第2章 鬼ノ国
「だから…嫌だったの…。」
へたりと座り込んでぼそりと呟く。
日常が壊れることへの恐怖は強かった。
急激な変化は怖く、良いことなど今まで1度もなかった。
「何も話さず連れてきたこと、申し訳ないと思っている。だが、話しても頷いてはくれなかっただろう…?」
鬼がしゃがみ、私に目を合わせてくる。
今まで誘いを断る者などいなかったのだろう。
今までにない反応を見せた私に興味がわいた、
それだけだろう。
その証拠に後ろに立つ女がずっと睨んでいる。
まるで恋敵のように。
「…あなたが何者かも知らされないまま、嫁に来いと?」
精一杯の虚勢だった。
せめて自分の立ち位置くらい知らせてくれてもいいはず。
「俺は…名をアル・ルードリウス。この鬼の国の次期王だ…。」
どうせそんなことだろうと思った。
思ったけれど、違えばいいと思っていた。
この鬼は正気なのだろうか。
私は魔女で、鬼たちと対立する立場にあるはずなのに。
魔女と鬼が対立するのには理由があった。
鬼は月に1度魔力補給が必要になる。
そのために魔力持ちの人間もしくは魔女から血を貰わなければならない。
魔女たちは鬼に捕まれば餌として一生魔力を搾取され続けると語られ、鬼避けの札があるくらい忌避すべき者とされている。
一方鬼は、魔力持ちの者に出会えなければ死ぬこともあり、急務とされている。特に成人してからは必ず必要になる為、見つけ次第すぐに囲うように教育されている。
「この方は歴代でも最強と謳われている。
お前のような下位の魔女が娶って頂けることに感謝しろ。」
女の鬼が蔑むように口走る。
表情からも全く歓迎するようには思えない。
それに、私も。
「…へぇ…歴代最強の鬼なのに、人間の町で深手を負って倒れるなんて随分と歴代最強って安い称号なのね。」
「なっ!!!
貴様!下位の魔女の分際でそのような虚言を吐くな!」
激高する女の鬼を見て嘲るように笑う。
見えない位置で手を動かし水を操る。
「嘘だと思うなら、そこの鬼に聞いてみれば良いでしょう。」
薄く水を広げ、ゆっくりと女の鬼と男の鬼の足元へ移動させる。
「それから、1つ訂正したいのだけど。
…私は“水の魔女”序列第4位よ。」
その言葉と同時に水を足元に絡みつかせ凍らせる。
動けなくなったのを確認してすぐに窓に向かって走り出す。
女の声を無視してそのまま窓から飛び出した。
久しぶりの投稿になってしまいました…
頑張ります。




