不純物の混在
暴風に圧されて踏み出す事もままならない────
「くそ…このままじゃばーちゃんも俺も殺されちまう!!」
サザは唇をぐっと噛み締め、歯痒そうにエリナとレオを見る。
(せめて…風の弱い所さえ分かれば……!!)
風がもたらす乾きと砂塵に目をやられない様に防ぎつつ風の弱い部分を探す。しかしエリナとレオの周囲はまるで台風の様に強力で、「目」である彼女達に到底届きはしない。
(真上に武器を投げた所で、あいつ等の所に落ちるとは限らないし………!!)
ちらりとエイヌスの武器に視線を送るが、この風圧ではエイヌスの武器でさえ彼女達には届かない。敵わない相手だ、と悟りそうになった時、サザはふと思い浮かべる──
──あんなに高慢な振る舞いをしているんだ、煽られたら乗るかもしれない。
…思い立ったなら。
「そうよ!!私がそのザコでカスの不死族のババアを殺せば、私はシフォ様に認められ私の立場はもっと確固たるものになるのよ…!!」
エリナの瞳は権力欲、野心に満たされた。
「全部自分の立場のためかよ!!…ふん、結局欲まみれの人間と同じだな!!!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!?なんですってえぇぇ!!?アルターの下等な人間共と一緒にしないで!!」
汚らわしい汚らわしい汚らわしい!!!!!とエリナは乱暴に吐き捨てる。
「ああもう腹が立つ!!だから邪魔なのよ下等な人間なんて!!アンタも邪魔するんでしょ!殺してやるわ!!!」
そしてエリナの表情に強い怒りが宿る。
「レオ!やってしまいなさい!!早くアイツらを殺してしまえ!!!!!」
「グオォォォァァァァァ…!!!」
竜の咆哮が、一際響いた────────
「天駆無竜!!さあ!!REOに相応しい力を見せつけてあげるわっ!!!!!」
あはははははははっー!!とエリナの笑う声は鋭い風の音に混ざる。
まるで馬上槍の様に風は収束し、サザ達へ突撃を繰り返す。
暴風の勢いはより激しく、しかし乱雑になり行く手をかき乱した。
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「何してんだい!!」
サザの意図を知らないエイヌスは彼の行為に焦りを含んだ怒りをぶつけた。
(………何処だ…………あれは……………………)
エイヌスが咎めているのをよそに、サザはある場所を探す。
(きっと、きっとあるはずなんだ…!!)
じっくり、レオの巻き起こす風の中を見つめる。必ずあるはずだ。無風になっている場所が────────
(──────────!!)
見つけた。サザの視界の中に、薄っすらとだが「無風に限りなく近い領域」が見えた。
(あの場所だけ風が薄いぞ…!!あそこを上手く狙えば、エリナって奴はともかく───レオには当たるかもしれない!)
サザはエイヌスに目配せをする。
(ばーちゃん、気付いてくれよ)
──だが、サザの目配せから目的を察したエイヌスが逆に目配せでサザに伝える。
(そのやり方じゃ駄目だよ若造。)
エイヌスからのまさかの返しにサザが驚く。しかしすぐエイヌスが目配せで語る。
(──良いかい。アンタは「アタシの銃」でその風の弱いエリアを狙わせるつもりだろうけど、それじゃ弱い。武器を投げな。アンタの武器の方が重みがある分風に対抗出来るよ。アタシが武器を撃つから安心しな、推進力は何とかしてやろうじゃないかい)
(え───でも俺の武器の方がデカいし重……)
(アタシがピンポイントで当ててやるとも。あたしゃ300年以上銃を使ってるんだ、それ位朝飯前さね。推進力があれば何とかなるもんだよ。それに───アンタが見た所は、風が渦を巻いているから…成功すれば奴さんの方に飛んでくれるかもしれないし、もし外されても───あれなら上手くいくかもしれないねえ)
エイヌスはニヤリ、と笑ってサザに目配せをした。
「~あっはははははは!!シフォ様!!シフォ様!!シフォ様万歳ですわ!!!今愛しの貴女様へゴミクズ共の首を捧げます───」
恍惚に微笑むエリナの瞳と唇は潤い、天を仰ぎながら「シフォ様」とやらへの祈りを捧げている。
「どうかそのお麗しい眼差しで私をとろかせて下さい────!」
レオの咆哮はより一層強く、風は増した。──だが無風の領域は変わらず、サザはエイヌスへ最後の目配せをしてから武器を投げ付けた。