第1章 変化2
思わず駆け寄った。
倒れていたのは銀髪の若い男。
見れば至る所に傷があり、中でも腹に大きな切り傷があった。
放っておけば恐らく死に至るような傷だった。
不安そうに町の人達が見ていた。
きっとここでこの男を見捨てたら私はきっとこの町には居られなくなるだろうと直感する。
「大丈夫ですか!?」
久しぶりに大きな声を出した。
だが反応はなく、ぐったりと目を閉じたままだった。
すぐに体を支え、町の人たちの手を借りて店のソファまで運んだ。
恐らく怪我をしてからしばらく歩いてここまで来たのだろう。
まずは傷の状態を見ていく。
やはり腹の傷が深く出血もほとんど止まっていないせいで血が足りていないのだろうと推測された。
まるで鋭い刃で切り裂かれたような傷から大量に血が流れ出ていた。
止血のためにガーゼで圧迫するがすぐに血で染まってしまい、この状態で薬を塗っても無意味。
魔法を使えば止血できるが人目がある今は…
と躊躇っていると男が少し身動ぎ、目を開けた。
「魔女…?」
「…っ!?」
小さな声だったから周りに聞こえることはなかったが
一瞬反応出来なかった。
「…血が欲しい。」
この男は“血が欲しい”と言った。
その瞬間に私はこの男が人間で無いことを悟った。
人間ならば死を覚悟する程の傷。
しかし人間でなく鬼ならば…
魔力を持った魔女の血で回復することが出来る。
放っておけばこの日常が崩れることは無い。
私は一言言えばいい。
「傷が深すぎる…」その一言で終わる。
見捨ててしまえば良かった。
この日常を守ることが1番だと分かっていた。
だけど… ー




