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お前かよ!

 僕等はギルド前に到着した地獄の馬車から降りる。


 不快な表情をしていないのはマッソォさん位だった。


「はあ。やっぱり、稼ぎがいいからって連日だと疲労が溜まってくるな。明日はもう無理だわ」


 ゴリラみたいな人が右肩を回しながらぼやく。


「お前、これで3日連続だろう? 俺は連日なんて無理だわ」


 オラウータンみたいな人がぼやく。


 やはり、力自慢達でもこの仕事はきついようだ。


「マサムネ。顔色悪いが大丈夫か?」


 マッソォさんが僕に心配そうに声をかけてくれた。


「ええ。とりあえず、臭いからは解放されたのでしばらく経てば大丈夫だと思います」


「ははは。俺も最初はそうだったよ。まあ、行きも言ったが、慣れればいい稼ぎだ。さあ、報酬を受け取りに行こう」


 マッソォさんがギルドへと向かう。


 僕はそれについて行った。そして、着替えた後に荷物を回収すると、マッソォさんと一緒に報酬を受け取る窓口まで急ぐ。


「では、ギルドカードの提示をお願いします」


 報酬を受け取る窓口に行くと、金髪美人の受付さんが僕への対応をしてくれた。聞くところによると、同じ町では入会手続きをした時の受付がそのまま担当になるそうだ。受付さんは親切な美人さんなので、僕は素直に喜んだ。ちなみにマッソォさんも同じ受付さんだったので、先に報酬を受け取っていた。


 僕がギルドカードを差し出すと、受付さんが僕に依頼書へのサインを促したので、僕は依頼書へのサインを行った。


「お疲れ様でした。こちらが報酬となります」


 受付さんが僕に報酬を手渡す。


「ありがとうございます」


 僕はギルドでの初報酬銀貨3枚を受け取る……素直に嬉しい。自然に笑みがこぼれる。


「マサムネ君。気持ちは分かるけど、後ろが詰まっているから……」


 受付さんが苦笑いで僕に忠告をする。


 後ろを見ると、冒険者が報酬を受け取るための列をなしていた。


「すいません。今どきますので」


 僕は急いでその場を離れる。そして、テンションが高い状態でマッソォさんが待つ掲示板近くの壁際に行った。


「マサムネ。お前、初心者狩りにあったのか?」


 マッソォさんは開口一番に僕に問いかけた。


「ええ。何で、知っているんですか?」


「ああ。お前を待っている間に知り合いと話していたら聞いたんだ」


 マッソォさんは少し面倒臭そうな顔をした。


「うーん。お前、言っては悪いが強そうには見えないからな……ブルーノはしつこいと聞くから用心した方がいい。お前、宿は?」


「ホテルゴンダです」


 僕はマッソォさんを信用しているので、正直に宿のことを話した。


「何だ? ずいぶんいいところに泊まっているな。金はないって言っていたのに」


「初めての町だったので、セキュリティーの高いところを探したんです」


「……なるほど。それなら、宿にいる間は安心だ。あそこには俺の師匠もいるし」


「師匠?」


 僕の頭の中で急にピキーンと効果音が鳴ったような気がした。そして、勘に任せて背後を振り向きながらサイドステップをする。


 すると、そこには……僕を背後から抱きしめようとたくらんでいたらしい珍獣がいた。僕がいたところで、空気と抱っこをしてニヤニヤしている。


「少年。思ったよりもやるな……気配は消していたのだが」


 珍獣は手をワキワキと動かす……気持ち悪いので動物園に返っていただきたい。


「師匠……何をしているんですか……」


 マッソォさんが憂鬱そうに頭を抱える……珍獣がマッソォさんの師匠だったとは、僕も頭を抱えたい。


「これはスキンシップだ。マッソォ。また、何をしに来たかと言うと、初心者狩りに狙われていると聞いた若女将からの依頼で彼を宿まで護衛しに来た」


 珍獣がマッソォさんに向かって言う……何をしてくれているんだ、あのあほの娘は。


「……昔から言っていますが、そのスキンシップは止めた方がいいですよ」


 マッソォさんがため息をつく。


 やはり、マッソォさんは珍獣と違ってまともなようだ……いや、安心してはならない。珍獣の弟子であるところを見ると同類の可能性があるかもしれない。


「はっはっは。すまないが、私は古い世代の人間だから、このようなスキンシップしか思い浮かばないのだ」


 珍獣は懲りていないようで抱きかかえたようなポーズを止め、腰に手を当てて笑い飛ばす……絶対にすまないと思っていないだろうな。


「まあ、あれだ。とりあえず、金はかかるだろうが、しばらくはホテルゴンダに泊まった方がいいぞ。顔見知りのようだが、アランさんは元4つ星冒険者だけあって顔も広い。実力も折り紙付きだし、宿にいる間はブルーノに襲われる危険はないと言っていいだろう」


 マッソォさんが僕に告げる。


「……ええ。明後日には出ていこうと思ったのに」


 僕はゴルサンジャングルから脱出できないことに純粋にショックを受ける。


「まあ、気持ちは分かるが……とりあえず、午前は簡単な依頼を受けて、午後から土砂運びの依頼をすれば金は足りるだろう?」


 マッソォさんは態度を見るからにあの宿の恐怖を知っているらしい……良かった。常識人のようで、信じていましたよ。


「ええ。まあ、そうですが」


 僕は素直にうなずく。


「だが、少年よ。油断しない方がいい。噂では最近エスカレートしていて友人や家族のことをちらつかせることもあるそうだ。この町に来たばかりの君ならあまり関係はなさそうだが」


「えー。それだけ悪いことをしているのに捕まらないんですか?」


 僕は珍獣の警告に素直に疑問を返す。


「うむ。それだけ、奴らは狡猾なのだ。君に絡んでいた騒ぎに関しても「ちょっと、新人君をからかっていただけさ」と煙に巻いていたらしい。被害者たちも口を閉ざしていて、今はお手上げといったところだ」


 珍獣が両手のひらを上に向け、お手上げといったポーズをとる。


「まあ、今日の所はアランさんに宿まで送ってもらえば大丈夫だろ。あ、そう言えば、生活用品が売っている場所を案内するって約束はどうする?」


 マッソォさんは僕に話を振る。馬車の中で話していたところ、親切なマッソォさんは乗り掛かった舟だからと案内してくれると約束してくれたのだ。


「それならば、私が案内しよう。どうせ、宿まで送ることだしな」


 珍獣が上腕を主張しながら自分に親指を指してポーズを決める……慣れてきた自分が怖い。


「……まあ、マッソォさんも疲れているでしょうし。この人に案内してもらいます」


 僕は少し考えて返事をした。マッソォさんはいい人だが、お世話になりすぎている気がするので珍獣に案内してもらおう。


「別にそこまで疲れてはいないが……まあ、師匠の案内なら問題ないか。じゃあ、俺は先に失礼します。では……師匠。マサムネ。また明日」


 マッソォさんは僕等に手を振ってギルドから出て行った。


「では、少年。先ずは生活用品を買いに行くか。臭うから石鹸を買った方がいいぞ。はっはっは」


「……よろしくお願いします」


 一応、案内してもらう立場なので丁寧な言葉で応対する。だが、珍獣に臭いと言われたことに少し腹が立った……はあ。僕じゃなくて、他の人の臭いが染みついているだけなのに。


 僕は珍獣と一緒にギルドの外に出る。すると、僕の頭の中で急にピキーンと効果音が鳴ったような気がした。誰かの視線を感じるような気がする。しかしながら、周囲をそっと見渡しても人が多く、視線の主は発見することができなかった。


「……少年。視線を感じるのに気付いたか?」


 珍獣が僕にそっと告げる。元4つ星冒険者だけあって、そういったことも分かるらしい。珍獣だけあって気配に敏感なのかもしれない。


 珍獣からの警告に僕は視線を合わせてそっと頷く。そして、先程まで話していたブルーノのことを思い出す。


「とりあえず、私から離れないように」


 心強い背中に僕の中で珍獣の……いや、アランさんの評価が100ポイント上がる。今まで、珍獣扱いしていてごめんなさい。


 僕とアランさんは1番通りを抜けて奥の2、3番通りと合流する道に出る。すると、先程まで感じていた視線はなくなった。


「うーむ。視線は感じなくなったな。なら、そのまま生活用品の売っている2番通りに行くか。はっはっは」


 アランさんが笑いながら言う。


「あの、今日はこのまま帰った方がいいのでは?」


 僕は心配になってアランさんに提案をした。


「いや、ささっと買えば問題ないだろう。私についてくるといい」


 アランさんは少し早歩き気味に進みだす。


「え? と、ちょっと……」


 僕は急なアランさんの動きに動揺したが、そのままついて行ってしまう。そして、アランさんは生活用品の売っているという、2番通りに入っていく。


 2番通りは食料品や生活用品、服、靴などを売っている店が並ぶ通りだった。まだ人が結構歩いており、僕はぶつからないようにアランさんを追いかける。数分も歩くとアランさんは服屋と靴屋の間に立ち止まった。


「少年。この先に穴場の店があるのだ。宿の御用達で安く買えるぞ」


 アランさんが指し示す場所はいわゆる路地裏というものだった。


 そちらの方を見ると、再び僕の頭の中で急にピキーンと効果音が鳴ったような気がした。


「えっと、こちらから嫌な感じが……」


「はっはっは。何を言っている。さあ、さあ」


 アランさんは急かすように僕の背中を押して、路地裏へと押し込んでいく。


「え? えっと、ちょっと……」


 僕はアランさんの急な対応に大きく動揺をする。そして、路地裏の奥へと行ってしまった。


「……ふふふ。よくやったアラン」


 路地裏にはフード付きの黒いローブを着た人物がいた。フードを深くかぶっているので顔は見えない。また、長物を背中に背負っており、魔法を使っているのかモザイクのかかったような声をしていた。


 僕はまさかと思い背後を見ると、アランさんが暗い表情をしていた。


「すまない。私は脅しに屈してしまった」


 僕は先程アランさんが言っていたブルーノの話を思い出す。


 アランさんは「噂では最近エスカレートしていて友人や家族のことをちらつかせることもあるそうだ」と言っていた。確か、アランさんには嫁さんがいるとも聞いたような気がする。


 僕はローブの人物へ目を向ける。


「儂を池に叩き落した件、許すまじ! 裏路地の埃となり散れ!」


 カスがローブを豪快に脱ぎ捨てて、長い立派な槍を僕に突きつけた。


「お前かよ!」


 僕は思わず右手を大きく差し出してツッコミをしながら叫んでしまう。


 また、同時にカスと珍獣の評価が10000ポイント下がった。


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