こんな奴好きじゃない
オシャレは難しい。夢ちゃんが言っている事をまとめると。今はビックシルエットが流行っている。上がビックなら下はすっきりとしたものを。下がビックなら上がすっきりしたもの。ほうほう、確かに可愛いな。夢ちゃん一押しはピンクの大きめのパーカーに下は黒のぴったりとしたミニスカート。どちらもそれ程高くなく、というか買える!財布に入っている金額で。試着すると可愛い!なんというか似合っている!
「買います!」
「うん似合ってる!」
お会計を済ませお店をでた。
「夢ちゃん本当にありがとう。夢ちゃんのおかげで可愛い服が買えたよ!ありがとう!」
「いいえ!また服見に行こうね!勉強合宿も1ヶ月後だし。その時は5日間私服だしね。」
なんですと!じゃあ絶対にもうちょっと私服いるじゃん!
「夢ちゃん!またお願いします!」
「うん!じゃあまた明日ね!」
「バイバイ!」
ルンルン気分で家に帰ってお母さんに服を見せた。それにしても合宿までにトータルの服を後3着は買って、上の服をもう少し買いたそう。というかパジャマも買おう。ジャージはさすがに…。パジャマはワンピースタイプと普通にシャツとズボンのタイプを買おう。後、靴、鞄。雑誌を必死にめくりながら買うものを考える。今まで何も買わなかったから、お小遣いもお年玉も全て残っている。だいぶ買えるぞ…。明日、次は1人で服屋に行ってみよう。私はもうオシャレの虜だった。
翌朝、学校に大金を持って行くのは落としそうで嫌だったので、1度家に帰ってきてから買い物に行くことにした。
「おはよう!春ちゃん!」
「おはよう。」
なんだかクラスの人たちがいつも以上に挨拶してくれる。なんだろうと思っていたら夢ちゃんが説明してくれた。
「皆、春ちゃんは1人が好きって分かってたの。けど今なんだか明るくなって私たちもっと踏み込んでいいのかなって思ってるの。いや?」
「ううん、嫌じゃないよ。1人も好きだけど、皆とも仲良くなりたい!」
それから先生が来るまでずっと女子の皆で話をしていた。やはり彼氏の話とファッションの話だ。私は可愛い系の服が似合うらしいので、そこを攻めよう!
「ほらぁ席に着けー。今日は転校生が来てるからとっとと紹介するぞ。入ってこい。」
そうして入ってきたのは、中学の時好きだったトラウマの原因の吉井君だった。向こうも私に気が付いたようで目が合った。私はすぐにそらし顔を菅野君の方に向けてしまった。菅野君はじっと私を怖い顔で見ていたようだ。こっちはこっちで怖い。正直、もっと傷付くと思っていたがそうでもなかった。吉井君を見てもああ、あの時のとなるだけで泣きそうとも思わなかった。
放課後、帰ろうとしたところに予想もしなかったことが起きた。靴箱の前に吉井君がいる。黙って通り過ぎようとしたのに呼び止められてしまった。
「おい。顔貸せよ。」
「えっと、人違いでは?」
「人違いっていきなり言うのがおかしいだろ。誰とのだよ。」
うっ正論だ。仕方なく後をついていった。古い駐輪場は新しいのができてからは誰もこない場所で、専ら恋人が会う場所として有名だった。何故こんなところにと思いながら、吉井君が話すのを待った。
「まず、なんで中学の時、呼び出しといて来なかったんだ。俺一時間は待ったぞ。」
「えっ!だって聞いたんだよ。あなたが友達と私の悪口言うのを。」
「えっそれはごめん。あの時は冷やかされたくなくて適当に話を合わせた気がする。」
「そうなんだ。じゃあ許すとは言えないけど。まあ分かったよ。」
思春期の男の子だし、そういうのも仕方ないかな。うん、意外と落ち着いてる私。
「じゃあ、あの時なんの話だったか教えてくれ。」
「ご想像の通りだよ。」
「お前の口から聞きたいんだ。」
何を今更。
「頼む。」
「あの時、告白するつもりだった。これでいい?」
「ああ、じゃあ今は?好きなやつはいるのか?」
「今はいないよ。」
「じゃあ、俺と付き合わないか?俺はあの頃からずっとお前が好きだった。」
えっ。全く頭が回らない。吉井君が何を言ってるのか。分からない。もう2年経っている。
「えっ。無理。」
「悪口を言ったのは悪かった。けど本当の俺を知ってから決めてくれないか?まずは友達からやり直したい。頼む!」
吉井君は頭を下げている。
「分かった!分かったから頭を上げて!」
「じゃあ一緒に帰ろう。」
といった流れになり私と吉井君は一緒に帰っている。ものすごく見られる。行く人行く人吉井君を見て振り返る。吉井君は中学の時より背が伸びていて顔も大人びている。中学の時は背が低くて可愛い系の男の子だったのに。今は正反対だ。なんだか隣にいると、なんなのあの相応しくない女という風に見られる気がして少し後ろを歩いてしまう。
「隣に歩くのも嫌な位俺が嫌いか?」
「あっそうじゃないの。なんだか道行く人が吉井君を見るから横にいると相応しくないって言われる気がして。」
「なんのことか分からないが、嫌いじゃないならいい。隣にこないなら手をつなぐぞ。」
そういって本当につないでしまった。手を振り払おうとしても全然離れず仕方なくそのまま歩いた。
「この後、遊んだりするのか?」
「ううん。服を見に行こうかなって。」
しまった。流れで話してしまった。吉井君がこちらに向くのと同時に叫んだ。
「無理!」
「まだ何も言ってないだろ。俺も一緒に行くよ。」
「だから無理。」
「ほら着いたぞ。着替えるのお前の家の前で待っててやるよ。行ってこい。」
そういって背を押された。仕方なく玄関の扉を開け中に入った。吉井君ってあんなに強引だったかな?そう思いながら着替えを終え自分の部屋から出ると、玄関の方から声がする。
「まあ、じゃあ春をよろしくね。」
「はい。無事に送り届けます。」
「あら春。こんな彼氏ができたから最近可愛くなっちゃったのね。」
「やめてあげてください。春さんは恥ずかしがり屋ですし。まだ彼氏じゃありません。」
「まあ、そうなの。」
「はい、僕は彼氏になりたいんですが、春さんが。」
「まあ春!吉井君いい子じゃないの!」
「僕は春さんを待ちます。」
「お母さん、私行くね。早めに帰ってくるから。」
「あら、吉井君が送ってくれるなら遅くなっても大丈夫よ!」
「ははは、早めに帰しますよ。」
私は走って家をでた。あいつぜってー許さねぇからなぁ。