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「ゴブリン退治」

 今、僕はゴルサンの町から2時間ほど離れた山の中にいた。リンダ様やピッポさんと採取しに行った森よりもかなり奥深い場所だ。木々が鬱蒼と茂っており、今は道らしい道も消えて獣道らしき場所を歩いている。また、背中には採取の時とは違い、大きな籠ではなく、大きなリュックを背負っていた。リュックには携帯食料とコップ、そして、モンスター用の毒なども入っているとのことだ。


 今日の依頼は「ゴブリン退治の荷物持ち」だ。


 この町の近くの街道にはいくつかの畑や牧場がある。町のすぐそばなら人を怖がって近づかないが、少し離れた場所にはゴブリンが目撃される。大抵が畑や家畜を荒らす目的だそうだ。リンダ様も以前に言っていたが、人間のテリトリーに入って来るような奴は奥地にある集落を追い出されたゴブリンがほとんどという話だ。


 今回はそのようなゴブリンがひっそりと山に隠れ住んで、いつの間にか小規模ではあるが集落を作り上げたらしい。すでに集落は見つけてあるようで、そこに向かって今は僕も含めて4人で行軍中である。


 僕はこの依頼中に一定以上の戦闘能力を先輩冒険者に示せば、2つ星冒険者になれる。2つ星冒険者への昇格条件は簡単な採取の知識を持っていること、ゴブリン相手に一人でも対処できる実力があることだ。なので、今日は荷物持ちだけでなく、戦闘も積極的にこなすことになっていた。


「いい槍を持っているな」


 兄貴の仲間の一人であるロベルトさんが声をかけてくる。今日はロベルトさんがリーダーを務めていた。変態の教育係を任されている人だ。どうか変態を真っ当な人間に育てて欲しいものである。


「師匠に貰いまして」


 昨日のうちに師匠へ今日の予定を話したところ、昔使っていた槍と動きやすい革鎧、そして、革鎧に似合わない金属の兜を渡された。頭が特に危ないと聞いているので見た目はちぐはぐで変だが、兜もきちんと装備をしている。また、槍は2メートルほどの練習用と同じ長さのものだ。練習で使っていたものと同じ長さなのでかなり扱いやすい。黒い木の柄の先端に20cm 程の細長い刀身が取り付けられている。


「へえ……まあ、その槍なら初心者に扱いやすい長さだろうし、ゴブリンにはちょうどいいだろうな」


「おじいちゃんに貰ったそうですから、きっといいものですよ」


 ソフィアがロベルトさんに向けて声をかける。


「ソフィアのおじいちゃん……ということは、レオの師匠のものってことか。あの人も年だし、若いころに使っていたものってところかな」


 ロベルトさんは興味深そうに槍を覗き込む。やはり、師匠はこの町では有名人らしい。


「おそらくはそうでしょうね。うちの倉庫にはおじいちゃんやおばあちゃんが使っていた色んなものが保管してありますし……」


「それにしても、ソフィアが同行するとは思わなかったよ。魔法学園の課題だよね?」


 僕はソフィアに話題を振る。


「うん、休学中でも単位が取れるものに冒険者のランクを3つ星にするというものがあるの。だから、たまにギルドの課題をこなしているんだ」


 ソフィアは宿での服装とは違って、フード付の黒いローブを着用し、魔法使いのような格好をしていた。また、腰には先端に水色の宝石をつけた杖を装備している。しかも、ソフィアは2つ星冒険者らしい。僕の先輩だったなんて考えもしなかった。このこともあってエレナさんも冒険者を目指しにくかったのかもしれない。


「魔法学園に通っているってことは、ソフィアは魔法が得意なんだよね?」


「うん。これでも首席で合格だったんだよ」


 ソフィアは大きな胸に手を当てて答える。彼女がそれだけの態度を取るということは魔法にはかなり自信があるのだろう。


「へえ、それは凄い」


 隣のロベルトさんが感心した顔で頷く。


「魔法学園に通うってことはやっぱりかなりのエリートってことですかね?」


 僕は疑問に思っていたことをロベルトさんに問いただす。


「そりゃあなあ。あそこを卒業すれば、首都の魔法研究所、魔法騎士団への道が開かれる。最低でも有名な冒険者グループにスカウトされることは間違いなしだな」


 やはり、このような世界の約束で魔法の育成機関に所属しているということは、エリートの証であるようだ。


「やっぱり、ソフィアってすごいんだ。魔法学園を卒業したら何をするの?」


「えっと……私は冒険者になって世界をめぐるの。まだ見ぬゴルサンの秘宝を探しに!」


 当然のようにソフィアは目に炎を灯しながら答える。ぶれないなあ。まあ、この娘なら当たり前のことかもしれない。目標がしっかりしていることは良いことなのだろう……たぶん。


「へえ、立派な目標があるんだな。まあ、君はあの宿の娘だからな。ははは」


 ロベルトさんは大きな声で笑う。そう言えば、エレナさんを覗いて、ゴルサン狂信者へのまともそうな人の反応は初めて見た。どうやら、この世界でゴルサンの何かを探すのは特に変な趣味ではないらしい。


 そんな話をしながら歩いていると、前から例の変態が現れた。


 僕等はその場で立ち止まる。


「ロベルトさん、見つけました。地図に書いてあった通りです。奥に大きな洞窟がありそこに見張りが二人います。見張りは棍棒を持っていました」


「そうか」


 変態がロベルトさんに報告をする。変態はロベルトさんの命令を受けて斥候をしていた。


 ソフィアは変態に恐怖を感じているようで、硬い表情をしている。まあ、首元に刃を突きつけられたのだから当たり前だろう。


 変態はソフィアが自分を怖がっていることを分かっているらしく、ギルドで受付さんに紹介された時にソフィアへ謝りはしていた。また、斥候を自ら志願したのも罪悪感があるからだろう。


 ロベルトさんが言うには今回の同行で初めてやる気のある所を見たとこの事だ。変態は戦闘においては実力者であるが、僕と同じ1つ星なのでゴブリン退治、採取の荷物持ち、ギルドの手伝い、町の清掃位しか請け負えない。なので、普段はやる気を見せないらしい。ちなみにつけあがるので、トンネル工事の土砂運びはやらせない予定だとロベルトさんは言っていた。正解だと思う。


「どうしますか?」


 ソフィアがロベルトさんに声をかける。


「先ずは見張りの二匹を倒す。その後に、俺とアーサー、マサムネで洞窟に向かう。ソフィアは入り口の見張りだが1人で問題ないな?」


「ええ」


 ソフィアは平然とした顔をしている。まあ、元々この世界に生まれた人だし、2つ星冒険者なのだからゴブリンと戦闘をこなすのは問題ないのだろう。


「じゃあ、アーサー、洞窟までの案内を頼む」


「ああ」


 変態がロベルトさんの言葉に頷く。


 僕らは変態の案内でゴブリンのいる洞窟へと進むのであった。


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