過去に囚われたまま
家に帰ってきてもずっと菅野さんの事を考えていた。菅野さんは優しくてキリッとしているお姉さんで私とは大違いだ。
それにしても、菅野といえば同じクラスの男子にいた気がする。ああ、思い出した。見た目も良くて中身もいいと噂の1年生で男子の中で1番人気の菅野くんね、というか今は隣の席だわ。4月の最初、その時は席が斜め前で、女子から質問攻めにあってて好きな人はいる?って聞かれて私の横のこれもまた1年生の女子の中で1番人気の田中日菜ちゃんを見ながら、いるってもじもじ答えてたのを思い出した。てことは田中さんと付き合ったのかな?恋人ね、その言葉を聞くだけで胸が痛くなる。
よし今日は勉強せずに寝よう。私はベッドに横になり目を閉じた。
学校は毎日同じことの繰り返しで特別に良いことも悪い事も起きずにただ過ぎていく。そうした日が何日か過ぎた頃だった。またあの公園で菅野さんにあったのだ。
「学校はどう?楽しい?」
今まで違う話で盛り上がっていたのに急に菅野さんは学校の話をしてきた。こんな暗い私が学校をエンジョイしてると思うのだろうか?
「普通です。たまにびっくりすることが起きますが。」
「例えば?」
「クラスの女子全員彼氏がいるからあなたも作らない?って言われました。」
「ふふ、何それ。作れば春ちゃん!」
「恋人はいりません…あの私の話聞いてくれます?」
「うん、勿論。」
「私、中学の時好きな人がいて告白しようと思って手紙を書いたんです。それで呼び出そうとした。朝に手紙を入れてしまったんです、そしたら休み時間に男子が集まって話しているのを聞いてしまったんです。おいお前この手紙読めよ。おいおいあの暗い女子だろ?やばくね、あんなのと付き合ったら暗くなるぜ。それで行くのか?お前。そして好きだった男の子が言ったんです。行くかよ、俺も暗い女は嫌いだ、と。私は呼び出した場所には行きませんでした。それから私は勉強に全てを注ごうと決めました。だから恋人を、好きな人を作るのが怖いんです。」
「そっか。辛い事を思い出させてごめんね。分かった、じゃあこれをあげます。お守り。」
菅野さんはそう言ってHのイニシャルのネックレスをくれた。
「これ初めての給料で買ったものなの。いつもどんな時も勇気をくれた。だから次はあなたがこれから勇気をもらって。」
「えっそんな大事なものを何故?」
「私もおなじ思いを学生の時にしたことを思い出したの、だからよ。私はまた人を好きになることができた。だからあなたもきっとできるわ。さあ帰りましょう!」
笑顔でそう言った菅野さんはとても綺麗で私とおなじ思いをしたなんて考えられなかったけど。私が話してる時の表情がとても真剣で嘘をついているとは思えなかった。
菅野さんと別れ私はまた考え始めた。
「人を好きになれるかな?」
私は小さく呟いた。