第1章 追憶
魔力を持たない父と母は私を恐れた。
物心ついた頃にすでに意のままに水を操ることが出来た私は、家の近くにあった湖で溺れた子どもを助けた。
小さな村だった。
閉鎖的で自分たちの生活を脅かす可能性のあるものを排除したかったのだろう。
次の日には家にあった私の荷物は全て捨てられ、
何も弁解する間もなく村も追い出された。
急に1人になった私は途方に暮れた。
住む場所もなく、助けてくれる人も居なくなってしまった。
心細さと悲しさでしばらく動くことが出来なかった。
いくら待てども誰も助けに来てはくれなかった。
私は数日後にようやく1人で生きる決意をした。
そして、誰にも会わない場所に行こうと思った。
村の外れにある森の中に入り、見つけた果物や木の実を食べて食いつなぎ、水だけで過ごす日もあったが、
生きていた。
魔力を持っていたことが幸いして水にだけは困らなかったが、夜になり辺りが暗くなると動物たちの息遣いが聞こえてくるような気がして怖くて眠ることが出来なかった。
そんな生活をしばらく続けたある日のこと。
足音が聞こえて辺りを警戒していると、人が立っていた。ローブを被り顔が見えないため男女の区別も出来ず、ただじっと距離をとってその人を見つめた。
相手も私をじっと見ていたが、口を開いたかと思えば
「魔力持ちの娘か。」と呟いた。
何も答えることのできない私にその人は
「居場所が欲しくないか」と言った。
ー欲しい。
1人は辛い。寂しい。怖い。
「欲しい。」
久しぶりに発した声は酷く掠れていたがちゃんと届いたらしい。
その人はローブを外して近づいてきた。
ああ、老婆だったのかと納得していると老婆は私に言った。
「ならばこれからお前は魔女として生きなさい。」
その言葉と共に私は見知らぬ場所にいた。
そして老婆は私に魔法や薬の作り方を教えた。老婆は強い魔女だったらしいが衰えてしまったので後継を探していたと私に言った。
魔女として生きる術を教えてもらい、2人での生活に慣れてきた頃、老婆は静かに息を引き取った。
また、1人になった私は他の魔女からは受け入れられなかった。
長い間、教わった魔法を磨き、薬を作り続けた。
ー いつの日か私は“水の魔女”と呼ばれるようになった。
ー 自分の名前も捨てて、人間であった頃も忘れた私は
“水の魔女”として生きていくと決めた。