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そして僕達は宇宙が落ちる日を夢見た  作者: ToToME@豆味
サザ、其れは夢を見る若獅子
20/29

堕ちたる暴風、血に溶ける

────傲慢でも良い。絶望を乗り越えられる力を。


初めて目の当たりにした絶望に、サザは強く望む。

天を仰ぎ、空を包み隠す暗雲と暴風を打ち破れる強さを。





そしてサザの所に大きな(つぶて)が飛来し今にも彼の命を奪おうとしていた。

(ああ────────)

全ての覚悟を胸に、彼はぐっと目を閉じた。





──青年の望みが引き起こしたのか、暗雲立ち込める空の一部に穴が空き、天上の光が差し込む。

そしてその穴から、天の燃える星───まるで()()()()の様に"何か"が落ちてくる。




「─────ッ!?」

轟音が迫りゆくにつれ、異変に気付いたエリナが振り返り上空を見上げる。

燃え上がる流星のようなものはエリナを、レオを目指して飛んで来ていた。

「レオ!!!」エリナの叫び声にレオが反応したが、サザに礫が当たるよりも明らかに早く────────





─────〜ギャオォォオオォォォォォッ!!?!?





レオが翼を広げ己と主であるエリナの身を守ろうとしたが、天より落ちたる「長柄の武器」はレオの翼すら貫き───レオの身体を打ち破った。

「レオぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

エリナが叫ぶ。身体を貫かれ致命傷を負った獅子竜は力を失い、主と共に地に落ちる。


「きゃああっ!!!」

幸いにもレオの身体がクッションとなり命拾いした様だったが、戦力とも呼べる存在を失った事でエリナは自暴自棄に陥る。



…荒ぶる風は消え、血の海に横たわる竜と、女。

「〜なんでっなんでなんでなんでなんでなんでっっ!!!私がこんなっっ有り得ないっ!!レオ!!起きなさいレオ!!!主である私の命令に従いなさいレオっシフォ様に見捨てられたくないっシフォ様に認められなきゃ駄目なの!!!ゴミが私なんか殺せなんかしない!!!!!」

情緒が不安定になりつつあるらしく、髪をかきむしったりダラダラと冷や汗を流している。

「立ってよっ立ってよっ立ってよっっ!!!私の言うことが聞けないのっレオ!!!!!」

エリナはレオの身体を何度も何度も殴り付ける。





 ********





──一方で、サザの目の前には光り輝く長柄の武器が一つ。


「……………………。」

その異様で、神々しい"それ"は天の光に曝されて輝いている様に見えた。




レオを打ち破った、天からの飛来物。

サザはそれが最初から自分のものであったと錯覚してしまう程には心を奪われたかの様になり、そして漠然と"それ"を手に取った。

「…………これは……………………」

何なのかは考えられなかった。でも、それが確かに自分が望んだ事で落ちてきたんだと確信する。

赤い刃。穂先が紡ぐ黄金。





「………そのゴミが、レオを殺した…………………許せない…っ、許せない、許せない。許せない!!!ッッッ許せない!!!!!アアアアッ、ああぁ!!!ふざけるなっふざけるなっふざけるなっふざけるなっふざけるなっふざけるなっふざけるなっふざけるなっふざけるなっシフォ様に泥をっシフォ様の前のゴミはっっっこうなったらっ」

エリナは身に着けていた首飾りを大きくさせて───一つの槍の様な武器を出した。

「私にはっ3つの風を呼び出す事だって出来るっっ、ッ、惨たらしく切り刻める風、髄まで焼き尽くす炎の風、筋を引きちぎる程の雷の風!!〜っうううううっ!!!殺してやるっ!!絶対に殺してっ、やっるっっ!!」

どうせゴミに殺されるなら、とエリナは震える手で武器を振り回して、サザに襲い掛かる。




だがサザは手に取った"武器"でエリナを刺し貫く事はせず、エリナの武器を吹き飛ばして軽く彼女を殴った。

─エリナは小さな悲鳴を上げるとレオの血の海の中にべしゃりと転げ回った。





 ********





───勝敗は決した。


「ふふふ…ふ………それで……私を…殺さなかった事が…あなたの、傲慢………ね…」

血の海の中でエリナがサザの罪に触れた。

「―――。答えろ。獅子竜レオは、お前達ベルディアンの信仰する女神ってのは、何なんだ。…………お前達の目的は、一体何なんだ」



「…答えろ?――は。そんな事。…その程度の事」

「言えよ。あんたが知ってる限りの事を」

サザがエリナに近付いた瞬間、エリナの目はギラリと光った。




「教えてやるわ!!でもお前も道連れよ!!!」

…まだ()()()を隠し持っていたらしい。エリナは急に飛び上がりナイフをサザの心臓に突き刺そうと狂気的な笑みを浮かべる。


──しかしその瞬間、

ダァァァンッ!!

と大きな銃声が響いた。エイヌスだ。どうやら目を覚ましたらしい。





「……ふう、若造、なんで抵抗しないんだい。危うくその女に殺されるところだったじゃないか」

「…何と無く大丈夫だと思ったんだ」

サザの答えに、はっ、そうかいそうかい。と呆れた様に返した。


「あ……………あ…あ…………………………………………………」

エリナは己の身体に空いた穴に触れ、そしてぬるりとした感触に引きつった叫びを上げた。

「ぎぃっひっぎひゃっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!あああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」

血の海の中で叫び、両手足をバタつかせてひとしきり暴れた後、徐々に力が無くなってきたのかエリナは静かに横たわる。




「うふ…うふふ……………」虫の息であるにも関わらず、エリナは不気味に笑う。





「レオ…は、私達が女神様から与えられた技術(ちから)で生み出されたモノ……………。大いなる、エズケス様、に…祝福された、あらゆる全能を持った、女神…シル…フェリ……オ……………様……の……………………」




―――そう打ち明けると、エリナは事切れた。そして、溢れ出た彼女の血はレオから溢れ出る血と混ざると同時に沸騰し、やがて彼女自身の身体を溶かした。


骨すら残さずに、レオと共にエリナは消滅した。





 ********





「溶けた…………」

サザは目の前の出来事をただ傍観するしか出来なかった。血の海の中で、沸騰する血液に溶かされ、血の海のみを残して消えたベルディアンの女と人造の竜。


「全く………お騒がせなモノだったねぇ」

エイヌスは悪態をついて、いつの間にか煙草を吸っていた。

「お騒がせって……って!?ばーちゃん大丈夫か!!?」


「あたしは大丈夫だよ若造、いや、サザか。確かに気は失ったがあの程度なんかで死にゃしないよ」

エイヌスはヤワじゃない、と笑いながら答えた。





「それにしても、アンタ………「選ばれた」んじゃないのかね」

彼女はサザが持っている赤刃(しゃくじん)の武器へ視線を送る。

「…選ばれた?」

言葉の意味がいまいち分かっていないサザは、その意味を老婆に訊ねた。


「アンタの武器は投げた時にあそこ、ほらかなり上の崖に刺さっちまったろ。あの様子じゃもう抜けないだろうね。──でも、そんなアンタの前に()()が今あるんだ。きっと、ナイエス様がアンタに慈悲をやったんだろうね」

エイヌスは槍のある崖を指差し、そして改めてサザが持つ()()を指差す。





「……。俺が…「選ばれた」…………か」

少しだけ複雑そうな表情を浮かべて、サザは手の内にある赤刃の武器を眺めた。

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