交戦開始
屋上からは、街が悲惨なまでに燃えていることが瞬時に理解できた。ハルバードは変わり果てた街の姿に、心を痛める。
「待ちくたびれたぞ」
女の声に、ハルバードは振り返る。ハルバードを待っていたのは、5人の男女だった。5人とも、先の不審者と同じ服装をしていた。
「貴様らは何をしに来た?」
ハルバードは、杖から剣へと獲物を変え、構える。
「おいおい、失礼だな。我々はお客様、ゲストだ。王国外からのな」
「歴史には疎い。1000年前に我が国が無礼を行ったことは詫びよう。それ以外に、何を望む?」
剣を向けられているのに、女は距離を詰めてくる。
「謝って済むなら、戦争はなくならない」
「戦争だと?我が国ではそんなもの、起こっていない」
女は表情を引き締めた後、大いに笑った。それにつられて、残りの4人も笑いだした。
「これは面白い。道理で敵に関する危機意識が薄すぎるわけだ。戦うことは進化だ。魔法にあぐらをかいて、進化することをやめてしまった愚かな種族よ」
女はさらに近づく。その距離は、ハルバードが一歩踏み込めば、切り刻める距離だった。
「しかし、そんな仮染の平和主義が続くのはいつまでだろうか。特に貴様。ハルバード・リスティーク。貴様は指導者として優れすぎている。歴史を継承した今、外の世界へ繰り出すところだっただろう?」
ハルバードに一筋の汗が流れた。炎で燃え盛る中、冷たい汗だった。
「図星か。しかしな、それは困るのだ。我々魔法を持たない国にとってはな」
「どういう意味だ?」
「魔法は物理法則を無視する優れモノだ。そんなものが我々の世界に舞いこんだら、秩序は崩壊する。だから、壊される前に、壊しに来たのだよ。この国をな」
女は手を構えた。瞬時、ハルバードは剣を振るう。剣は炎をまとい、攻撃範囲を広げるも、女は軽々避ける。代わりに、光線がハルバードの頬を掠った。
「もっと友好的に関わることができないのか、外の国は!」
剣は雷を纏い、雷は女の元へ走り出す。が、女の衣服によって雷は遮断される。
「魔法自体が危険なものなのだ。貴様の存在がその証拠!」
女は体の周りに、浮遊する物体を鎮座させている。その数、10。それぞれから、光線が繰り出される。
「私はデナルグ連邦の最高戦力なのだ。その私と対等に渡り合える人間が、そこら中にいるのは困るのだ!」
光線を捌きながら、ハルバードは剣を振るう。剣の切っ先が、女の頬を掠った。
「それは誤解だ!私も貴様と同じく、国の中で最高の力を持っている!私ほどの力を持ったものはいない!」
「戦争も知らない青二才が!戦いを知ったら貴様らの力が我々を十二分に上回ることは、我々の方がよく知っている!危険因子は早めに目を摘んでおかないといけないのだ!」
女は宙へ浮いた。浮遊する10個の物体のほかに、宙へ浮く女からの攻撃も加わり、ハルバードは攻撃をかわすのが難しくなる。
「!」
下から光線が突き上げる。それを避けようと後ろへ下がると、今度は背後を狙われる。魔法防壁で致命傷は避けられているものの、魔法を同時に扱うのは、相当の疲弊が伴う。
(おかしい……。なぜこの女のみ攻撃してきて、ほかの者は……いない⁉)
屋上にいた国外の人間は、今戦っている女を入れて5人。うちの4人の姿が消えていた。
「よそ見をするほど余裕か!流石だな魔法王!」
女は浮遊させていた物体を一つに集め、照準をハルバードに合わせた。
「死ねえええええ!」
幾重にも重なった光線が、城もろとも打ち砕く。
「……我らデナルグ連邦が1000年の時を経て開発した浮遊の力を、やはり貴様らはたやすく使うのだな」
ハルバードは呪文『シルフ・ウィング』で宙に浮いていた。
「人の城を勝手に壊すなあああ!」
炎、氷、雷。様々な魔法を県に剣に乗せ、女の武器から破壊していく。すかさず、女も攻撃を続け、ハルバードは手から剣を落とした。
「いや、まだだ!」
ハルバードは懐から杖を取り出し、再度魔法を繰り出す。
「なるほどなるほど。魔法について、分かってきたぞ。魔法を使うには、剣や杖などの媒体が必要。そして呪文を唱えることにより、魔法が発動する。違うか?」
「知ったところでどうする!」
突風が女を襲う。バランスを崩す。が。
「こうするに決まっている」
女は攻撃を杖に絞り、杖を折った。魔法の媒体が消えたことにより、魔法自体もなくなる。ゆえに、ハルバードは『シルフ・ウィング』を失い、地へと落ちていった。