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股間を指差すのは止めてください……

 森は町から30分程の場所にあった。緑色の葉っぱに陽光が当たっているのが美しく見える。鬱蒼と茂る木々にはいくつかの木の実がついており、地面をよく見るとキノコなども生えていた。また、人の手が入っているのか道のようなものが見受けられる。リンダさんに聞いたところ、2時間ほどもあれば結構回れるらしい。ただ、奥に行きすぎるとモンスターが出てくるので気を付けなければならないとのことだ。

 

 また、この森はリンダさんの一族の所有物であり、森の入り口には「マラテスタ家の所有地にて許可なく立ち入りを禁ずる」と記載している看板が設置してあった。リンダさんの一族は代々この町の拷問官を受け継いでいるとのことなので、この看板があれば確かに町の人が勝手に立ち入ることはないだろう。


「じゃあ、私からあまり離れないようについてきてね。ペースが速いようなら声をかけてくれればいいから」


 リンダさんは僕の緊張をほぐそうとしているのか笑顔で告げる。相変わらずの残念な格好ではあるが、田舎っぽさが際立って僕は逆に安心する。


「はい」


 僕はリンダさんの言葉に頷くと後ろについて行った。足場はきちんと踏み固められているので、歩きにくいということはなかった。地球での舗装されていない山道と大して変わりはない。以前、変態から逃げた時の足場の方が遥かに悪かったので運悪くモンスターが出ても逃げ切れるだろう……たぶん。


「うん。もう生えているわね」


 森に入って数分もするとすぐに何かを見つけたようで、リンダさんは道から外れた場所に降りると、足取り軽くスタスタと同じ草が多く生えている群生地へと向かう。言葉から推測するに回る場所はもう決まっているのかもしれない。


「ちょっと来て」


 リンダさんが手を振って僕に来るように促す。


 僕はそれを見てリンダさんの元へと向かった。この世界にきてから初めての採取物に心が弾む。


 リンダさんは僕が追いついたのを確認すると、かがんで草を1本ちぎった。そして、立ち上がると僕によく見えるように草を差し示した。


「これは回復用ポーションによく用いられている血止め草っていうの。そのままでもすりつぶして傷口に当てると止血効果があるから覚えておいた方がいいわよ。冒険者は森に入ることも多いから、回復用ポーションが切れているとか、治癒魔法使いがいないようだったら応急手当としてもよく使われるの」


 血止め草は小さく緑色のギザギザな葉がミツマタに分かれている形状をしていた。また、大きさは道端の小さな草とそんなに変わらないが葉が分厚いのが特徴だった。


 僕は確か赤い本に書かれていたポーションの材料にも書いてあったなと思い出す。道具が揃えば、自作ポーションなんて作るのもいいかもしれない。


「……血止め草ですね。覚えておきます」


「ちょっと動かないでね」


 僕が返事をすると、リンダさんは何故か僕の背後に回り込んだ。すると、背負っている籠の中から何かを取るような気配と草を放り込む音がした。おそらくはリンダさんが籠から何かを取り出し、採取した血止め草を入れたのだろう。


「それと、はい」


 リンダさんは僕に革の手袋を渡す。どうやら籠の中に入っていたらしい。まあ、森で採取するなら手袋って必須ですよね。お金が溜まったら、採取用の道具を揃える必要があるだろうと僕は思った。


「血止め草は問題ないけど。これから採るものの中には手がかぶれるものとかもあるから持っていてね。手袋をつけなければならないものがあれば伝えるから」


「……はい。分かりました」


 僕は真面目な顔で頷く。そして、地球でも秋に毒キノコを食べて入院した人のニュースが良く流れていたことを思い出した。確かに採取の仕方や危険なものを知らないと、森で採取するのは危険だ。知識がなければ、変なものを採取してしまったり、触れたりするかもしれない。だから、ギルドは色々な経験をさせてからでないと、ひとり立ちさせないのだろう……森って怖い。


「あと、取り方だけどこれは根っこさえ残っていれば、何度でも生えてくるから根元から折って採取すればいいわ。それと、根っこの残っているものは周囲の血止め草の影響を受けて早く生えてくるの。だから、全部は取らないように。多く採取するとしても全体の3分の1位かな。あと、一箇所からたくさんとるのではなく、まばらに採取してね」


「分かりました」


 僕はリンダさんの言葉に返事をする。確かに根こそぎ取るのはよくないだろう。僕は採取には詳しくないが、取り方によっては二度と生えてこないこともあるだろうし、乱獲で取れなくなることもあるかもしれない。


「じゃあ……あなたはあの辺から群生地の中心に向かいつつ30本位採取してね」


 リンダさんは今いる場所から少し奥の場所を指差す。


「はい」


 僕は頷くとリンダさんの指差した場所に行って血止め草を採取し始める。僕はなるべく一箇所からとりすぎないように根元から折り、採取した血止め草を背中の籠に入れていった。一方のリンダさんは反対側からこちらに向かってくるように採取をしている。数分もすると二人共群生地の中心付近に到達し、大体30本位の血止め草が背後の籠に入っていた。リンダさんも左手にまとまった数の血止め草を手にしている。


「じゃあ、籠をこっちに向けてくれる?」


 僕は背中の籠をリンダさんの方に向ける。きっと採取物を籠に入れるのだろう。


「よっと」


 リンダさんは籠の中に血止め草を放り込んだようだった。籠からばさっと心地の良い草の音がする。


「じゃあ、次行きましょう」


「はい」


 リンダさんは元々歩いていた道の方へ戻っていく。僕もその後について行った。


 更に10分程歩くと、リンダさんは再び足を止めて道から外れた場所を指差す。


 僕はリンダさんが指差した方を見る。次は何を採取するのだろうか。


「あれも回復用ポーションの材料ね」


 リンダさんが指差した方向には毒々しい赤い葉の生えた2メートルもない高さの低木があった。また、木にはビー玉位の大きさの紫色の木の実がなっている。リンダさんの説明によると、回復ポーションの材料ではあるのだろうがかなり不気味に見える。


 リンダさんは道から外れた場所を軽快に歩いていった。少し傾斜があるが、目立った障害物はないのでスイスイと進んでいく。


 僕も葉や草を踏みしめながらその後を追っていく。特に歩くのに問題はなかった。


「これは見た目通りだけどブラッドチェリーって名前の木ね。葉には毒があるけど、実には疲労回復効果があってちゃんと食べられるわ。そこら辺の森によく生えているから、森で迷ったりして食料が尽きた場合はこれを食べることがお勧め。ただし、葉はそのまま触ると手がかぶれる可能性があるから、きちんと手袋をして採取してね」


 リンダさんは僕に詳しく説明をすると慣れた手つきで手袋をつける。


 僕もその様子を見て、手袋をつけることにする。そして、リンダさんの言葉で赤い本に回復用ポーションの材料の1つにブラッドチェリーの実が書いてあったことを思い出す。おそらく、今回は実を採取するのだろう。


「欲しいのは葉の方だから大きな葉を10枚位採取して、私に渡してね。これ、実の方は農家で栽培されているものの方が美味しいし、効果も良いから売り物にもならないのよね。農家で育てたのは毒がないから、毒のある葉を採取するためにはわざわざ取りに行かなければならないの。あ、そうそう。毒物は私の持っているポーチの方に入れるから、籠には決して入れないでね」


 リンダさんは笑顔で僕に怖いことを告げる。


「えっ、葉の方を採取するんですか?」


 思わぬ展開に僕は緊張した声を上げてしまった。手がかぶれるだけとはいえ、正直言ってあまり触りたくない。


「そんなに緊張しなくても手袋をつけていれば何もないから大丈夫よ。ほら」


 リンダさんはウインクをして目の前にあった葉を一枚採取する。特に何も起こることはない。まあ、当たり前のことではあるが。


「君に採取させるのは簡単なものだけだから、今日はこういうものがあるときちんと覚えてもらって、あとは荷物持ちをしていればいいわ。だから、心配ないわよ。そんなに奥に行くつもりもないしね」


「……わかりました」


 僕は緊張しつつも赤い葉っぱを採取する。きちんと指示された通りになるべく大きな葉を選んで採取した。当然ではあるが、手袋をつけているので全く問題はなく採取ができている。ただ、これは何のために使うのだろうと考えてしまう。リンダさんは拷問官と言っていたので、やはり拷問に使うのであろうか?気になって、リンダさんの方を見ると、彼女は周囲を見て何かを探しているようだった。何を探しているか少し気になりはしたが、考えても仕方がないと思いすぐに採取作業を再開する。


「終わりました」


 僕はリンダさんに駆け寄り、重ねたブラッドチェリーの葉を手渡す。


「ありがとう」


 リンダさんはポーチを開けると、紐で葉を束ねてポーチの中にしまう。尚、紐はポーチのポケットの中に入っていたものと思われる。ポーチにはいくつもポケットがついており、採取物を個別にしまうことができる構造になっているようだ。


「次はちょっと危ないものだから、ここで待っていて」


 リンダさんはポーチから布を取り出すと、口にマスクをするように装備をする。そして、数メートル先にある木へ行くと、何やら根元をほじくり返し始めた。


 しばらく、僕はその場に立ち尽くす。おそらくは様子を見るに毒物系のものだと思われる。マスクをしているようだから匂いを嗅ぐのが危険なものかもしれない。


「お待たせ」


 数分もすると、リンダさんは戻ってきた。手のひらに1本だけ茶色い地味なキノコを持っている。地球で見たマッシュルームに似ているかもしれない。外観だけを見るとかなりおいしそうではある。


「それって毒キノコですか?」


 僕はあまり聞きたくはないが後学のために聞いてみる。


「ええ。これ、拷問でよく使われるキノコで「イタイイタイ茸」っていうの。今日はこれを取りに来たようなものかな。あっ、顔は近づけないで離れた場所から見てね」


 僕はリンダさんの警告通りに素直に離れたところから見る。何か、名前がかなり怖い。


「これ、他の森にも稀に生えているから、一応、解説するわね。先ず、これを食べると……」


 リンダさんはニヤニヤしながら、思わせぶりに言う。僕はその言い回しに少し危機感を覚える。


「……食べると?」


「名前通りお腹を耐えられないほどの痛みが襲うわ。量を調整すれば死なないのが、拷問によく使われる理由ね」


「ウェーイ!」


 僕は恐ろしさのあまり思わず情けない声を出してしまう。


「あと、胞子を吸い込みすぎても痛みに襲われるから、採取するにはマスクが必須ね。鼻の奥がひどいことになるらしいわよ。一応、似たようなキノコを見たらマスクをして採取することをお勧めするわ」


「……了解です」


 採取道具が揃うまではキノコの採取をするのはやめた方がいいかもしれない。異世界のキノコには謎が多すぎる。


「それと、見分け方だけど、「イタイイタイ茸」はキノコの傘の裏が赤いの。食用のブラウンマッシュは白いでしょ?」


 リンダさんはキノコをひっくり返す。確かに裏が赤色をしている。その色を見ると食欲は失われた。だが、見分け方は簡単なのでキノコを採取した際は裏をきちんと見ることを心に誓う。


「確かに赤いですね」


 僕がキノコの裏を確認すると、リンダさんはすぐにキノコをポーチにしまった。


「このキノコは他の場所ではあまり見かけないけど、冒険者を長い間やるつもりなら覚えておいた方がいいわよ。博士も以前に間違えて食べて大変なことにあったらしいし」


 僕の頭の中でカスが「あー!」とか叫んで、お腹を抱えて転げまわっている映像が流れる。そして、カスならやりそうだなと思う。


リンダさんは手を慎重に払うとマスクを外して口を開く。


「じゃあ、早く次行きましょうか。午前中には戻らないといけないんでしょ?」


「はい」


 リンダさんの言う通り、午後からはトンネルの土砂を運ばなければならない。今はあちらの方が金稼ぎのメインなので遅刻すると大変なことになる。


「あ、そう言えば、ブラッドチェリーの葉をどうやって使うか教えてあげようか?」


 リンダさんが急に意味深な言い方で話しかけてくる。僕は聞きたくないが、先程からの印象を受ける限りこの人は拷問好きのようで、話したくて仕方がない印象を言葉の節々から感じた。


「えーと、あまり聞きたくは……」


 リンダさんは僕の言葉を最後まで聞くことなく。僕の股間を指差した。


「そこに貼るの。男の人は特にやばいらしいわよ」


 リンダさんは顔を赤らめ、とてもいやらしい瞳で僕の股間を直視する。


「股間を指差すのは止めてください……」


 僕は背中に悪寒感じ、恐怖を覚える。そして、やはりこの人は残念美人さんだと確信した……大人の女性って怖い。


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