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「ふむ。」
今まで黙っていた陛下が、ひとり頷いた。
「ニコラス。お前がセレニア以外と結婚するならば、王位はアリーヤに譲ろう。」
「え?私?」
「は?」
アリーヤ王女殿下はとてつもなく嫌そうな顔をする。
私も似たような顔をしているだろう。
「この婚約は、政略的な意味も勿論含まれていた。一国を揺るがしかねない力を持った公爵家と王家が手を結ぶことで、この国を磐石なものにしよう、とな。」
にやりと笑う。
「しかし、それを勝手に破棄しようとしたのだぞ?」
ニコラス殿下は、悔しそうに頷く。
「私の浅薄さは承知しております。」
「嗚呼。それに、セレニアは10年近く王妃教育を受けてきた。伯爵家に養子にとられたからと云って、今更ながら貴族のマナーを学んでいる娘に、王妃など勤まるわけがなかろう。」
え、ちょい待って?私も同じようなもんなんですけど?
昨日やっと貴族になったぐらいだよ?むしろノエルちゃんの方が先輩だわ。
やばくね?
「己の失敗は自分で取り返す他ない。」
「勿論です。」
ニコラス殿下は頷く。
いや、決心されちゃあ困るんですよ?
「私、王妃は辞退したく存じます。」
ちゃんと意志を伝えなきゃ、これはふたりで話が進んでしまう。そう思って発言した。
「嗚呼勿論、セレニアの意志を尊重する。セレニアの心を変えることが出来なければ、お前はそこまでの男だと云うことであろう。」
陛下は片眉を上げ、揶揄うようにニコラス殿下を見る。
いや、私の意志ひとつでこの国の行く末が変わるんですよ?駄目でしょ、それ?
と云うか責任重大すぎて、絶対無理なんですけど。
「私、確実にお断り致しますわ。」
「お兄様。私、お姉様が本当のお姉様になるのをお手伝い致します。」
アリーヤ殿下は、食い気味にニコラス殿下に向かって云う。それ、絶対国王になりたくないからだよね?
ニコラス殿下は頷いた。
「有難う。」
ニコラス殿下は、私の方を向くと、私の膝に置いてあった手をとり、目をじっと見つめた。
「ひっ!」
「セレニア。私は、本当に愚かだった。私の弱さ故、貴方を裏切ってしまった。貴方に見限られても仕方ない。だから、私はこれから全てを貴方に捧げよう。貴方の信用を取り戻したい。自らの行いを償わせてくれ。」
そんな痛い台詞よく云えますね、とは云えず、私は口元をヒクヒクさせることしか出来なかった。
ニコラス殿下は陛下に向き直り、云う。
「寛大な措置に感謝致します。」
「うむ。」
いや、うむ。じゃないよ、陛下?
1で誤字報告を受けましたので反映させて頂きました。
報告有難うございます。
内容には大差ありません。