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そして僕達は宇宙が落ちる日を夢見た  作者: ToToME@豆味
序幕
1/29

幕は明星の様に明け

眠りは死の花の(ねや)で、叫びは喪われたものの嵐。

人が都や国を作る理由も、愛を知る事も、全ては沢山の本から学んできた。


子供の頃に夢を見ていた、小さな自分達は、あれから大人になって世界を知る。




心が荒んで、やがて死んでゆく。

そうして大きくなった私は世界の為の研究者として多くの事柄に触れ、携わり、進めて、とうとう中核を担う立場となった。

「夢」を手放して、「大義」というものを得たのだ。





――そして私達はひとつの竜を捕えた。

明らかに強大な()()を「ユグドラの根」と呼ばれるシステムに頼り、世界の外に出さない様に留め続けた。

其の一方で私達は干渉者から此の世界を守る手段を模索し続けた。





 ********





聞いてくれ。

諸君よ、私達が削り続けた刻の全てを。私達は()()に敗北してしまった。

彼/彼女等は私達の世界を悪戯に蹂躙し、我儘に滅ぼした。


私は、いいや、僕は。付き添ってくれていた者に最後の手段を託し、天の(とばり)、目映さで隠す星になってもらった。

――僕も我儘だった。

そして、多くの者の命運の全てを台無しにしてしまった。




僕に出来る償いは一つのみだった。

"ユグドラの根"に縛り付けていた竜を放ち、干渉者諸共世界を破壊して再編して貰う事だ。

彼は、彼ならば、きっと新たな世界を創り出せるだろう。

其の為に僕達の世界へ来たのだから。


――――済まない。

僕は、弱かった。


聞いてくれた者へ、細やかな幸運を願う。

















()く古の言葉たちが風となって蒼い空の下を駆け抜けてゆく頃、走り慣れた草原の上に見た事も無いものが落ちているのを見付けて、僕は其れを手に取った。

















風雨に曝され過ぎてか、もう殆ど聞き取れなかった。

其れでも其の僅かに聞こえた誰かの声は、喪われた時代の浪漫(ロマン)があったのだと。





 ********





―――ムウヌ・テラ サティラ慈善寄宿学校




「………で、大陸は8つ存在し、其々が此処ムウヌ、オウド、スビルト、ロウトタウク、ユクニーク、ゼス、メトフェス、そして聖地とされるオクタ・テラです」

教鞭を執る壮年の教師――神父の言葉を余所に教壇から離れた位置に席を持つ二人の少年が小声で話し合っていた。


「なあ、あいつまたサボってるけど大丈夫かな」

「どうせいつもの事じゃん、別に良いんじゃないの…」

相方の返し方に納得がいかないのか、

「そういう訳にはいかねえだろぉ……神父様だってマザー程じゃ無いけど怖いじゃん」

最早慣れた様子で呆れ返る隣席の相棒は、教壇に立つ神父に気付かれない程度に溜息を吐いた。

「ああどうせ無理無理、あいつはどんなに言ってもああだから」

「二人共何を話しているのですかな?」

にこやかに微笑む神父が小声でヒソヒソと話し合う二人の少年へ向けて声を掛けた。

「うわあ気付かれたぁ!!」

「はーいすんませーん」

慌てる少年と、気怠そうなもう一人の少年。




「……。二人共後で私の所に来なさい」

神父は微笑みと穏やかな声を崩す事は無く、二人にそう言うのだった。





 ********





ムウヌ・テラで最も大きな国であるエル・クライメ・アルクーツ公国は、聖地オクタ・テラに近いメトフェス・テラで最も大きいとされるラディウス皇国との和平条約を結んでおり、皇国との交流と同盟で活気に溢れ栄える国である。


此処、サティラ慈善寄宿学校も皇国との条約を結んだ事が切っ掛けで有志の者達からの施しを受けて作られた孤児たちの為の学校だった。

聖堂院に所属する神父や修道士・修道女達によって世間で生きてゆく為の知識を学び、そしてナイエス(Nies)の信仰の教えを受ける。

そうして大きくなった孤児達は、其々の道を歩む―――



「それにしてもあいつってほんといつもあんな感じだからレメト様の小言増えたよな〜」



"レメト"とは寄宿学校の校長を務める聖堂院の聖女の名前だ。

「仕方ねえじゃん、あんなんだもん」

先程と殆ど同じ様な言葉を返す。どうやら神父の「お叱り」とやらを受け終えて自由の身になったらしい。

「それにレメト様だって寄宿学校の事以外にも苦労してるんだし、俺達じゃどうにも出来ないって」

「あっ、あいつ戻って来た」




「おーっす」

当の張本人は至って呑気そうな声で二人に声を掛けた。

「っっっっるふっざけんなよおおおお」

「うわーっ!!」

少年は張本人である彼の胸倉を掴んで怒りに身を任せた。

「お゛ ま゛ え゛!!!!何度サボったら気が済むの!!!!!!!!」

「ごめんてごめんて!!!!」

「もうやめろよー分かってるんだろお前だってー」

――其れは三人の少年の、有り触れてよくある光景の一つだ。





――――だが其れも、一つの出来事に覆され、変わり果てる。





 ********





――低い唸りが大地を揺るがし、

人は揺れ、

木々はざわめき、

獣は恐れる。



「うわあああっ!?」

少年達もまた同じだった。必死に互いの身体を掴みしっかりと踏み止まろうと必死になる。

――そして少年の一人。あのサボり魔の彼の瞳に、有り得ない光景が映し出されていた。






「月が―――落ちてくる……………………」




そして世界の形が崩され、()()()()の視界は赤く染まった。

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