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王としての格

残されたラジックはガブリエラを睨む。


対して、ガブリエラは余裕の笑みを浮かべるばかりだった。


「さあ。これで正真正銘一対一。まさかこの状況で襲ってくるバカではないだろう?何から聞きたい?」


ラジックは大人しく従うしかなかった。


「まずは……俺を助けたのはアンタか?」


「間接的には、だな。『訣別の壁』において、迎撃システムが稼働し、壁外へ出ようとする貴様らを撃ち落とした。撃ち落とした先が壁外であり、我らがデナルグ連邦の巡回船に見つかって、ここへ連れてこられた。殺すか殺さないかの判断で、私が殺さないとした。王女である私の命令は絶対だから、貴様は生かされている」


ラジックはそれを聞いて、床に正座を組んだ。


「何のマネだ?」


ガブリエラは、ラジックの上から言葉を吐いた。


「助けてくれてくれたこと、感謝いたします」


ラジックは自らの額を床に擦りつけた。それを見たガブリエラは、驚きを隠せなかった。そして、その驚きはラジックへの暴力へと変化した。


ガブリエラは、そのつま先で、床にへばりついたラジックの額を蹴り飛ばした。ラジックの体は、顎を頂点に、宙へ浮く。


「貴様は!仇相手に!礼を述べるのか⁉」


宙へ浮き、そのまま仰向けになったラジックに、ガブリエラは馬乗りになった。そしてさらに、ラジックの胸倉をつかむ。


「私は仇なんだぞ⁉貴様の兄を殺したんだぞ⁉なぜそんな奴に向かって頭を下げられる⁉」


「これが!」



ラジックは目を見開き、ガブリエラをキッと見つめた。


「これが、ミラセアに伝わる礼儀だからだ。助けてもらったら、謝辞を述べよ。アンタに殺された兄貴も、俺にこうしろと言うさ」


ラジックがそう言うと、ガブリエラは目に涙を浮かべた。


「なんで泣く?仇に泣かれると、殺すのに躊躇うだろ」


ガブリエラはラジックから離れ、目を拭った。


「泣いてなどいない。それに、貴様に私は殺せない」


「ふん。殺してやるさ。一応言っておくがな。助けてもらった恩と俺の復讐は別物だ。助けてもらったからって自分が殺されないとは思わないことだ」


「構わんよ。もともと貴様は情報を聞いてから殺そうと思って生かしただけだ」


「情報?何のだ?」


「無論。魔法だよ」


ガブリエラは、どこからともなく杖を出した。その杖は、ラジックのものだった。


「魔法はどうやったら発動するのだ?貴様らは、この杖を使って、何かを唱えて魔法を出していたよな?」


杖を振るガブリエラ。しかしもちろん、何も起こらない。


「魔法を知ってどうする?」


「決まっている。我が国の軍事力を上げるのだ」


「軍事力、だと……?」


ミラセア王国には軍の概念がなかった。外国などないと思って生きていたし、国の中で悪さをする人間は、魔法騎士によって裁かれていたからだ。


「なぜ軍事力が必要なんだ?争いなど、憎しみしか生まないというのに」


「憎しみによって動かされている貴様が言うか?」


ガブリエラは笑った。


「俺は兄貴を殺されて初めて憎しみを知った。お前を殺して、俺も死ぬ。そうすれば憎しみの連鎖も止まるだろう。もっとも、その前にお前らが6年前に奪ったミラセアの宝具も返してもらってからだけどな」


「私を殺した時点で、この国の憎悪は貴様に向く。貴様が死んだところで、その憎悪は消えやしない。きっと貴様の故郷、ミラセア王国を再び蹂躙するだろう」


「そうならないように、ミラセアを強くする」


「ほらな。軍事力が必要だ」


ガブリエラの誘導に、ラジックはまんまと乗せられてしまった。


「復讐の炎が燃える限り、人々は争いをやめられない。私が魔法を手に入れて軍事力を強化するのも、この国を守るためなのだから」


ラジックは言い返せなかった。目の前に、殺したいほど憎い相手がいるから。この炎が消えるときは、ガブリエラを殺したときしかない。そう思った。

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