魔法王ラジックVS執事カラム
「なんだよ、コレ……」
ラジックは、気付いたら白いシャツに黒いジャケットを着こみ、襟元には赤い蝶ネクタイが結ばれていた。見れば、カラムも同じ格好をしており、ファララに至ってはラジックの侍女、ホーマのような白いメイド服に身を包んでいた。
「我々は女王様の護衛兼世話役だ。この格好も当たり前だろう」
つまるところ、これは執事服ということだ。
「何で俺が仇の世話を焼かなきゃならないんだよ!」
ラジックはカラムの胸元を掴もうとした。が、ラジックの掴んだ先には誰もおらず、逆にラジックの背をカラムは叩いていた。
「先ほども思ったが、本当に貴様は、それだけの力量で女王様に歯向かおうと思ったのか?」
ラジックは、驚きを隠せず振りむく。その振り返った反動を利用して、裏拳をカラムの右頬に当てようとするも、それも止められてしまう。
「弱者が強者に従うのは道理だ。嫌なら私を倒してみろ」
「そっちの方が話が早い!」
ラジックは杖を構え、呪文を放つ。
「ヴァッサーマン!ウォアプール!」
杖の先から、水が溢れ出し、その水は渦となってカラムの体を襲う。
「屋内でやる奴がいるか!」
カラムは初撃の水に引っかかったものの、すぐにラジックの背中を取る。
「さっきから、人の背中に張り付きやがって……!ヴァッサーマン!フォール!」
振り上げた杖から水が飛び出し、その水はラジックの背中へ降り注ぐ。その水をカラムは浴びるも、ただずぶ濡れになるだけだった。
「そんなただの水で、私にどうやって勝つつもりだ?」
水が滴り、整えられた髪の毛は、べったりと張り付いていた。
「魔法を知らない人間にとっては、魔法の戦術は分からないだろう!アイスアン!フリーズ!」
ラジックが唱えると、カラムに降り注いだ水は、一瞬にして凍り始めた。
「なるほどな。これが魔法……。やはりこの危険性は隔絶して正解だったな」
ラジックはニヤリと笑った。
「分かったか。だったら、今すぐあの女と話をさせ――」
ラジックの顔面に、右腕が飛んできた。ひじから下が、火を噴きながら。
「危険なのは魔法であって、貴様ではないということだ」
ラジックに一発食らわせた右腕は、カラムの元へ戻り、その熱で氷を溶かした。
「氷漬けにして私の動きを止めたのは正解だ。だが、敵の手元を気にしないのは、戦いの上で致命的だ。貴様らの国にはないかもしれんがな、我々の世界では、飛び道具というものが標準で装備されている。戦いではまず手元を破壊しろ」
しかし、そんなカラムの説教は、気絶したラジックには届いていなかった。




