猛進する獅子竜
──禍々しくもあり、神々しくもある竜がサザとエイヌスの前に降臨する。
「ほーら!!凄いでしょっっ!?ベルディアンとソフィミアンの技術で造り出された"レオ"ならあなた達なんて塵すら残さないわ!!!」
よく見ると竜の背に──ベルディアンらしき女性が乗っている。彼女は自信に満ち溢れ、己が手繰る竜の力強さに誇りを主張した。
「レオ………」
慢心に満ちたベルディアンの女性は、サザ達を笑い見下す様に口の両端を吊り上げている。
「私はエリナ!暴風を愛するエリナ・マ・トゥモト!!崇高なるシフォ様からのご命令でそこの不死族のババアを殺しに来たわ!!!」
女の名前はエリナというらしい───エリナは、エイヌスを指差して答える。
「にしてもそこの不死族のババア一人だけだったら楽だったのに………水を差すように若い男がいるなんてね」
エリナは舞台女優の様にオーバーリアクションで呆れ、そしてサザへの嫌悪を丸出しにした。
「〜ああ!!汚らわしい!!女神の民以外の男だなんて!!想定外だけど〜…崇高にして甘美なシフォ様の前には、ネズミ一匹いてはならないもの!!!」
あっはははは!!と声高に笑うエリナをよそに、エイヌスは一匹の竜を鋭く見つめていた。
「レオ……」エイヌスが忌々しそうにその名前を呟く。
「ばーちゃん…「レオ」って?」
「トンチキベルディアン共が科学的なもんが大好きなソフィミアン共達と共謀して造った生物兵器さ。――「レオ」っつのは"Rage Execution Option"の頭文字を取った略称だよ」
レオ。「Rage Execution Option」の頭文字を取り命名されたその名が意味するのは「憤怒実行プログラム」
…………名の割に無機質さは無く、寧ろ威厳にさえ満ちたそれは、生物兵器として創られた「竜」だからこそだろうか。
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「うふふっ!!そうよ!!あなたと同じ"獅子"!!!天を駆け、無二の竜!!勇猛な獅子竜、レオ!!!!!」
ベルディアンの女性、エリナは飛翔する獅子竜の上に立ち、サザを見下ろして自信満々に叫ぶ。
「あなた達不死族はナイエスの加護を与えられた忌々しい種族!!そう簡単に死にはしない――――だけど」
エリナは身をわなわなと震わせ、怒りは呼吸と共に、そして少しずつ溜める。
「唯一、あなた達には弱点がある―――「明確で純粋な殺意のみを持った存在に完全に殺される事」一つ!!!!!不死族は純粋な殺意を持つ者に徹底的に殺される事で死ぬ!!」
エリナは自信満々に答え、そして─────ゆらりと揺れる、不気味な雰囲気のエリナ。
「不死だなんてアルターのドブネズミ共に相応しくないわ…だから───」
「エイヌス…あなたはここでレオに殺されるのよ!!」
エリナの瞳がぐあっと見開かれた。
──獅子竜の咆哮が、その場を轟かせる。
「うわっっ!!」
空気は震え、地は揺れた。遠雷の様に唸る獅子竜の咆哮は、弱い者ならば身をすくませていただろう。
サザ達は咆哮による風圧に圧されそうになったが、何とかその場に踏み留まる。
「あははははっ!!やれ!!殺せ!!あいつらを徹底的に殺り尽くせっ!!!きゃはっ、あはははぁっ!!!!!」
エリナは狂喜し続けながら"レオ"に命令してゆく。エリナの命令に大人しく従う"レオ"の暴力的な風は収まらない。
風を武器に、神話の獣の様にサザとエイヌスへ圧倒的な力を見せ付ける。
「あはははははははっ!!!!!!」
─歓喜。エリナは心の底から笑いが溢れ、止まる事無く笑い続けている。
竜の背に乗る彼女は、狂喜と共に舞い踊り、さながら未知の世界へ繋がろうとする巫女の様だった。
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(ぐっ…………風が強過ぎて飛び込めない…!それに、攻撃なんて、届く訳が………っ)
暴風の中で踊り狂うエリナ、そして猛威を振るうレオの暴風に飛ばされない様に踏み留まりながら状況を打破する方法を考えるが、サザの武器では切っ先すら届かないだろう。
「くっ…風が、強いねぇ……!」
それはエイヌスも同じらしく、あまりにも強過ぎる暴風ではエイヌスの銃ですらエリナやレオには届かないだろう、と考えていたらしい。
──攻撃も届かないまま、一方的に嬲られるのは嫌だ。
───進むべき道を、こんな所で終わらせたくない。
それでも、目の前にある現実は酷くなる程強くて、このままでは確実に殺される、とサザは唇をぐっと噛んだ──