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ワープゲート

「危ない!」


その声を聞いて、ファララは振り返った。


直後、目の前で鈍い音が響く。それは、ラジックの背に石がぶつかる音だった。


「あなた…何で…?」


自分を庇って傷ついたラジックに、ファララは問う。


「何でって…危ない目に遭いそうなら助けるのが普通だろ?そんなことより、アンタの声で眠らなかったやつがいるな…」


ラジックは眠る民衆の中でただ一人、その場に立つ男を見据えた。その男は、今にも人を殺しそうな目をしていた。


その目に、ラジックは見覚えがあった。


「……俺と同じ目をしているな……」


復讐に燃える目。その男はラジックを指さし言い放つ。


「大陸を浮かせたお前らを、我々国民は絶対に許さない!他国の侵略を恐れ、交渉することもせず空へ逃げたお前らを――」


言い切る前に、男は倒れた。ラジックの横には、銃を持つファララの姿があった。


「……殺した…のか?」


「まさか。これは麻酔銃です。言っておきますが、私は人を殺せるような武器は所持しておりません。それと」


ファララはラジックに近づき


「先ほどは庇っていただきありがとうございました。ただ、投石ごときで傷つくほどやわな身体じゃありませんので。次からは庇っていただかなくて結構です」


ファララは一礼すると、再び城内へ歩を進めた。


ファララと入れ替わりでやってきたのは、カラムだった。


「ようやく目が覚めたのか。ガブリエラ様に仇なす不届きものめ」


ラジックを睨み、憎まれ口を叩く。


「誰のせいで眠ったと思ってるんだ」


売り言葉に買い言葉。


「貴様の弱さが招いた結果だろう」


カラムはラジックの横を通り過ぎ、眠る民衆の元へ向かう。


「何をするんだ?」


「こいつらを街へ返す。貴様も手伝え。あの中に放り込めばいい」


カラムが指さした先には、四角い牢獄のようなものがあった。


「何だ、あれは?」


「城と街をつなぐワープゲートだ。貴様らミラセア民は知らんとおもうがな」

ワープゲートに放り込まれた国民は、瞬く間に姿を消した。


「うおっ!消えた!」


その様子に、ラジックは驚く。


「それがワープというものだ。瞬時に長距離を移動する、科学の結晶だ」


「瞬時に移動する……?」


ラジックは、最初にカラムの胸倉を掴もうとした時を思い出した。あの時、掴もうとした先にカラムはいなかった。


「そのワープってやつは、あの箱の中に入らなくてもできんのか?」

しかし、その問いにカラムは答えなかった。代わりに、冷たい指示が飛ぶ。


「早くそいつらをワープゲートに入れろ。今の貴様は魔法も使えず奴隷同然なんだからな」


ラジックは反抗しようとしたが、自分が目の前の相手に気絶させられたことを思い出し、黙って指示に従うしかなかった。


          ●


その夜。


「ここがあなたの部屋よ」


ファララに案内されたのはかつては物置で使用されていたであろう、薄暗く狭い部屋だった。


「ここに住めっていうのか…」


「屋根があるだけマシだと思いなさい」


この部屋には、ベッドはおろか、布団さえない。さてどうしたもんかとラジックが考え込むと、ファララが言う。


「言っておくけど、夜中に抜け出すというのはやめた方がいいでしょう。夜中にドアを開放した瞬間、私とカラムのもとに警報が届きます。これを聞いて行動に移すほど、あなたは愚かではないことを期待します」


そう言って、ファララはラジックを残し、物置部屋(ラジックの部屋)の扉を閉めた。カチャリ、と鍵の閉まる音もした。


(ドアがだめなら……窓から出るしかないよなあ)


天井に設置された唯一の窓を見上げ、ラジックは心の中で呟いた。

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