世界の片隅ビッチ!
あれ? ここはどこだ?
目が覚めると辺りは白一面の景色だった。どこまでも広がる不思議な空間だ。
「お前は死んだのじゃ」
「?」
背後を振り返るとそこには白いローブを着たおじいさんがいた。また、満面の笑みを浮かべており、高級エステから帰ってきたおふくろのようにぷりぷりの頬が印象的だ。禿げ頭の上には何故かプリンが乗っかっている。
「あなたは?」
僕はおじいさんに問いかける。
「もう一度言うが、儂は神じゃ」
「……は! そう言えば!」
僕は死ぬ直前の記憶を思い出した。
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中学3年生の春休みだった。受験も終わり、友達と卒業旅行にスキー旅行に行くことになった。
「ごるさん。僕達、このまま死ぬのかな?」
ごるさんとは僕の友達の一人で権田瑠偉という名前の男だ。あだ名は名前の頭文字をつなげて「ごるさん」。または「ルイ13世」だった。中学3年生とは思えない眉毛の太さが特徴だ。
「大丈夫だ。きっと警察やらレスキュー隊とかが俺たちを見つけてくれるさ」
ごるさんは僕を励ますように言った。
ここはスキー場のコースから外れた場所だ。
僕とごるさんは調子に乗って通常のコースから外れて滑っていたら、突然雪が陥没して穴の中に落下してしまったのだ。穴の中は浅い洞窟の様になっており、登ることは困難だった。スマホの電波も通らない。遭難してからすでに4日経っている。
「ごるさん。僕、眠くなってきたよ……」
「寝るな! 寝たら死ぬぞ!」
ごるさんは必至で僕の頬を叩いて起こそうとする。
僕も反応しようとするが声を出すことが出来ない。そして、身体がとろけるように感覚を失っていく。
「あたたたたたたたた! なかなかなかなかなかなか!」
ごるさんが泣きながらも謎の掛け声を叫びながら僕の頬を叩いているのが聞こえる。
ごめん。ごるさん。もう力が入ら……ない。
僕の意識は深い闇の底へと消えていった。
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僕は記憶の夢から目を覚ます。目の前には変わらず禿げ頭にプリンを乗っけたおじいさんがいた。
「……お、思い出しました。僕は……死んだのですね」
「思い出したか」
おじいさんは僕の言葉に偉そうにうなずいた。そして、頷いたせいでその頭からプリンが落ちた。
べちゃっ……地面にプリンが叩きつけられる。
……沈黙が辺りを支配した。
「……な、なんじゃ!? こりゃー!?」
おじいさんがめちゃくちゃ驚いている。瞼を眼玉が飛び出しそうな勢いで見開いていた。
というか、頭にプリンを乗っけられたら普通は気がつくよと思う。
「えっと……さっきから頭に乗って……」
僕は臆病な性格なので遠慮がちにおじいさんに伝えてあげる。
「さっき!? さっきとは高級エステから帰ってきてからか!?」
「エ? エステ?」
「先ほど貴様に死んだ直前の記憶を思い出せる魔法を使った時、目が覚めるのに4時間位かかるのでエステに行っていたのじゃ!」
「……えっと、そうだと思います。確か、記憶を思い出す前は頭の上に金色の輪がありませんでしたか?」
「くそ! FU〇K! あの、ビッチが! だましやがったな!」
おじいさんはその場で地団太を踏む。頭についていたプリンの液体が頭から滴っているのがむなしい。
「ちょっと、そこで待っておれ! ……はあああああああああああああ……ふうううううう……世界の片隅ビッチ!」
おじいさんは謎の掛け声とともに蜃気楼のように消えた。