第4話
「・・・・ん・・・」
目が覚めるとそこはふかふかのベットだった・・・・・・ああ、そう言えば異世界に来たんだったな。今何時ぐらいだ?まあとりあえず着替えるとするか。
あれ? そういえば俺の服ってどこ行ったんだ? 昨日風呂に入るときに籠に入れてたんだが上がったらなくなってたしな。ということはあの2人のどっちかが回収してくれたのか? 呼んでみれば分かるか・・・
昨夜渡されたスズを鳴らすと10秒ほどで扉がノックされた。
「はい」
「失礼いたします」
入ってきたのは髪型を入れ替えていたためはじめマリアさんかと思ったが胸部の体積で見分けがついた。この格差はとても残酷だ・・・
「それでどのようなご用向きでしょうか?」
「えっと、俺・・・自分の服はどこですか?」
「リュウジ様のお召し物はこちらで預からせていただいております」
「預かる?」
「はい、リュウジ様のお召し物はこの世界ではとても目立ちます。ですのでおそらくいないとは思いますが仮にそれを盗み、売りに出せばかなりの値が付きます。なのでこちらで預からせていただきました」
「そうだったんですか・・・それじゃあ自分の服はどうしたら・・・」
「その点はご心配ありません。こちらで適当に見繕わせていただきました」
アリアさんが部屋の外に出ると、初めから準備していたのか、入れ替わるようにマリアさんが服をもって入ってきた。
そうか・・・そうだよな。異世界のものとは分からなくても日本の方がそういう技術についても発展しているだろうし・・・よかった、あのままマリアさんが気を利かせてくれなかったら大変なことになっていたかもしれない。
「ちなみに今まで着ていた服はどこにあるんですか?」
「そちらは私共の部屋で管理させていただいております。リュウジ様が出発される際にお返しさせていただきます。それではこちらをどうぞ」
まあ、今前の服をもらってもちょっと困るし、返してもらえるならいいや。元の世界に戻る気はなくても、思い出にはなるからな。
「こちらがリュウジ様の新しいお召し物となります」
「ありがとうございます。助かりました」
マリアさんから受け取った服はどう見ても一般人って服じゃあなかった。全体的に装飾が施されている見るからに貴族っぽい服だ。
「あの、マリアさん、もう少し一般人、平民っぽい服ってないんですか?」
「申し訳ありませんがそちらの服がこの城にある最も平民に近い服です。これよりも下となると、街で購入していただくこととなります」
「・・・分かりました」
とりあえず着るものが無いと困るしこれを着ておくか。そんで城を出たら周りの人を観察して平民っぽい服を買おう。金持ちだと思われて襲われても困るしな。
装飾は多かったが着心地は今まで着ていた服、日本の既製品の制服と同等ぐらいだった。高い服の着心地がこの程度ってことは、もっと安い服となるとかなり着心地が悪いんじゃないか? こればっかりは異世界だからで納得するしかないか・・・はぁ・・・
その後、アリアさんが朝食を持ってきてくれた。今日の朝食はレタスにハム、スクランブルエッグにパン、あとはミルクとコーンスープだった。比較的ありふれたメニューだが作ったのが城の料理人というだけあってとても美味だった。
さて、朝食も食べたことだし、勉強を始めますか。
それからメイドさんとの勉強会が始まった。今日学ぶのは魔物と魔法についてだ。
昨日聞いた話では魔王とか魔物とかいかにもファンタジーな単語が出てきたがいまいち分からなかったから今日の勉強はかなりためになった。ついでに魔法もだが・・・
とりあえず魔物についてだが、魔物とは恨みや憎しみ、恐怖などの負の感情によって変質したマナと呼ばれるものが形を成すことによってうまれるらしい。マナはこの世界にいたるところに存在するが、森の奥地やそれに準ずる人の手が入っていない場所には大量のマナが集まっている。魔物はそんなマナスポットで生まれるそうだ。
現在は魔王との戦いで多くの人間が恐怖などの負の感情を多く抱えている。それによって通常よりも魔物が多くなっているのだ。それに加えてただでさえ魔物の討伐を主目的としている冒険者が魔王領へと向かっていて慢性的な戦力不足なのにもかかわらず、魔物が多くなっているということでさらに負の感情が募る。そうした悪循環が起きているため、今はまだフェーリクルト帝国対魔王領という状況にもかかわらず勇者を召喚したそうだ。勇者召喚という話題によって魔物の発生を減らせればその分楽になるからだ。
魔物についての勉強はこの程度で終わり、魔法について勉強が始まった。
魔法とはMPつまり魔力を使用して発動させる技のことだ。
そもそも魔力とは空気中のマナを体内に取り込み、それを変換することで手に入るらしい。使用した魔力が回復する速度は基本的に一律で、1分に付き1回復するそうだ。俺の場合は5分だな。中にはもっと速いペースや逆に遅いものもいるらしいがそういうものは10万人に1人いるかどうかだそうだ。因みにこのドラゴステッド王国の国民は50万人ほどだ。ということはこの国に5人程度いることになる。
さて魔法だが、その発動にはいくつかの工程が存在するそうだ。初めに属性を決める工程だ。これはそれぞれの属性を意味する魔法語を唱えるというものだ。魔法の属性は《火》、《風》、《水》、《土》の4種が存在する。それ以外にも無属性や治癒魔法、暗黒魔法などが存在するらしいが今は無視する。それで魔法語だが試しにアリアさんに唱えてもらうと、普通に日本語だった。
というのも昨日はあまり気にしていなかったが、この国の言葉は日本語とは全く異なる言語だ。それなのに俺が問題なく聞き取れているのは召喚をする際にそういう能力を与えられたからだそうだ。
それで魔法語なのだがこちらは正真正銘日本語だった。それぞれ《ひ》、《かぜ》、《みず》、《つち》と唱えていた。この世界の人はまずこの魔法語をきちんと言えるようになるまで2年ほどかかるらしいが俺たちは元から話せるのでありがたかった。さすがに魔法は使いたいものの、たった1週間で魔法語なんて未知の言語を覚えることなんて不可能なのでとてもありがたかった。
そして次の工程だが、魔法語によって属性を決定した後は使用したい魔法をイメージし、それに合わせた呪文を魔力を込めながら唱えることで発動するそうだ。
そう聞くと、一人ひとり呪文が異なる可能性もあるのだが、基本的に開発された魔法はある程度一般に公開されている。その際に呪文と共にどのようなイメージかも公開されるため、ほとんどの魔導士はその呪文をそのまま使用する。中には既存の呪文を一切使わずに自分だけの魔法を使う者もいるそうだ。
そしてある程度魔法の行使に慣れたものは呪文の詠唱を無くした無詠唱を使うそうだが、その場合、通常よりもしっかりとイマージを固めなければいけないため、非常に難しいらしい。
俺に魔法が使えるのか聞いたところ、5程度のMPではほとんど使えないそうだ。使えるとしたら指先にマッチ程度の火をともす魔法《灯火》程度だと言われた。試しに何度か挑戦してみたものの、魔力を込めるという感覚が分からなかったため結局使うことは出来なかった。魔法自体に憧れはあるものの、俺が使いたいのはそんなしょぼい魔法ではなく、もっと派手なものだ。なのでしばらく練習は継続するものの、使えたらいいな程度で行こうと思っている。
因みに《灯火》の魔法の呪文は「《火》よ我が指先にともれ《灯火》」というものだった。
その後さっき説明を省かれた魔法について説明された。まず無属性魔法だが、これは魔法というよりも魔力の性質のようなものらしい。魔力にはその対象を強化する力があるそうで、例えば足に魔力を集めればその脚力が、目に集めればその視力がといった形に強化される。しかし、魔力を内臓に込めたとしても、その機能が強化されることはなく、ただダメージに強くなる程度だそうだ。
次に治癒魔法だが、これは無属性魔法と同じように魔力の性質を利用したものだ。魔力を患部に向けて放出することによってその部分の治癒力を爆発的に上昇させ、傷をふさぐ。ある程度の教えを受けたものならば、擦り傷や切り傷程度ならば治すことができるが、腕が切断された場合や、内臓に疾患がある場合などは医者に行き手術をしてもらい、その後治癒魔法をかけるという形になる。治癒魔法とは言ってもそれほど万能ではないらしい。
最後に暗黒魔法だが、これは魔王とその眷属である魔族が使用する魔法だそうだ。その原理は全くもって解明されていないが変質したマナと関係があると考えられている。
そして、魔族だが、基本的に魔物と魔族はほぼ同一の存在だ。魔族とは魔王の血を魔物が飲むことによってその能力や思考が強化されたものをいう。その強さは元の魔物にも準拠するが、さらにどれだけ魔王の血を体に宿しているかにもよるそうだ。魔族は魔物よりも絶対数が少ないものの、その強さは比べ物にならない程らしい。
こうしてメイドさんによるありがたい授業は終了した。
朝起きたのが7時過ぎで授業が終わったのが12時ちょうどぐらいだったのでおそらく4時間近く勉強していたんだろうな・・・学校の授業は50分でもきついというのに4時間が苦にならないとは・・・興味のあることはやっぱり集中できるみたいだな・・・
ちなみに時間が分かるのは時計があるからではなく、決まった時間に鐘が鳴るからだ。最初になる鐘は、朝4時を表す鐘で1回、それから2時間ごとに1回ずつなる回数が増えていき、夜の6時つまり18時まで続く。鐘を鳴らしているのは魔法とかそういうものではなく人力らしい。砂時計を使って2時間を測っているそうだ。そのため多少の誤差はあるものの基本的に誤差はない。
昼食は朝食とほとんどラインナップは変わらなかった。強いて言うなら多少量が増えていた程度だろうか・・・
「リュウジ様、午後はどのようにお過ごしになる予定ですか?」
マリアさんが昼食をかたずけていると、アリアさんが声をかけてきた。
「そうですね・・・訓練場に行ってみたいですね。城を出た後は剣とか使う機会があるでしょうし、少し練習をしておきたいです」
「分かりました。私は訓練場の方に伝えてきますのでマリアが戻りましたらそちらへお越しください」
「分かりました」
アリアさんとマリアさんが部屋を出てから10分ほどで再びマリアさんが何か荷物をもって部屋に戻ってきた。
「あの・・・アリアさんもそうですけど、マリアさんも自分に付きっきりでお昼とか大丈夫なんですか?」
「そちらは問題ありません。きちんと空いた時間に食べておりますので」
「そうですか・・・」
空いた時間に食べるって俺、2人が食事をとれるような空き時間を作ってるの見たことが無い・・・でも、ひょっとしてさっきの10分程度の時間が空き時間なのか? メイドさんの凄さをまた1つ発見した・・・
「リュウジ様、訓練場に行く前にこちらにお召し替え下さい」
マリアさんに渡されたのは道着のような動きやすさを重視した服だった。
「そうですね、たしかにこの服じゃあ動きにくそうです」
着替え終わり部屋の外に出ると、マリアさんが歩き始めた。
「それではリュウジ様、訓練場に向かいましょう」
マリアさんによると今向かっている訓練場はいくつかある中でいちばん小さい場所らしい。そこはほとんど使用されておらず誰の邪魔にもならないそうだ。訓練場に到着すると、そこにはアリアさんと60前後ぐらいの鎧を着た老人がいた。
「リュウジ様、こちらがリュウジ様に剣の指導をして下さるウェリバー様でございます。すでに引退されましたが、王族の剣術指南役でございました」
「どうも本田・・・いえ、リュウジ・ホンダです。今日はよろしくお願いします」
頭を下げると頭上から陽気な笑い声がした。
「そこまでかしこまらんでも構わんよ。今紹介されたが今日からお前さんに剣を教えることになったウェリバー・ウォレットじゃ。お前さんがこの城にいられる時間も少ないらしいからのう、早速で悪いが始めさせてもらうぞ」
ウェリバーさんは持っていた木剣を放ってきた。
「おっと」
慌ててキャッチすると、学校の授業で竹刀を持った時のように剣を構えた。
「ふむ・・・お前さん、剣を振ったことは?」
「えっと、真剣を振ったことはないです。練習用の剣は10回ぐらいでしょうか・・・」
「その構え方はその時に習ったものか?」
「そうですが何かおかしかったですか?」
「構え方の基本は問題なさそうじゃな。ならばあとは模擬戦あるのみじゃ。全力でかかってこい」
ウェリバーさんに言われた通りに全力で正面からかかっていくと、そのまま受け流され後頭部を剣の側面で叩かれた。
「っ!」
慌てて体勢を直してウェリバーさんの方を向くと再びかかってこいと声をかけられた。
今度は受け流されないように剣を振り下ろすのではなく突きを放つと、右側に回り込まれ再び頭を叩かれた。
「ふむ、受け流されないように突きを放つという考え自体は悪くはないが、そもそも剣の振りも遅ければ突きの速さもなっておらんな。しかし、素人にしては筋がいい。さあ、どんどんかかってこい!」
それから俺が疲れて動けなくなるまでに何度も頭やそれ以外の部分を叩かれた。にもかかわらず、ウェリバーさんに剣をあてられた回数は0回と完全に手も足も出なかった。
「今日はここまでじゃな。ゆっくり休むんじゃぞ。明日はおそらく筋肉痛で動けんじゃろうからな、次は明後日じゃ」
ウェリバーさんはそう言うと訓練場を出ていった。
「お疲れさまでした。こちらで汗をお拭きください」
アリアさんに剣を渡すと、タオルで顔を含めて汗を拭きとった。
それから部屋に戻り汗を流すとすぐに夕食の時間となった。
「今日の夕食もおいしそうですね」
「その言葉、料理長に伝えさせていただきます」
今日の夕食も食材の名前は分からないものの、日本では食べたことなないようなおいしい料理だった。
夕食を食べて気が抜けたからか一気に疲れが出てきた。
「それでは私共はこれで」
2人はそう言うと部屋を出ていった。
流石に今日は疲れたな・・・明日は剣の練習はないけど授業はあるからしっかり休まないとな。それにしても異世界か・・・日本ではできなかった貴重な経験ができてるな。さてと、それじゃあ今日は寝るとするか。明日はどんな1日になるか楽しみだな。




