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城下町【夜間】

城から街に下りたラジックは、その明るさ驚きを隠せないでいた。ミラセアでは夜は月の明かりか星の輝きだけで、道路が光を発するなどありえなかった。さらに、夜にもかかわらず道には人があふれ、酒を飲む者、喧嘩をする者、その場で寝てる者、様々な人がいた。


「……すごい。外の国って、夜でもこんなうるさいのか……」


マグノリアとともに、ラジックは夜道を闊歩する。目的は武器屋だが、それよりも先に今日の寝床を探さなければならない。道端に出ている露天商に訊ねる。


「なあアンタ。この辺に宿屋ってないか?」


フリットされた白身魚とビールを忙しく売る露天商は、半ば迷惑そうに答える。


「宿屋…?なんだその古臭い言い方。田舎もんか?」


田舎者と言われ、一国の王族であるラジックは眉を顰める。


「じゃあ何て言うんだよ?街に詳しそうなアンタならいい言葉を知ってるんだろうなあ」


「やけに突っかかってくるじゃねえか…。田舎からスチュワート政権を壊しにやってきた革命家って奴か?だったら怒るのも無理はねえが俺に当たるなよ。ほら、商売の邪魔だ。向こうに行きな」


露天商はそう言って手でラジックたちを追い払うと、道行く人々にビールはいかがと声をかけ始めた。


「冷たい奴だな……。マグノリア、宿屋って言い方は古いのか?」


問われたマグノリアはしばし沈黙した後、答えた。


「検索結果。宿屋は現在でも使用されている言葉ですが、宿屋は田舎の宿泊施設を示す言葉として浸透しております。城下町など栄えている都市部では、宿泊施設は『ホテル』と呼ばれることが多いです」


「ホテル……。知らない言葉だな…。じゃあ今日はそのホテルを探して泊まればいいわけか」


目的は決まった。ホテルへ向かおう。


「ところでラジック様」


「何だ?というか、別に様付けでなくてもいいぞ?」


「了承。ところでラジック」


「何だ?」


「ミラセアでは無かった制度なのかもしれませんが、諸外国では、サービスを受けるのには対価が必要となります。つまるところ、お金です」


「我が国を馬鹿にするな。通貨制度くらいあるわ」


「だとしたら、現在ラジックはホテルに泊まるお金を所持しているのですか?」


そうだった。もともとは食料を完備し、寝るところもある飛行艇で外国を回ろうとしていたのだ。どうしても海外で物資を必要とした場合は、物々交換でことを終える予定だったため、お金など持ってきていない。


「これは……まさかの事態だ。大人しく城の固い床で寝ているのが正解だったのか……。マグノリア、お金を貸してくれたりなんてことは……?」


「否定。自動人形は金銭を持つことが許されておりません。自動人形が金銭を受け取る場合は、その金銭は管理者の所有物となります」


一国の王が人形に借金を依頼する奇妙な光景がそこにあった。


「ホテルに泊まる前に、金を稼ぐことが先の目標になるとは……」


飛行結晶を取り戻すまでのロードマップはかなり長くなりそうだった。


泊まるところすらなくなったラジックたちは、宛もなく道を行く。すると、女性の甲高い悲鳴が聞こえてきた。


「今のは!?」


声のした方、大通りから道を外れた路地裏に向かう。そこには背の高い男三人組に囲まれた女性の姿があった。


「お前、スチュワート政権の支持者なんだろ?困るなあ、この区画はスチュワート政権に反対すると決まったんだ。一人でも異分子がいると革命の指揮が下がるんだよ」


「あいつは大陸を浮かせた罪人なんだ。お前は罪人を擁護するのか?」


「スチュワート政権に反対するか、区画から出ていくか。決めろ。と言ってもこの辺の区画はどこも政権反対の区画だけどなあ」


男の一人は下品な顔を浮かべながら女性に詰め寄り、女性の顔面を手で挟み上げた。


「やっ、やめろっ!スチュワート様は国民を助けるために大陸を浮かせたんだっ!あのまま浮かんでいなかったら、今頃私たちは戦争の真っ最中になってたんだぞぁつ!」

女性は必死で抵抗する。見ていられなくなったラジックは、男と女性の間に割って入った。


「ちょっと落ち着けって!さすがに女一人を男三人で囲むのは良くないんじゃないか?」


「何だ、お前?お前もスチュワート政権賛成派か?」


男の一人、目に傷のある男がラジックに詰め寄る。


「どっちかって言うとあの女王様はキライだ。だが、それとこれとは話は別だ。その女性を放せ」


「生意気なガキだな!すっこんでろ!」


男は右手を大きく上げると、ラジックに向かって素早く振り下ろした。しかし、顔面の前まで来たそれをラジックは左手で受け止めた。


「危ないなあ。暴力は良くないぞ?」


そのまま男の右手を握りしめ、手の位置を真下に下げた。すると男は体勢を崩し、ラジックは崩れた体勢の上に乗りかかった。


「あの執事は強かったけど、国民全員が強いわけじゃないんだな」


ラジックは男にまたがったまま、残りの二人の男を見る。


「まだ、やる?」


男たちは歯ぎしりをすると


「クソ!覚えてろ!」


「スチュワート政権に賛成する奴らはいずれここにいられなくなるからな!」


「早く次の引っ越し先を見つけやがれ!」


と三者三様に捨て台詞を吐き、その場を後ずさった。


「野蛮な奴らがいるもんだなあ」


ラジックは服を正すと、男たちに囲まれていた女性を見る。赤い髪を後ろで束ねて、髪と同様の赤い目は鋭くラジックを見つめていた。


「大丈夫か?」


「ええ、助かったわ。最近は革命家たちがのさばり始めて、夜道を安心して歩けないんだもの。それよりも、あなたは政権賛成派なの?それとも反対派なの?スチュワート様を嫌いとか言っていたけど…」


なかなか難しい問いである。ガブリエラ・スチュワート自身には恨みがあるが、政権についてはどうこう言えるほどこの国の政治に精通していない。


「そうだなあ…。そもそも俺はこの国の国民じゃないから、何とも言えん」


「この国の国民じゃない!?外国から来たってこと!?」


「まあ、そうなるかな」


「ここは浮遊大陸よ!?どうやって来たって言うのよ!?」


「どうって、ガブリエラ・スチュワートに拾われてって言うか……」


「待って、理解が追い付かない……。でも、あなた面白いわね。もう少し話を聞かせてほしいかも……そういえば、まだ名乗ってなかったわね」


そう言うと、赤い髪の女性は身を正して、自分の名前を口にした。


「私はアップル。アップル・スネークバイト」

昨日は更新できず申し訳ありません!

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