地下牢にて
城内地下、牢獄。
「父上。こんなずっと使用していない牢獄で、いったい何を」
ラジックとハルバードの父であり、先代魔法王であるカーリアンは、ハルバードを地下牢へと連れてきていた。
「どうも今日ずっと城の周りをウロウロしていたようでな。憲兵が不審に思って捕まえたらしい。しかし、ずっと何も言わなくてな。お前の魔法だったら何か聞き出せないか?」
地下牢には、体に張り付いたような衣服を着た男がいた。男は鋭い目つきをしており、やって来たハルバードを睨んでいる。
不意に、男の衣服が光りだした。
(この男、さっきラジックが言っていたやつか……)
「分かりました。やってみます」
ハルバードは杖を取り出した。
「インプ!オネストリー!」
杖を振り、呪文を唱える。
杖から出た魔法は、黒い靄となって牢獄の男を取り囲んだ。
「ククク……本当に魔法があるとはな……。全くファンタジーだぜ……」
先程まで一言も発していなかった男が口を開いた。どうやら、魔法は成功したようだ。男に、ハルバードは問う。
「お前は何者だ?」
「俺はただの見張りさ」
「何の見張りだ?」
「アンタがどこかへ行かないためさ」
「私が?いったい誰の差し金だ?」
「誰って言うのは難しいな。強いて言うなら、世界」
その言葉に、ハルバードとカーリアンは顔色を変えた。
「世界、だと?」
「魔法国家、ミラセア王国。かの歴史にて、外の民を蹂躙した国」
男は自ら話を続ける。
「外に世界があると知りながら、己らが最も優れている種とし、交流を停止した」
ミラセア王国には、隠された歴史があった。
「魔法を持つというだけで、貴様らは我らを愚弄し、壊滅させ、脅威を失くしたうえで、世界を自分たちだけのものとした」
それは、ハルバードさえ今日知った真実。王位を継承した人間しか知らない、真の歴史。
「貴様らが外を閉ざしてから何年経ったと思う?今日で1000年だ。そしてその1000年で、我々外の人間も変わった」
「何が狙いだ、貴様は⁉」
ハルバードは男の胸倉を掴んだ。
「人の話は最後まで聞くもんですぜ、魔法王さんよお」
男はハルバードを突き放す。
「誰も歴史を知らされていないとはいえ。外からの侵入を簡単に許しちゃあ、国営がなってねえよ」
男は手を突き出し、右手と左手、合わせて10の指を立てた。
「さあ、あと10秒。一緒にカウントダウンしようぜ……」
9…8…と数える男に対応して、指も折られていく。
「ほら、5…4…」
「何をふざけている⁉」
ハルバードは杖を向ける。
「2…1…」
その最後の指が折れた時、轟音が響き、大きな振動が起こった。
「なんだ⁉」
揺れはさらに大きくなる。
「ハルバード!ひとまず上へ!」
「分かった!」
ケタケタと笑う男を抱え、ハルバードとカーリアンは地下牢から上がっていった。