第1章 激動3
「俺と一緒に来る気はないか?」
毎日、しつこいくらいにそう問われ、そろそろ嫌気がさしてきた。どうしてこうもしつこいのか。
鬼の習性なのだろうか。
…だとしたら、最高に迷惑だ。
「ありません。もう治ったのならどこへなりと行ってください。さようなら。」
何度、そう答えただろうかと思ったが考えるだけ無駄だと思い、すぐに打ち消す。
私はこのままでいい。
何も波風立てることなく過ごしたい。
もう、見捨てられるのも居なくなられるのも十分だ。
「ずっとそばに居る。」
「はいはい。」
嘘つき。
心の中でそう呟く。
“ずっと”なんて言葉はないと知っている。
「何をそんなに怖がっている?」
この男はすぐに私の心に土足で踏み入ろうとする。
「…早く、出ていって頂けますか。
素性も知らない男をこれ以上ここに置けませんので。」
できるだけ鬼の瞳を見ないようにして告げる。
すぐに背を向け、傷薬を調合し始める。
鬼はしばらくその場に立ち止まっていたが、これ以上
私が話す気がないのを察したのか立ち去った。
このまま出ていってくれればいいのに…
と心の中で呟く。
簡単に人の心に入ろうとしてくるあの男は怖い。
自分自身ですら目を背けてきたのに。
「私は…」
“私を知られるのが怖い”
声にならない声で呟いた言葉はすぐに空気に溶ける。
誰の耳にも入らない。
それで良い。これからもずっと。
「私は…1人でいい。」