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駒コマ廻戦  作者: たっつー
2/2

1回転目 〜廻し廻され、ふりふられ〜


〜大会1ヶ月前〜



「今日中に謝罪に行くこと!絶対に今日中だよ?」


都内某所、某ビル群、某階層で俺は怒られていた。

5年前両親に入社祝いで買ってもらったネクタイを手持ち無沙汰で触りながら、「本当は事務員さんの発注ミスじゃないっすか。」と言う言葉が喉元まで出かかったが言うのを辞めた。


「はい、謝罪の感触また報告します。弊社の信用を無くしてしまいかねません。申し訳ありません」


なぜ引っ込めたか?

それは全面的に俺のミスだからだ。




社用車に乗り、謝罪先へ向かう。バタン。

あそこの社長怖いんだよな、とか考えて居たらインターチェンジが見えてき、乗り込んだ。

入社当社怖かった高速合流も、今では難なくこなす。


一ヶ月後に迫った、マスターブレード、ウルフギャング杯のことを考える。大会用に新たにカスタマイズした相棒マテリアル。地面に接する面を大きくして、より攻撃型のアサイメントを取ることにした。


また、相手を切り裂くブレード部分は、チタンを採用し、ブラウンとシルバーを輝かせながら、戦場をかける。



「たくそろそろ彼女とか家庭持つことを考えたらどう・・・?」

この前、居酒屋でおやっさんに言われたことを思い出す。ナビは、しばらく道なりに続くとのこと。


おやっさんは本当は、おやっさんではない。俺よりも2個下の同僚で、名前はまさつぐ。

俺がブレーダーと知って、次々と友達が疎遠になる中、まさつぐは俺を理解しようと努めてくれる。俗に言うイイ奴だ。そして特徴として顔がカッコいい。少しだけ。



右車線を走っている車のホイールを見て、やはりマスターブレードの事を想像してしまう。

そう俺は、くすぶっているのだ。轟々と燃え盛る炎とは違い、目に見えず煙すらろくに立たない。

が確かに熱を帯びており、ほおって置くと自らを燃やし尽くす、、、、様な気がするのだ。



十数年前、一度も勝てなかった、勝ち逃げしやがった、憎き、だいちゃんの顔を思い出す。

あのときはマスターブレードの様なハイテク仕様ではなく、鉄で出来たコマに糸を巻き付けて、廻してたんだっけ。



「お前もそんなものか」

夕日を背に、だいちゃんの目がくっきり浮かびあがっていたのを、今でも覚えている。

そんな期待外れな目で俺を、俺を見ないでくれ・・・・・



「間もなく目的地周辺です。」

気づけば、謝罪先、直ぐ側まで来ていた。現実に引き戻される。


憂鬱な気持ちで駐車場に車を停めた。

隣には社長の高級車が止まって居るのを確認し、うわーやっぱり社長いるのか~。などと思った。


謝罪土産を車から取り出し、勢い良く扉を締めた。フーと深呼吸をした後、スーツについてあるポケットの膨らみをさすった。相棒マテリアルである。


「行けるなマテリアル?」

「ぎゃおんんんんん」

マテリアルに宿る、化け猫の精霊が、同意とも威嚇とも取れない鳴き声で答える。さぁて暴れますか・・・

敷地内庭園、お客様専用ロッカー、古びた階段を抜け、俺は勢いよく告げた。






「大変申し訳ありませんでした!これはつまらないものですが!」


45°、いや90°の勢いで頭を下げた。それは、それは深く。社長の顔を見るのが怖いなと思いながらも、ゆっくり顔を上げると、やはり凄く怒った顔をした社長が立っていた。


「ホントに困るよ、うちだって従業員守るために、やってるんだよ」

いつもは優しい目が、今日は眼鏡越しに怒りをあらわにしている。後ろに撫でつけた白髪は、細く弱々しく、気苦労を感じさせる。



俺は頭を下げるしかなかった。なぜなら、社長の工務店は大企業では無いものの、町での評判も良く、この厳しい時代の中、信用と信頼で生き残っているのである。その努力は過去の取引の中で嫌と言うほど見てきたからだ。




にしても、こんなにも、頭を下げて、謝ってるのに。

さては、おこりんぼさんだな?社長ぉ~。


などと、もう一度頭を下げていたら、ふとおやっさんこと、まさつぐの事を思い出す。



アイツは、いつも俺の事を理解しようと努めてくれる。分からないなりに、だ。


というのも、他の周りの奴らは、マスターブレードの事をそろって煙たがる。いい大人は、お酒やゴルフを嗜まなければいけないらしく、マスターブレードは禁じられた遊び、という扱いらしい。

が俺からしたらだ、それは確かに、間違いなく、かけがえのない、大切な物なのだ。

そんな俺を、まさつぐは分からないなりに、理解しようと努めてくれる。その姿勢に心がいつも暖かくなるのだ。


話を取引先への謝罪に戻すと。

もしかしたら、俺にとってのかけがえのないマスターブレードが、社長にとっては、会社なのでは?と思う。

逆転の発想である。社長にとって、誰にも負けたくないことこそが経営なのでは?


前頭葉に落雷が落ちた。

俺ははっとして、顔を上げ社長の目を見た。

ありがとうまさつぐ。もしかしたら、大切なことに気がつけたかも。



そして心の底からもう一度頭を下げて、今の正直な気持ちを社長に告げた。


「大変申し訳ありませんでした!!!」

「ぎゃおんんんんん」

マテリアルよ。化け猫のお前。

人間の言葉も分からないであろうのに、俺と一緒に頭を下げてくれるのか。頼りない主人でごめんな。



深く、深くお辞儀をし、十秒ほどたった頃だろうか。自分の靴の先を見つめて居ると、社長がゆっくりと口を開いた

「まあ正直言うと、今日の今日に謝りに来られて誠意は感じたよ。最近は電話で済ます子も多いし・・・」




!!!!!!!

意外な返答であった。



(ぎゃぁぁあん?)

そうだなマテリアル。俺達の気持ちが伝わったのかもな。やっぱり人間最後は心と心だなと、威風堂々と顔を上げると、すぐさま社長は言った。



「だがミスはミス!絶対に許さん!」



その後、一時間怒りは収まらず、こってり絞られた。




とりあえず、帰りに社長の高級車に、マテリアルの必殺技、地獄の鉤爪(ケルベロス、ペットロス)を喰らわせといた。








---------------------



おやっさんはおやっさんはではない。

本当は、年下でただの好青年である。

そして優秀な読者の方々ならば、優子は優子でないとお気づきでは無いだろうか。

エピローグの優子は、俺に片思いをしている健気な少女だ。怪我をしながらも戦う俺を涙目になりながら見守っている。本当は誰よりも戦いを止めたいのに・・・





「子供のゲーム大会におっさんが参加するとかキモ。しかも、テレビが来て顔映るとか、人生終了でしょ。」



来月のウルフギャング杯に出場すると報告した所、このありさまである。アイスコーヒーをストローで吸いながら、冷ややかな目を向けてくる。

まあまあ、とまさつぐが優しくなだめる。

男の戦いに女が口を出すこと、汚い言葉を使うこと、それを注意しよう、ガツンと指摘しようと、俺は言った。



「ふんっ」




段々と暖かさを感じるようになってきた、ある春の週末、都内のカフェにて、3人でアフタヌーンティーを囲んでいた。何で仲良くなったのか、いつから集まるようになったのかも忘れてしまったが、気がつけばつるむようになっていた。



俺は二人の事を大切な友人と思っている。まさつぐはいつも俺の事を気にしてくれる。地元の頼りない兄と俺を重ねているらしい。

優子も優子で、口ではああだが、何だかんだ助けてくれている。地元の頼りない兄と俺を重ねているらしい。

そんなこんなで、休日は基本的に修行ばかりである俺を心配し、二人は良く誘ってくれるのだ。



「ねぇこのあとホントにコイツのパーツショップについて行くの?確かに午前中は、私の買い物に付き合って貰ったけど」

ズズズッと、コーヒーを吸い尽くしたストローが鳴いている。優子は一般的に美人と言われるであろう顔で、わざとらしく困った表情を作り、まさつぐに問いかけた。


「行ってみようよ!俺も小学生の頃遊んでたし、懐かしいよ!」

まさつぐはキラキラとした瞳で言った。男は皆、漢であり、一匹の獣であり、戦いを求める性なのである。



−−−−−−−−

パーツショップはカフェの割と近くにあった。店内は土曜日ということもあり、賑わっている。


「うわぁ中高生ばっかりじゃん。どんな顔してあんた達は物色するの?」

腕を組みながら優子は言った。



ふとその発言を聞いた、20代であろう黒フードの男性客がムッとして、優子を睨む。がすぐに、目をそらした。そう優子は美人なのである。




「余計な事は考えずに、楽しんだら良いと思うよ!

 あっこのブレード昔使ってたモデルだ!」

まさつぐは、最近のはAIが搭載されているんだなぁ、と興味深そうにブレードを手に取っている。赤と白が美しいリヴァイアサンモデルだ。



「げっこれ3000円もすんの信じらんない、、、」

「えーこんなもんだと思うよ〜」


二人の会話を背に俺は、ショーケースの中に存在する'ある'パーツに目を奪われて居た。


(幻のボディパーツ)である

ケルベロスズ・ニー(地獄の番犬のヒジ)



(ぎゃぁぁあん?)

マテリアルが珍しく姿を表した。

お前もやっぱり感じるか?このパーツの魂の鼓動を。お前はこのパーツをどう思う?


「シャーーー!シャーー!」

化け猫のマテリアルは姿を実体化し、通常の2倍ほど体を膨張させ、毛を逆立たせた、、威嚇している。目をルビーよりも真っ赤に充血させて・・・・



対して、実体化したケルベロスズ・ニーは、まったく意に返さず、アクビをし、後ろ足で頭を掻いている。格上ってわけね、おもしれぇ。




「定員さん、ショーケースの中にある、ケルベロスズ・ニーについて。値段は幾らなんだい?」

自分でも声量を二段階間違えたな、と思う程大きな声が出た。まさつぐと優子がなになにと後ろについてくる。


レジの定員さんは、大声にあったことで驚き、フリーズしていたが、3秒後ハッと自分の仕事を思い出し、値段を調べ始めた。オレンジブックで。


「えーと、えーと」

これは確か2000年代の希少パーツで〜、とか言いながら、分厚いページがパラパラとめくられていく。

まさつぐ達は、何か只事では無い事象が起きていると感じとり、定員さんの手元を無言で見つめている。



そしてオレンジブックをめくる手を止め、眼鏡を一度上げてから、こう告げた。定員さんの目の奥が光る。


       「260000円。」


超☆高☆額。俺は事の重大さに、ただ下を向いて、黙った。手は何故か、無意識レベルで拳を握っていた。

まさつぐや優子が何か言ってる声も遠く、まるで綿パチのパチパチの様に、か細く耳に入ってこない。何やら他のパーツも見てみよう、などと言った提案をしているようだった。



積み上げたものぶっ壊して、纏わりつくものかわして、こう告げた。



         「36回払いで」




「もう少し考えても良いんじゃない!?」

「あんた・・・うわぁ・・」

二人がなんと言おうが、俺の意思は変わらない。威嚇し、膨張しているマテリアルの体とは反比例し、俺の残高は萎んで言った。



「ありがとやしたぁぁぁぁ」

カーディーラーで車を成約した時のように、何故か店長まで出てきて、深々としたお辞儀を受け店を後にした。



まさつぐは、「まあ趣味が充実してれば、人生も充実するからね?」とよく分からない表情で、言ってくる。「趣味ではない、戦だ」と返したら、喋らなくなった。店を出てから、優子は何故だか一言も喋ってない。





「ヘイヘイお兄さん。そのパーツ置いていきな。痛い目に合いたくないならな。」

3人で歩いて駅まで向かっている最中、暴漢が立ち塞がってきた。

先刻優子の発言にムッとしていた黒フードの男だった。



「お前は、聞いたことがある、レアパーツ刈りのハンターだな!!」

「しゃぁぁぁ!!」

とっさにマテリアルを素早く右手で構え、臨戦態勢に入る。まさつぐと優子は状況を把握出来ずにいるようなので、俺は二人の壁になる形でハンターの前に立ちはだかった。


「お前の精霊は、化け猫か。いでよ、ブルーエレファント!」

「ぱおおおおぉん!」

ブルーエレファントと呼ばれる精霊は、水を司っている様で、周りには様々な大きさの球体状になった水が浮いている。ブルーエレファントもマテリアルに負けじと敵意満々といった様子だ。



化け猫と水辺の巨象のにらみ合い。

さきに痺れを切らしたのはマテリアルだった。

しゃっと先制で、引っ掻き攻撃をした。

が、象の分厚い皮膚は、傷つけられないらしい。

次の瞬間、さっと身を引き、いつでもご主人を守れる、すなわちたくの側に着地した。


戦人バトルジャンキーの間には余計は言葉は必要ないらしい。


お互い、精霊同士の戦いでは決着がつかない事を一瞬で悟り、ブレードを構える。


「勝負はデスマッチ、

 どちらかが壊れるまで行うぅぅ」とパーツハンター。

「ゲス野郎め」と返す




「「シューーートっ!!!!!」」




互いのブレードが地面に放たれる。まるで横一線にかける稲妻の様に、妖艶に。そして2つの線が交わった。



がぎぃぃん!がぎぃぃん!!!!!



LEDと火花が散らされ、死闘の前触れ、予兆が残酷にも香ってくる。









「アンタらさ」「いい歳して」「キモいよ」

自由自在にブレードを操り、死闘を繰り広げる二人に対し、容赦なく優子が続けた。




「なぁぁんだぁぁとお?」

泣く子も黙るパーツハンター。水を司っているのに、水を差された事にもカチンと来たのか、首をぐりんと切り返し、優子を睨みつけた。

が、すぐにそらした。そう優子は美人なのである。


「はぁっ?おまっ、お前さんの、のっ、その?態度がっっほうが、、、」


パーツハンターは、何やらバツの悪そうに、モジモジとし始めた。手で自身の肘や腰を触ったりし、せわしない。ブレードで優子を襲うような、襲わないような、とにかく何とも言えない動きでその場に立ち尽くす。










「普通にキモいよ。」

優子、すかさず、追い打つ。




パーツハンターは、ブレードの回転を手で止め、ポケットに入れた。止める瞬間、しゅっと音が鳴った。

ブルーエレファントは、シュンとした上目遣いで優子を見つめている。



そして、「覚えてろよ」も「すみませんでした」もなく、無言でその場を後にした。もちろんブルーエレファントも。

地下鉄御徒町駅の方面に歩いて行ったので、その沿線沿いに住んでいるのであろう。











なんとなく3人とも喋らない時間がしばらく過ぎたあと、最初に口を開いたのは、まさつぐだった。

「何か、暖かくて上等なものを、食べて帰ろうか。」

俺と優子は、無言の同意をした。



このエピソードを見て分かるように、まさつぐは良く気がきく、イイ奴なのである。

そして優子は、優子なのである。







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