いきなりフラッシュ!
「……うん。これで魔法を1つ覚えられたな」
僕は公園で目をやられてからすぐに宿に戻って、光魔法「導きの光球」の練習をしていた。取り敢えず、この魔法は僕の魔力操作の技術でも危険がないようなので、宿に戻ることにしたのである。部屋の明かりを消して僕は一晩中ひたすら光魔法「導きの光球」の練習を繰り返した。また、途中から目がやられないように、両手で光球を包み込んで練習し始めてからは、目がつぶれるのを恐れる必要がなくなったので急速に進歩がみられた。練習の末に手のひらの上に浮かぶ光球は適度な明るさで灯すことができるようになった。
「外も明るくなってきたし、最後にどの程度まで明るくできるか試してみよう」
外からはすでに部屋の中に日の光が差し込んでいた。障子から入る朝日はオレンジ色でとても綺麗だった。これだけ明るくなっていれば、外に明かりが漏れても目立たないだろうから、役に立ちそうなオリジナル技その一を試せるだろう。
「……よし」
僕は目を閉じながら両手を差し出し、光球の光を顔から遮るようにして部屋の壁に向ける。そして、魔力を込める量を瞬間的に増やした。すると、目を閉じていても分かるくらいの強い光が広がるのが分かった。目を開けると光球は適度な明るさに再び戻っている。成功だ。
「うん。直接的な攻撃魔法ではないけど、これで目潰し位はできるかな。これをくらった相手は「目があ、目がああああ」と地面を転げまわることになるだろう」
僕は手のひらに出ていた光球を消した。光球を消す際は、光球が無色になるようにイメージした後に手のひらから外に向かっていた魔力を指先に向かわせ、最後に指先から戻ってきた魔力が体内で循環しているイメージを作り出すことが必要だ。魔法を使うことで魔力の流れを感覚で掴めるようにはなったが、一度外に放出した魔力を完全に外に出さないようにするのは結構集中力が必要だ。何度も練習する必要がある。
「あ、でも、光球を出しっぱなしにしていたら狙いがばれるか……無詠唱で魔法を使うのは難しいみたいだし……いや、それなら」
僕は手を自然に握った状態で小さく囁くように詠唱をする。
「光よ。我が声に応えよ。光は集まり。我らを導く。導きの光球」
僕の手の中に線香花火位の光球が現れる。今は部屋の明かりをつけていないので、外から入って来る朝日の光だけでは薄っすらと手のひらの中が光っているのが分かる。次は部屋の天井を見上げて魔石の明かりをつけて確認をしてみようと考えると明かりがついた。
「やっぱり、昼間の明るさなら大丈夫だな」
明るくなった部屋では手で包まれた光は弱々しく、光球が手の中に入っているのが分かりにくい。これなら注意していないと相手も気がつかないだろう。これなら奇襲に使えるかもしれない。
「いや……でも、考えてみれば、手のひらから出す必要はないのか?」
僕は再び光球を消す。考えてみれば、土魔法は足の裏から魔力を出すイメージをしても良いと書いてあった。それなら、手のひら以外の場所からも魔法は出せるのではないか? 僕はそう考えると、上着を脱いでシャツ一枚で魔法を唱える準備をしようとする。
「イメージ、イメージング、胸の前あたりに光球がでるイメージング。魔力を出す場所は……」
僕は胸の前あたりに魔法を出そうとする……「魔法が乳首から出る加護を与えることになる」、以前に聞いた神様のおじいさんの言葉がどこからか聞こえてしまった……あれ? でも、胸の前に出すなら、ち、乳首がイメージングしやすい? いや、格好悪いような……でも一番イメージしやすい。どうせ、人前で見せる予定はないんだからいいのか?
僕は数秒考えた末に実験なのでとりあえずはイメージしやすいところから、魔力を出すことにした。誰も見ていないから別にいいだろう……たぶん。
「光よ。我が声に応えよ。光は集まり。我らを導く。導きの光球」
僕の乳首から魔力が放たれる感覚がする。意外に心地良い。ぞくぞくした感じに頬が少し染まってしまう。
「OH!?」
だが、その感覚はすぐに薄れていく。そして、乳首の先から、赤くてぼんやりと光ったごく細い糸のような気持ち悪い光がうねうねと放たれる。例えるならば、それはクラゲが何かを探っているようであり、謎の宇宙人が気持ち悪い触手を出して謎の怪しげな実験をしているようでもあった。やばい、見た目が気持ち悪い。最悪だ。誰かに見られたら二度とお婿さんにいけない。何かいけないことをしている気分だ。でも、イメージを崩しては駄目だ。実験だし、そのままでいくのだ。
「ひっ、ひっ、ふー」
僕は妊婦さんのように冷静に呼吸を整える。手の平から魔法を出すよりイメージがかなり大変だ。だが、手のひらで出すのはすでにコツを掴んでいるからか、すぐに、胸の前にぼんやりとした赤くてぼんやりとした光球は完成した。
「……ふう、とりあえず、これで上着を着れば」
僕はシャツの上から上着を羽織って、ボタンをかけて光球を隠そうとする。だが、光球が服にめり込んでいるような状態となっており、逆に目立ってしまった。まるで、ウル〇ラマンのカラータ〇マーようになっている。
「うーん。あまり肌との間に隙間がない服だから見えちゃうな……魔法って体内でも使えるのだろうか? 手のひらに出した光球は数センチくらいなら動かせるんだよな」
僕は光球を動かして体内に入れるイメージをする。だが、体内に入った魔法は魔力の流れに溶け込んでそのまま消滅してしまった。
「うーん。やっぱりだめか。体内を流れている魔力に溶け込むように消滅してしまう……いや、光球を入れる場所だけ魔力が避けるイメージをしてそこにしまい込めば」
僕は体内の魔力の流れを感じながら、みぞおちのへこみの部分だけ魔力が流れないイメージをする。すると、何とかみぞおちの部分に魔力が流れていない空間を作り出すことに成功する。体内の魔力の流れを変えるのはかなりきつい感覚がする。何か、長時間正座をして膝がしびれたような感覚がみぞおちからする。感覚が変になっていて気持ち悪い。
「……でも、何とか……光よ。我が声に応えよ。光は集まり。我らを導く。導きの光球!」
僕は先ず乳首から「導きの光球」の魔法を放つ。先程と同様の気持ち悪い光景が現れる。体内の魔力を制御しながらだから余計に難しい。だが、ゆっくりだが、確実に光球を作り上げると、目の前にある光球をゆっくりとみぞおちの部分にしまった。
「やった! つっ!?」
だが、成功に喜んでしまった瞬間に体内の魔力のコントロールが乱れて光球は消滅しまう……もう一回だ。
僕は再び同様のことをする。すると、何とか光球を維持したままみぞおちにしまうことに成功した。気を抜けば、光球は消滅してしまうから集中しなければならない。そして、ゆっくりと壁の方を向くと、ついに念願の役に立ちそうなオリジナルの技その一を使うことにする。僕は目を閉じると、光球をみぞおち部分からすっと出して、服の外に出た瞬間魔力を一気に注ぎ込んだ。
「乳首フラッシュ!」
部屋の中が眩い程の閃光に包まれる。目を閉じていてもまぶたの裏に眩しいほどの光を感じ、僕は成功したことに安堵して目を開ける。そして、思わず叫んだネーミングセンスのなさに頬を赤く染めてしまった。だが、卑怯な技ではあるが、地球でもフラッシュバンだかグレネードとかいうものがあったと思うので、何気に相手の隙をつける良い技ではないだろうか? それに魔法に自らアレンジを加えるというのはやっていて楽しいと思う……まあ、これ位なら他の人もやっていそうだが。
「名前は……乳首フラッシュは止めよう……みぞおちフラッシュ……いや、バニーフラッシュ、線香フラッシュ、フラッシュ閃光……フラッシュフラッシュってことになってしまうな……もう「いきなりフラッシュ!」でいいか」
こうして僕の役に立ちそうなオリジナルの技その一「いきなりフラッシュ!」が完成したのであった。ネーミングセンスがないことは分かっていますよ、ええ。