天駆けて無窮より来たる竜
──無風の領域へ武器を投げる────!
サザの槍は最初は勢いこそあったが、風に圧され次第に弱まってゆく。
しかしエイヌスがすかさず撃ち、見事に当たって勢いを取り戻した。
「なっ!!」
エリナは顔を歪ませて投げ付けられた武器を見た。
「~させないっ!!わよ!!!」
エリナもエリナだ。そう簡単に破られては堪らない。風の壁を上手くすり抜けて飛んできたささの槍を、すぐに風を操り軌道を変える。
──ヒュンッッ!!
風によって軌道を変えられた槍は、更に風の勢いも付けて崖の方へ突き刺さった。
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「~っはん!見なさい!!あなた達の思惑なんか私達には通用しないわ!!!」
エリナはこれでもかという位勝ち誇った表情を浮かべ、サザ達を見下した。
そこにエイヌスが勇み出て、エリナを煽る。
「…ふん、アンタは自分の優位性ばっかりで、細かい所には気付かないんだねえ。よぉっく見てみな!!アンタの上の方をな!!!!」
エイヌスが指を突き立てる。
「え───?」
エリナは一瞬の内に暗くなった視界に、エイヌスの言葉通り上を見た。
──槍が刺さった事で崩れた崖の一部が、エリナとレオに向かって降り注ぐ────────
───ズシャァァァァァァ!!ガラガラッ、ゴゴゴゴ、ガラッ!!!!
「きゃあああああああっ!!」
エリナはぱっと本能的に腕を振り上げ、己の身を庇おうとする。
「助けなさい!!レオ!!!」
エリナの叫び声にレオが反応し、翼がエリナを覆った。
───パラパラと瓦礫が落ちる。レオの翼に匿われてエリナには傷一つも付いていなかった。
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「ぷっ……あっ…ははは!!見なさいよ!!これがレオの優れた所よ!!頑丈な身体!!主の命令に従う従順さ!!!女神の民こそ全ての支配に相応しい!!!!!」
エリナは勝ち誇った様に笑い、そしてレオに命令を下す。
「さあレオ、やっちゃいましょ!!生意気なゴミなんかが形勢なんて逆転出来る訳が無いんだから!!」
サザ達を指差し、彼女は詠唱する。
「──"天駆"け、"無"窮より来たれ…風の"竜"!!汝の名は"レオ"、暴風を伴う神の化身が如く!我等の敵を滅ぼしなさい!!!」
詠唱と共にレオは唸り、巨大な竜巻をあちこちに引き起こす。
─嵐の谷の暗い風が叫ぶ。エリナの瞳には勝利と栄光だけが輝いていた。
(くそ…こんな暴風、敵う訳が……!)
サザはエイヌスと共に状況を乗り越える事を考えようとしたが、突如として暴風に巻かれ飛んできた礫がエイヌスの頭を打った。
「ぐゥぅッ!!」
「ばーちゃん!?」
勢いが強過ぎた為なのか、エイヌスは気を失ってしまう。その頭からは血が流れ落ちていた。
(くそ────────)
絶望的な状況を呼び込まれ、サザは苦い表情で天を見上げた。
(力さえあれば────────)
例え一時のこの望みが、傲慢だと言われても────