妖精騎士との再会
「はあ、はあっ………う、ぐぐ……」
槍を支えに歩き続けて数km。負傷した状態では流石に長く感じるのか街に近付くにつれ足は強く痛みを増していった。
何とか街には辿り着いたが────早く治療を受けた方が良いな、と診療所を探す。……が、初めて訪れた場所の地理など知るはずも無く、仕方が無いので宿探しの前に近くにあったベンチに座って足を休める事にした。
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「…はあ、さっきよりはマシになったかな………あてて」
休んで多少マシになったと思い立ち上がったものの、まだ痛む。
(これじゃ明日の船便には間に合わなさそうだな)
結局留まらなくても一日遅れか、と溜息をついた。
(でも早く宿を見つけて診療所にもまず行かないと。それと腹も減ってきてるし飯を食べないとな)
我慢すれば悪化する位は分かってはいるが、ずっとこのままでいる訳にもいかないと残る痛みを我慢して立ち上がった。
「~わっ」
立ち上がって前に進んだのと同時に、何かにぶつかってしまう。
荷物を気に掛けていたせいでどうやらすぐ前の方に何かがある事に気付けなかった様だ。
「…………。」
「…???あれ~…?」
──ぶつかった何かの正体はどうやらヒトだったらしい。…が、よく見ると長耳でありヒトと言うよりはエルフの様な種族の様だ。
見覚えがあるらしい両者は、少しの沈黙と困惑を経て片方が喋り出す。
「…公国の時以来じゃないか」真っ先に喋ったのは長耳の青年の方。サザの事をちゃんと覚えていたらしく、一瞬だけ眉を顰めてからいつもの表情に戻る。
「あ~!!やっぱり!!!所蔵館以来だな!!久し振り!!!!」
見知った人物との再会に思わずサザは痛みを一瞬だけ忘れて、めいいっぱいの笑顔を見せてからやや強めに青年の肩をバシバシと叩く。
「痛いのだが」
思いの外元気そうに振る舞うサザの行動にしかめっ面を浮かべて痛いと言った。
「君は何故ここにいるんだ」
「いや~俺実は次の大陸に行こうと思ってね!!やーっとここに着いたって訳!!」
へへへ…と緩んだ笑顔を見せるサザの様子に呆れつつ、長耳の青年はふと彼の足へ視線を向けた。
───震えている。よく見るとあちこち傷だらけじゃないか。
ここに来るまでの間に彼の身に何があったのだろうか…
…と長耳の青年が思っていると、サザから急に話題を振られてしまう。
「~あー所でさ~ちょっとさ~…診療所がどの辺とかオススメの宿屋とか食堂とか教えてくれないかな~何か色々と馴れ馴れしくって悪いんだけどさ、はは…」
「……。診療所?すまないがあまり滞在していないから存じない。宿と食堂なら案内出来るが……」
「あー…やっぱ診療所は無理かー……怪我診てもらおうと思ったんだけどなあ」
そうかあ、と仕方無さそうに振る舞うサザの姿を見て、青年は少しだけ憐れに思ったらしい。
「そこに座ってじっとしていてくれ」と言ってサザをベンチに座らせると、足元の傷に触れない程度に手を近付け、魔術の様な力を行使し彼の傷を癒やしてゆく。
「…………!!」
サザは初めて受けた治癒の力に、思わず感嘆の意を見せる。
治癒は寄宿学校の校長であり聖堂院の聖女であるレメトの得意分野だ。サザは寄宿学校時代にレメトの聖女としての務めをその目で見た事がある。だが、治癒を直接受けたのは今回が初めてだった。
(これが治癒の力なんだな……傷の所が暖かく感じる)
レメトの治癒の力は長耳の青年の様に魔術に由来しているものじゃないのかもしれないが、特性上もしかしたら似ているのかもしれない。
「──ほら終わった。よし、もう普通に歩ける筈だ。…ただし、あまり無理はしないでくれ。治したのは一番酷かった足の方だけだからな」
長耳の青年は手をパンッと叩いてほこりを払うと、スッとすぐに立ち上がる。
「──それと、宿はこの先真っ直ぐ行くんだ。食堂も併設されている。もし気分転換に洒落た場所が良いなら海沿いの方に行けば良い」
先程のサザの言葉を思い出して長耳の青年が宿と食堂の場所を伝えてから踵を返した。
「あっ、ちょっと、あんたの名前は────」
青年のあっさりとした一連の流れからはっと我に帰ったサザが慌てて立ち上がってその名を聞こうとしたが───
「再会出来たんだ、縁があればまた会えるさ」
名前はその時に、と付け加えて青年は何処かへと立ち去ってしまった。
────そうして、その場に残ったのはサザ一人となり、活気に満ちる港町の中に青年の背姿は消えていった。