2
私の雄叫びの後、ホールは静寂に包まれた。
(やっとだ!何を考えても、何も出来ない9年間。長かったわ。)
そう、感慨に浸っていると、王子の傍にいたひとりが声を上げた。確か、アル…。アルなんちゃらって云う名前だったと思う。宰相の息子だった…かな?
「おい、セレニア!お前、何してる?殿下のお言葉が聞こえたのか?急に叫んだりして。大体お前は.......」
ねちねちと言葉が続く。いや、でもさ。自分の意思で、体が動かせるっていう、感動のシーンな訳ですよ。もうちょっと、感慨に浸っても良くないかな?
うーん、こういう場合は、どうすれば?嗚呼!セレニアちゃんの真似すればいいのか!
そう確信した私は口許に手を添えて、目を細める。
「お静かになさって?」
セレニアちゃんは、いっつもオートモードで感情がこもってなかったから、私は心からの気持ちをこめてやってみた。
やっぱり、本物にはクオリティで劣るから、名演技と云われるくらいでやらないと駄目だよね。
私の渾身の演技は、あまり上手くなかったようで、セレニアちゃんがやるとみんな顔を紅くしてしまうんだけど、私の場合、みんなが顔を青ざめさせて黙りこくった。
あ、首を傾げるのを忘れたからか!
顔が同じでも、ポンコツが入ると駄目なんだなぁ。
可愛くやったつもりなのに、そんな顔で私を見なくってもいいじゃない?
まぁ、今はそれより、体が戻ったことだよね。
歩く。出来る。しゃがむ。出来る。手をにぎりしめる。出来る。ウィンク。出来る。
やったぁぁぁぁぁあ!
しまった!鏡がない。あとで鏡見てもう一度やろう。
でも、嬉しい。
「本っ当に最高っ……!」
あ、目から汗が。9年間、私が何を感じても一度も流れなかったのに。
「良かったぁ。」
思わず微笑む。
「セ、セレニア?」
ふとそちらを向くと、第一王子が奇怪なものを見るような目付きでこちらを見てくる。失礼なひとだわぁ。
そろそろ、放置しすぎたかな?
「なんでしょうか、ニコラス殿下?」
確か、セレニアちゃんは、こう呼んでいた。
「お前は何故泣いている?」
「あ、嗚呼。私の長年の夢が今日果たされまして。思わず嬉し涙が。お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません。」
こんな言葉遣いでいいんだよね?敬語なんて、部活の先輩とか先生とかに、かる〜く使うぐらいのものだったから、正しいのかわかんないわ。あくまでも王子だし、丁寧な方がいいよね!
「お、お前っ!」
殿下が、目を見開いている。あ、やっぱ、間違えてた?なんか不敬だったかな?
「申し訳ありません、云ってはいけないことを云ってしまいましたか?」
そうたずねると、殿下は、「いや、もういい。」と云って俯いた。
どうしたんだろ?
そうしたら、さっきのアル……なんちゃらくんが、また口を出してきた。
「お前、立場をわかっているのか?!」
アル……なんだっけ?あ、やばい。めっちゃ気になる。もう喉まで来てる。わかる、あともう少しで!ええと。
「アルバート様!」
やっと思い出した!
「アルベルトだ!」
違ったみたいだ。残念。
「それで、アルバート様どういう意味でしょうか?」
「お前わざとやってるのか?」
あれ、また間違えた?
アルなんちゃらくんは、溜息を吐いた。
そんな深い溜息つくと、幸せが逃げちゃうよ?
「お前は、今、ニコラス殿下に婚約破棄を告げられたのだぞ?なのに、なにをそんなに嬉しそうにしている?」
「うっ!」
殿下が呻いて、
「ニコラスにダメージがっ!」
とノエルが寄り添う。
「…………?」
私は首を傾げて考える。
……………………………………。
あ、やばい忘れてた。ここは全力でっ!
「嗚呼!ありましたね、そんなことも!忘れてました!」
てへぺろっ!
…………周りの視線が痛い。やっぱり、古かった?
ブクマ、有難うございます!
作者の趣味全開ですが、それを読んでくすっと笑っていただけたら嬉しい、と云うスタンスで書いています。
なので、ブクマをこんなにして頂いて、大変恐縮です。有難いです。
もしよろしければ、これからもどうぞお付き合い下さい!