この男に処罰を!!
───女性に迫られたのを跳ね除けたあの出来事から、目まぐるしい程に物事は早く展開していった。
貞操は守れたが、代わりに捕縛されてしまった。
サザは村の中央で縄に縛られた姿となり、村のベルディアン達に囲まれている。
「原生のこの人間は汚らわしいナイエスの民の分際で我々高貴なるベルディアンの仲間を凌辱し、汚そうとした」
「我々の領地に入り込んだだけでも不愉快極まりない…」
「その上、我等の仲間を犯そうとするとは───何たる猿の如し!!」
先程のシラサイを含め、三人のベルディアンの女性が険しい表情でサザを睨み付ける。
シラサイ、スィオヤ、アーラスィーオ。三人の女性は、あのユウカの忠実な幹部らしい。
「シラサイ、この汚らわしい男をどうする?」
「いいや!!即刻この場で我々が処罰すべきだ!!!」
シラサイの両隣に立つスィオヤとアーラスィーオの二人がそれぞれに意見を述べる。
「………シフォ様に直接ご判断を頂こう」
最初の決定を下したのはシラサイ本人だった。彼女は、村の長であるユウカに直接処分を仰ぐ事にしたのだ。
幹部の中でシラサイの言葉が一番らしく───残る二人も小さく頷いた。
──サザは辺りを見回したが、どこもかしこも皆ベルディアンの人間ばかり。
見回してふと先程の女性の姿が目に入り恨めしそうに見るが───女性は、気まずそうに視線を外してサッと身を隠した。
(くそ…見事にはめられたのか……!!)サザはベルディアン絡みになるととことん運が無い事をただただ悔やんだ。ノマド族の少女オリュザを助けた時の様な妙な感覚も、助けも、勿論無い。
どうなるんだろう、と思っていると、奥の方から誰かがこちらに向かってくる。その姿を見たらしい野次馬のベルディアン達が皆一斉に身を引いてかしずく。
「………。この男ですか」
鈴が転がる様に愛らしいが水を打つ様に涼しいを越して氷の様に冷たい声。ユウカだ。あの異様な光景の主の、ユウカ。
「ふぅ…こんな夜に私を起こしてくるとは何事かと思いましたが、…成程。この男が私の村民を犯そうとしたのですね?」
「はい」
ユウカの問いに、シラサイが短く答える。
サザをジロジロと見つめるユウカの姿は、長い髪に乱れ一つも無く、昼頃に見た姿とはまた違って艶かしく淫らな姿をしている。
そして彼女が身に着けていた服は、ほんの少しでも風が吹けばあっさりめくれてしまう程薄く、衣服とは到底言えなさそうな程に透けたものだった。
どうやら下着の類は一切身に着けておらず、一枚だけの薄布が辛うじて彼女の裸体を守っている、といった程度の様だ。
どの道月明かりに照らされただけでも、その淫靡な裸体は晒されてしまうのだが────
清純な姿とは真逆の、蠱惑的な大人の姿を目の当たりにしたサザは、あまりにも突飛な姿にあんぐりとただ見るだけだった。
「無礼者!!我等がシフォ様の穢れ無き御体を貴様の様な醜い原生の者が見れると思うなっ!!!」
アーラスィーオが手持ちの杖でサザの顔を強く殴る。
「…っ!!」
『!!!』
サザが殴られた時、野次馬のベルディアン達はあっと驚いた様だった。
「……!」
サザの中で怒りがブワッと湧き上がるが、必死にこらえる。
「貴様!!まだ生意気な態度を……!!!」
「アーラ!!やめなさい!!!」
サザの態度に更に怒りを見せたアーラスィーオが杖を持つ手を大きく振り上げてより強く殴ろうとした時、シラサイが彼女をたしなめた。
「シフォ様が御前に在らせられるのですよ!!みっともない姿をシフォ様の御目に晒させるつもりですか!!!!!」
「!!これは…!!申し訳ありません、シフォ様」
シラサイの言葉にハッとして、アーラスィーオは頭を下げて弁えた。
「…いいえ。構いませんよ、アーラスィーオ。あなたの行動は私を想っての正義の行動なのでしょう?」
「勿体無き御言葉にございます……」
ユウカの言葉に、アーラスィーオはより深く頭を下げる。
「…ナイエスの民。我々尊きシルフェーン達の末裔たる女神の民の領地に踏み入り、更に民を汚そうとした罪は万死に値するものです」
ユウカが冷たく、サザへ告げる。
「……………………」
「…。しかし私は優しいので汚らわしいあなたへ対し情状酌量の余地と見なしましょう」
ユウカの予想外の言葉にシラサイ達もえっと驚いたが、
「ですが…罪は罪。本来あなたの行為はナイエスの民から私達へ対する宣戦布告と言って良いもの……。先も仰いましたが私は優しいので情状酌量の余地と見なしあなたへの処罰は私達の偉大なるシルフェーン様への贄という処罰で済ませる事にします」
ユウカが言い切った言葉は、恐ろしいものだった。
女神シルフェーンへの贄としてサザを供える、というものだった。
「贄……………………」
「はははっ、そうだ!!お前は我等が女神シルフェーン様への供物として殺されるんだ!!!」
三人の中で最も憤っていたアーラスィーオが喜々としてサザに説明する。大きく見開いた目をサザに強く向け、顔を近付けながら。
「……。しかし今はまだ深夜ではありません。刻が闇を満たす時に実行しましょう。スィオヤ、アーラスィーオ、私は一度閨に戻ります。供として一緒に来て」
ユウカは残酷に告げ終え、スィオヤとアーラスィーオを伴って寝所に戻っていった。
場には野次馬のベルディアン達と晒し者にされているサザ、そして三人の中でただ一人シラサイが残った。
「贄の儀は深夜に行われる。あと三時間後程だ」
シラサイもまた、ユウカに劣らぬ冷たい声でサザに残酷な未来を話す。
「あなたの犯した罪は海よりも深く、重い」
耳元でそう囁いた後、シラサイもユウカ達が戻った方角へ去っていった。
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───あと三時間。
サザはどうにかしてこの村から離れようと考える。しかし身体を縄で縛られ、更に武器を含めた荷物まで全て取り上げられてしまっていて何も出来ない。
(どうしたもんかなぁ…)
先程身を隠したあの女性はもういない。野次馬達が立ち去るにつれがらりとした寂しい広場になってゆく時に確認済みだ。
助けも呼べず、引き返せもしない。せめて時間が巻き戻せたら良いのに…と、諦めと三時間後への覚悟を抱くのだった。