いちわ。
やあ、君か。そう、僕だよ。元気にしてたかい。
……ん?今何をしているのかって?見ればわかるじゃないか。次元の壁を越えようとしているんだよ。今日こそは行ける気がしてね。なんとか引っ張りだそうとがんばっているんだ。
……ああ。今回はね。確かに、いつもは僕が向こうに行こうとすることのほうが多いかな。……いや、そういう気分だったんだよ。今日は。なんとなく、向こうがこっちに出てきてくれないかと、ね。
しかし、どうも上手くいかないねぇ。かれこれ、一時間……一時間!?えぇ、そんなにたったの……。あぁ、うん。そうだね。一時間くらいやってるけど、いっこうに出てきてくれる気配がない。もしかしたら、僕が勝手にそう思っただけで、今日はその日じゃないのかもしれないねぇ。……いや、そんなことないよ。来るよ。その日は来るよ。
……うん、まあ、そうだな。お前も来たことだし、そろそろ止めるか、これ。
「それがいいよ。お前、近寄りたくなかったぞ。」
あっはっは!だろうね。俺もこんな奴近寄りたくない。
「はぁ、二度と大学のコンピューター室でこんなことしないでくれ。正直なんか悪いもんにとり憑かれたのかと。」
言えてる。いや、むしろ憑かれてるのかもな。俺の嫁に。
いてっ。
「さすがにきもい。」
うん。特に上手いこと言えたわけでもないしな。
「てか、平面の画面にアンアンクロー……アンアンクローって言えるのか?アンアンクローもどきをかまして、それで出てくると思ったのかよ。」
いや、違うよ。ああやって引っ張りだそうとしてたんだよ。
「何も掴めてないのに引っ張りだせるかよ……。」
それな、思った。だって画面に手ついて指先に力込めてるだけだもん。それでも必死に引っ張りだそうとしたんだぜ?パントマイムだけど。
「……パントマイム。」
あっ、いや、違う。パントマイムじゃない。だってちゃんと掴んでたもん。ちゃんと引っ張ってたもん。
「でもお前、掴んでたらそれまさにアンアンクローじゃん。画像の顔もお前の手の中にあったし。傷害事件だよもう。」
いやー、それは、さ。確かに位置的にはそうだったけど、実際は違うっていうか。ほら、イメージ的にはちゃんと手掴んでたんだよ。
「……イメージ的には。」
あっ、いや、違、……まーいーや。イメージの力でなんとかなんだよ。うん。
「急に雑になったな。」
うん。面倒になった。いや、でも俺が引っ張りだそうとしてるのは本気だよ?そこは信じて?
「いや、無理だよ。」
まじ信じてって。ほら、画面の向こうの嫁をさ、俺の彼女ですーっ!って紹介できたら、すごいと思わない?それだけで俺の人生救われるわ。
「はぁ………、お前さ、」
「二次元は嫁にはなっても彼女にはならんよ。」