次は首を貰うぞ」
逆に、ハルバードは笑みを浮かべた。
「ディアボロス・ディサピレンス」
ハルバードの左足と、女の左足が消える。
「青二才がああああああああああ」
女も宙に浮かせた物体から光線を放つ。
「ディアボロス・ルーイン」
光線も浮遊する物体も、消滅した。同時に、ハルバードの右目と両耳もなくなった。
「ディアボロス・デスト……」
「時間切れ」
女とは別の声が転がり込んだ瞬間、ハルバードは胸を貫かれ、生命活動を停止した。