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1918年

新作はじめました。


スチームパンクな第二次世界大戦をイメージしてます。

あとこの世界に魔法は存在しません、神もいませんし、悪魔もいません。

ただ人間と亜人がいるだけです。


 「蒸気力は世界を変えるために神から奪った力だ!地を奔り、空を飛び、海を行く全て物が蒸気機関で満ちている!蒸気ある限り我らに進めぬ地などなく、届かぬ場所もなし!!ああ蒸気よ偉大なれ!」(とある気の狂ったドワーフの職人の言葉)


 50年前の彼の言葉は、現在この世界の陥った状況を端的に示す、すばらしい言葉だ。

 10年前にアダマン鋼の急速冷却焼付法と管内防食鍍金法による表面疎水化技術が生み出した超臨界蒸気機関の小型化により、地を走り空を行くもの全てに搭載可能な原動力が生み出された。

 そして世界を闊歩する手段を得た我々が、世界の隅々まで人類(亜人であるドワーフ・アルブ含む)が足跡を残した結果、我々は所有する富を決め直すために全世界を巻き込んでの戦争に突入した。

 戦争は航空戦力としての熱気球を全面金属装甲推噴式飛行船に、騎馬に変わって戦車(タンクを、風による帆船をボイラー搭載の機動戦艦に置き換わることで、戦争のテンポは速く大規模なものに代わって行った。

 それまでの戦争が参加人数が数十万単位であれば大戦争だったのが、今回の戦争では世界中の国が陣営を明白にすることで、数千万単位の兵士が入り乱れ、世界中で勝敗を続けていた。

 正に前代未聞未曾有の大戦争であり我々はこれに「世界大戦」という名前をつけるにいたった。

 そして二つの列強と称された帝国が革命で崩壊し、1000万にも及ぶ死傷者と4年の月日を空費して戦争は終結した。

 後に残ったのは瓦礫の山と化した街並、死傷者の怨嗟の声である。

 その中でも勝った陣営に所属した国々は、負けた陣営の国々から少しでも損失を取り戻し、世界大戦の再発を防ごうと外交と軍事力で戦後世界を治めようとしていた。


 紀元1918年11月11日、首都ベルン行きゲイル帝国鉄道客車


 ときおり汽笛がなる中、眠りそうになるレールの音をBGMにSL列車は順調に進行していた。

 新型のSLは時速100kmを越えるらしいのだが、塹壕で毒ガス攻撃を受けた炎症で失明中の目では車窓の景色を眺めることも出来ない。

 痛みは取れてきたのであと2・3日で視力は戻るはずだ。

 完全に視力が戻るかは今後の経過しだいだが……

 とはいえ、この従軍傷痍勲章と1級・2級鉄十字章のおかげで一介の上等兵が、コンパートメントに座りながらフラン共和国との前線から離れていけると思えば、決して悪くはない取引だと思う。

 俺達の戦場は塹壕だった。

 塹壕無しでは砲撃で、どんな大部隊でも一瞬で消滅するのを、徹底的に叩き込まれた。

 野戦ですら部隊展開後に蛸壺を掘って個人用塹壕とするような教育を受けてきた。

 その中で俺は伝令として制服を泥だらけにしながら命令を運ぶのが任務だった。

 敵に向かって弾を撃ったことなどない。

 楽なように聞こえるか?

 こちらが撃たずに一方的に撃たれる恐怖を味わってから言え。

 事実、伝令兵の損耗率は一般兵士の10倍以上だ。

 俺達は伝令犬メッセンジャードックとは違う。

 やつらなら本能でだめなら進まず戻ってくるが、人間は本能を理性で押さえ込んで目的地に辿り着く。

 60kmで走る犬がやばいと思っていけない場所に人間は時速10kmで突っ込んでいくんだ。

 今回の負傷も毒ガス攻撃を直前に受けた陣地に命令を運んだときに受けたものだ。

 辿り着いた陣地は無人だったが……当たり前だ。いれば死ぬんだ。撤退するだろう。

 命令文は「毒ガス攻撃を受けた場合は次列陣地への撤退許可」だった。

 そんな命令を運ばせるな。といいたかったが、これを運ばないと命令違反じゅうさつか戦死で陣地の仲間が死ぬことになる。

 意を決して運んだが、残留していた毒ガスで目をやられて、撤退中の陣地兵士に後方に運ばれた。

 陣地の兵士達は俺に感謝してたよ。命令違反で銃殺を避けられたから。

 感謝のあまり1級鉄十字章の申請までしてくれた。

 行軍傷痍章だけだったら貨車に載せられて移動だったであろうことを思えば、彼らの恩返しは十分だと思う。

 何よりもこれで安全に最前線から離れることができた。

 俺が負傷して野戦病院で治療を受けている間に、北方のほうでは戦車タンクの集団が塹壕を突破したらしい。

 今までの戦車(タンクとはまったく形状の異なるタイプで中世の鎧のようなタイプだといっていた。

 そんなのが出てきたら塹壕内ではほぼ詰みになる。

 いい時期に前線を離れられたものだ。

 両目は治療を続ければ又見えるようになると軍医も言っていたし、陣地でも山ほどの回復例は見てきた。

 手足をなくしての後送よりははるかにましだ。

 来年は30才だし軍からおさらばできるかもしれない。 


 紀元1918年11月11日、旧ベルマ帝国領ニール村付近


 村で一番の鍛冶師の父さんが軍人さんに呼び出されて何かを修理したらしい。

 息子のボクには「ぐんじきみつ」ということらしく詳しいことは教えてもらえなかった。

 そのあと鍛冶場に鉄を溶かす施設が増えて鋳鉄の歯車を大量に作るようになった。

 一体何に使うのかは予想もつかないがいろんな大きさや厚さのものが転がっている。

 忙しいのでボクも皮手袋をつけてバリ取りの毎日だった。


 それも今日までらしい。祖国が戦争に負けたと父さんは言っていた。

 軍人さん達は首都のベルンに移動、父さんの仕事はなくなった。

 移動のとき軍人さんは蒸気を噴き出す巨大な鎧を馬車に積んでいた?

 鎧から蒸気が噴き出すのが不思議だったので、村の大人に聞いたら「装甲猟兵」というものだと教えられた。

 あの装甲猟兵を直すのが父さんの仕事だったらしい。

 父さんに仕事がなくなったの?と聞いたら、これからも近所の農具は相変わらず直さなくてはいけないので、戦争前に戻っただけだと父さんは笑っていた。

 でもこれでしばらくは鋳鉄の仕事もしなくてすむだろう。

 これで10才になったボクは学校に通えるようになるかもしれない。楽しみだ。


 6000万人を巻き込んだ世界大戦は革命によるベルマ皇帝の亡命とスラブ皇帝一族の抹殺という結果をもって終結することになった。

 ベルマ帝国は敗戦国として莫大な賠償金を背負い、戦勝国であるはずのスラブ帝国は共産主義国家として歩み始めた。

 その中ベルマ帝国では一つの噂が流れていた。

 それは「帝国は裏切りにより敗北しただった。」

 実際には国力は尽き戦闘継続は不可能な状態だったが、主戦戦だったフラン共和国との西部戦線より首都へ兵士が戻ってくるにしたがってこの声は大きくなった。

 西部戦線から首都まで700km以上この距離を殆ど混乱なく撤退できたため、軍は「我々はまだ戦えた!」と大きな声を上げはじめた。

 現実に百万単位の無傷な兵士が首都に戻ってくるとその声は一層大きなものになった。

 では誰が裏切ったのか?

 それは亜人であり流通、金融を牛耳っていたアルブであり、東の大スラブ帝国を滅ぼした共産主義者であるという主張?が挙げられた。

 この4年で国内経済がボロボロになり、国がすでに戦争継続不可能な負債を負っていた。

 その負債を引き受けていたのはアルブの銀行家だということは一般の人々は知らなかった。

 アルブはケチで金に汚い金持ちというイメージだけが国民の風評を支えていた。

 そしてそれは軍の影響力保持のための扇動工作によって市民の心の奥底により一層染み付くことになった。

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