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殿下は、なにかを呟くと、よろよろと立ち上がり、そのまま出ていってしまった。
周りも、その後ろ姿に憐れむような視線を向けている。
ノエルは、どうすればいいのか分からなくなったみたいで、逡巡した後、殿下を追っていった。
殿下大丈夫かな。体調悪そうだったもんね。
…………あれ?私の婚約破棄ってどうなったんだろう。
「あの、私は婚約破棄されて自由の身と云うことで宜しいでしょうか?」
数少ない私の知り合いのアルくんにきいてみる。
周りがまた一歩後ずさる。解せぬ。
「……保留だ。」
アルくんは、少し思案してからそう云った。
えぇー。
王妃教育本当に大変そうだったから、私あんまり婚約続けたくないんだよね。セレニアちゃんはすっごく真面目に取り組んでたけど、私、教科書開いた途端に眠気が襲ってきて寝てたしね。あの文字の羅列見ただけで12時間は眠れるよ。
嗚呼、思い出すだけで眠くなってくる。私、今まで退屈すぎて一日に滅茶苦茶寝てたから、その名残もあるのかもだけど。
「私、そろそろお暇して宜しいでしょうか?」
「勝手にしろ。」
アルくんは、ぶっきらぼうにそう云うと、すたすたとどこかへ歩いていった。
あっ、やばい眠い。今まで眠くなったら寝るって云う自堕落極まりない生活送ってきたから今寝れる。立ったままで眠れる。
「失礼致しますわ。」
なんか注目浴びすぎてて何も云わずにここを去るのもどうかと思ったから、カーテシーをしてからホールを出ることにした。
私前世はバレエやってたから、カーテシーは出来るのですよ!えっへん!
公爵家の馬車にふらふらと乗ると、自然と瞼が落ちてくる。あ、おやすみなさぁい。
Zzz……
【悪役令嬢 セレニア・フォーサイス マニュアルプレイ お試し 終了 オートモード か マニュアルモード を 選んでください《オート マニュアル》】
それはマニュアルしかないでしょ!
はっ!
馬車が止まることで振動が体に伝わって目が覚めた。
思わず手をグーパーしてみる。あ、自分の意思で動く。良かった。
ノックが聞こえる。
「お嬢様、到着致しました。」
御者をしてくれていた執事のウィルが馬車の扉をあけてくれるので、おりる。
なんか、夢見てた気がするんだけど覚えてないなぁ。
公爵家の中に入ると、まずお母様の肖像画が目に入る。セレニアちゃんの目元はお母さん似なんだなぁ、といつも思うんだよね。
お父様がぞっこんになっちゃうのも分かる綺麗な女の人。まぁ、魅力はきっとそこだけでは無いんだろうけれど。
「セレニア。何をしている?」
私がお母様の肖像画をぼんやりと見ていると、お父様が螺旋階段の上方から、声をかけてきた。
「お母様の肖像画を見ていました。」
「そうか。」
お父様はすっと目を細め、多分書斎の方へ歩いて行った。
嗚呼。まだ好きなんだろうなぁ、お母様のこと。
いつも目付きの悪いお父様も少しだけ雰囲気が柔らかくなったもん。
私も、あんな風に、自分のことをずっと愛してくれる人と結婚したいなぁ。
…………あれ?それって私、殿下と結婚したら、確実に無理じゃね?