教団村の夜と贄
「はあ~、結局一晩泊まる事になっちゃったよ…」
ポリポリと後頭部を掻きながら、サザは困った様に呟く。
「お食事を用意しましたわ」
一室のカーテンを開けて、先程の女性が食事を運んでくる。
「どうぞ、お口に合うかしら?」
「……ありがとうございます」
とは言え、何が入っているか分からない。妙な薬かもしれないし、もしかしたら毒かもしれない。
「あら…?もしかして手を怪我していらっしゃるとか?…なら口を開けてくださいな。はい、あーん」
警戒して手を付けずにいると、女性は強引に食べさせようとしてきたではないか。
「いいですいいです!!俺独りじゃないと食べるの苦手なだけです!!!!」
このままだと絶対食わされる────
苦しい言い訳をして、何とかかわそうとする。
「…。そうでしたか。ごめんなさい、つい……」
一応理解してくれたのか、女性は足早にその場から立ち去る。ほんの一瞬、寂しそうな表情を浮かべていた。
(…………?)
本当に小さな、小さなものであったが、寂しそうな表情から感じた、タカ村の光景に感じたものとは別の違和感にサザは眉をひそめた。
********
──────
────タカ村で過ごす夜。何時か過ごしたノマディアの夜とは異なり、明るいながらも形作られた影が不気味な雰囲気を醸し出していた。
(間に合うかなあ…)窓辺から差し込む月明かりが眠れないサザに寄り添う。
エイヌスから要注意人物扱いされたシフォ様──改め、ユウカが治める村で一晩を過ごす事になろうとは思いもよらなかった。
(はあ…災難だなあ……)
一晩過ごせば後は、と仕方無く目を閉じて寝ようとした時、下腹部に重みを感じる。
「……………………!?」
何だ!?とサザは重みを感じた先へ、少しだけ顔を上げて見る。
ゴソゴソ、と何かご動いているのは確かであり、もう少し顔を上げると───先程の女性だった。
「!?何だ!!?」
ぎょっとして飛び起きたサザを相手に、女性は熱に浮かされた様な眼差しと蕩けた表情を浮かべて見つめてくる。
「はぁ……っ…ずっと…待ち侘びてました……あなた………」
「!?」
女性の眼差しには、別の誰かが映っている。
女性はサザの戸惑いも構わず彼に馬乗りになって迫る。
「あなたぁ……私、ずっとずっとずっとずっと…帰ってくるのを待ってたんですよ………どうして遅くなったのですか…?」
「いや、俺は………!!」
「帰りを待つ間、私、寂しかったんだからぁ………」
サザの映らない瞳には彼の姿は望んだ相手に見えているのだろう。彼の言葉も届いていない。
「ほら…見て……私、誰のものでも無いわ…あなただけって決めてるもの…私の純潔を見て……」
白い衣服をたくし上げて、その中のものを見せる。
「───~っえええ!!?!?」
突然見せられた女性のものに思わず手で顔を覆い隠すが、女性は優しくその手を掴み、自身の下腹部へ誘おうとする。
「───や、やめ、」
サザの手がそこに触れようとした瞬間────
「─────やめてくれっ!!!」
強くその手を振り払う。女性に対して乱暴な振る舞いはしてはいけない、と寄宿学校時代に学んだが、そんなサザでも思わず乱暴な振る舞いをしてしまう程だった。
「あ…あなた……───はっ…」
女性は目が覚めたのか、目の前の男性が別の人物である事に酷く困惑している。
「あ……ああ……ごめんなさいごめんなさい、旅の方でしたわね…私…何て事を……………」
自分がしようとした事に恐れを生じたのか、ぶるぶると震えてごめんなさいをぶつぶつと呟き続ける。
「……いや、乱暴な振る舞いをしてごめん、こういうの慣れてなかったし…えーと…未遂なんだから大丈夫だって!」
ぶつぶつ呟く女性を何とか宥めようと「未遂だから大丈夫だ」「あんたは悪くない」と声を掛け続けるが───声はやはり届かない。
───更に最悪な事態に陥る。
「何事ですか!!」バン!!と戸を開けてズカズカと入り込んできた複数のベルディアン達と、その中に一人──明らかに他のベルディアンよりは豪華な装飾を身に着けている女性が立っていた。声の主だろう。
「シラサイ様!?」
女性が驚きと共に出た「シラサイ様」とやらが、目の前の光景を鋭い目つきで見つめていた──────