3
周りが冷たい目をして、私を見てくる。
や、やめて?私のてへぺろそんなに痛かった?ね、ねぇ?誰かなんか云って?今更恥ずかしくなってきたよ。穴があったら入りたいよ。金髪碧眼美少女だったら何しても許されるって思ってごめんなさい。9年ぶりに黒歴史製造しちゃったよ。
そんなことを思っていたら、殿下が話しかけてくれた。
「私との婚約破棄が嬉しかったわけじゃないのか?」
この空気の中しーんとされたらいたたまれなくなっちゃうから、本当に有難い。会話してたら、このなんともいえない空気感が少しでも改善されるかもしれないしね!
「勿論です!ただ、それよりももっとインパクトの大きい、とっても嬉しいことが起きちゃって、婚約破棄が割とどうでもよくなっちゃっただけです。」
…………ん?
なんか更に空気が冷えたよ?
私の周りにいる人がみんな一歩ずつ後ずさるよ?
「ど、どうでもいい…………。」
「ニコラスっ!」
殿下がなにかを呟いて崩れ落ちるように床に膝をついた。ノエルがそれを見て、しゃがみ、殿下を揺さぶる。
「どうでもいい。そうか。どうでも……」
まだなにかを呟いている。大丈夫かな?体調、悪いのかな?
お水でも飲みますか、って云おうかと考えた時、さっきのアルなんちゃらくんがまた口を挟んだ。
「殿下との婚約破棄がどうでもいいだと?!」
アルくんは、顔を真っ赤にして怒っている。
「そんなわけが無いだろう!ノエル嬢に嫉妬して、彼女を虐めていたお前が!」
………………………………………………IJIME?
ijime?
いじめ?
「え、私そんなことしてましたっけ?」
少し考えてみる。
セレニアちゃんは、基本的に大人しくって、自分の感情を顕にしなかった。まぁ、オートモードみたいに、機械みたいな動きしてるって思ったのは、それが一番の原因だったんだけど。
だから、嫉妬でノエルを虐めるなんてするわけないんだよなぁ。というか、虐めてても、流石に中の私が気が付かないわけがない。
んー?と考え込んでいると、アルくんは更に怒って云った。
「殿下の隣に相応しくないと彼女に云ったそうだな!」
ああ!それなら!
「国王陛下が、
『ノエル嬢と云う伯爵令嬢が、最近ニコラスの周りを彷徨いていてな。セレニア嬢からどうか云ってやってはくれまいか?』
と仰って。
『私はそんなこと、構いませんわ。』
と云ったのですよ?でも、
『このままでは、セレニア嬢にもノエル嬢にも悪い噂がたつ。ニコラスがこれをあしらうことが出来たら良かったのだが、うちの馬鹿息子は本当に馬鹿だったんだ。本っ当に申し訳ない。』
と私に頭を下げられて、仕方なかったんです。
『婚約者のいる殿方の近くにいると、周りがうるさいと思うんです』
と忠告だけさせて頂きましたわ。」
セレニアちゃん大変だなぁ、ってあの時は思ったんだよね。国王陛下から頭を下げられるって、王命なんかよりずっと効力があると思う。
「くっ!いや、まだだ!洋服にケチをつけたりしたそうじゃないか。」
「ノエル様のお洋服?嗚呼、風紀委員として、スカートが短すぎるご令嬢にはどなたにも注意をさせて頂いてます。」
そうそう!セレニアちゃん風紀委員やってるんだよね。成績優秀者が入れる生徒会に一年で入って!風紀委員って、次期生徒会長がやる仕事らしいから、セレニアちゃんって本当に優秀なんだな、と思った記憶がある。
「っ!しまいには、階段からノエル嬢を突き落としたり!」
「それは、申し訳ありません!踊り場でノエル様とぶつかってしまい、その時は私が咄嗟に下敷きになって庇ったのですが、やはり何処か打ってしまいましたか?!」
あの時は痛かったな。中の私が、思わず起きちゃったもん。
「う、嘘だ!」
ええー。嘘と云われましても。
「ひとつめは国王陛下にご確認くださって構いませんし、ふたつめは風紀委員だから仕方がないですし、みっつめは私が悪いです。」
すみません、の気持ちを込めて頭を下げる。
「だから、嫉妬心は関係ないんです。多分、私殿下に興味無いので。」
殿下がまた呟く。
「興味無い、か。」
なに云ってるか全然聞こえないけど。