目の前の仇
「起きたか、復讐者。久しぶりだな。6年振りか……?」
「ガブリエラ・スチュワート……!」
目を覚ましたラジックの前に現れたのは、仇の女だった。
「殺す!」
ラジックはベッドから跳ね起き、ガブリエラに対峙した。
「やれるものだったらやってみろ。貴様は今、丸腰だぞ?」
嘲笑して、ガブリエラはラジックを見下ろした。
「お前なんか、俺の右手で十分だ!」
魔法を使わず、ラジックは右腕を高くかざした。
「ああああああああ!!!」
そして強く振り下ろした。殺せなくても構わない。まずは一発。相手が気絶したらその隙に杖を取り戻して、魔法で殺す。そういう算段だった。
しかし、あっけなくもラジックの拳は止められてしまう。
「こやつが本当に王女様の復讐者ですか?」
「右に同じ。考えもなし力もなし。復讐が聞いて呆れます」
ラジックの拳はガブリエラに届く前に男に止められ、ラジックの足が踏み込むより前に、女の剣に喉を捉えられていた。
「一歩でも動けば、あなたは死にます」
女の言葉を聞いて、ラジックは踏みとどまった。目の前に仇がいるのに何もできない状況に、ラジックは唇を噛み締めた。鉄の味が、広がる。
「カラム、ファララ。下がっていいぞ。なに、お前たちの護衛がなくとも、私がこの男に負ける未来はない」
白いワンピースに身を包む彼女の上方には、6年前に見た浮遊する破壊兵器があった。
「おい、復讐者。まずは言うべきことがあるだろう?貴様の最後の記憶はなんだ?思い出してみろ」
仇の言うとおりにするのは癪だったが、ラジックは言う通り、自分の記憶を辿った。ミラセアを出て、壁を越えて、いや、越えようとしたところで、ロボットに機体を打ち砕かれて……。
「そうだ。俺はなぜ、生きている……?そしてなぜ、ここに……?仲間は⁉ヨハネは⁉」
ガブリエラにつかみかかろうとしたところで、剣の切っ先が今度は眼前に現れる。
「……次は斬りますよ」
「ファララ、剣を下ろせ。私の先の言葉を忘れたのか」
圧の掛かった言葉に、ファララと呼ばれた女は頭を垂れた。
「はっ!申し訳ありません。不遜ファララ。王女の身にこの男が迫るのが許せなかった故」
「頭を上げよ。お前の気遣いには謝辞を述べよう。ただし、私が下がれと言ったら下がれ。次がないのはお前の方だぞ」
「はっ!ファララ、しばしの間、部屋を空けます。許しを」
「構わん。カラム。お前もファララと一緒に部屋を空けよ」
「承知」
ガブリエラに命令されたカラムとファララは、部屋から出て行った。
第1章の開幕です。




