第1章 激動2
「女1人で暮らすのにここはあまり治安が良くないだろう。ここで永住するつもりではないだろう?」
「そうですね。色んな場所を見たいと思っています。」
なおも食い下がるルイと名乗った鬼は1歩距離を縮めてきた。
「でもそれは、1人でという意味です。」
キッパリと言い切った私に鬼が言葉を飲み込む。
他人と関わっていい事はほとんどなかった。
肉親ですらも私を捨てた。
私が信じたのはあの魔女だけ。
それ以外に誰かを信じる気にはなれない。
「…どうしてそんなに頑なに拒む。」
「会ったばかりの他人を受け入れる人は少ないと思いますが。」
「そんな建前が聞きたいんじゃない。」
こんな、めんどくさい男だとは思わなかった。
どうしてそんなに食い下がるのか。私にそんな価値ないでしょう。
どうして…
鬼の瞳はあんなにも真っ直ぐなのだろう。
「…誰も信じたくないからです。1人で生きていくために
私は魔女になった。
…これでいいですか?傷が治ったのなら早く出て行って下さい。」
鬼と私の距離は数メートルしか離れていない。
でも心の距離は遥か遠く、私が近付く事を拒んだ。
「もう少し体力が回復するまでは置いてくれ。」
ふと諦めたように目を閉じた鬼がベッドに戻る。
本当に回復出来ていないのか定かではないが規則正しい寝息が聞こえてきたので胸を撫でた。
「この状況で寝れるなんて強心臓な男…」
ボソリと呟いた声に反応することはなく鬼は私に背を向けたままだった。
それから3日ほどこの鬼は居座ることになる。