097話 潜入大作戦!
5-10.潜入大作戦!
はい、こんにちは!こちら、ミネルっす!
今日はレギオん家に『超ドキドキ☆いざ潜入!こっそり奥様を救っちゃおう大さくせ~ん!』を実行する日となりもうした。
天気は快晴。実に、作戦実行日和となりやした。おやつはクッキーでござんます。
テンションが高いのは許してくれ。今、作戦の実行中だから心臓がドキドキなんだよ。
レギオールの実家であるミクシオロン公爵家本邸。小夜さんのモンテネムル家の邸宅でも驚いたのに、それ以上の大きい屋敷でビビりました。ヴァンさんの家が可愛く見えるくらいに。
広い庭、というか広大な庭園。見上げる程の巨大な豪邸。ザ☆金持ちって感じ・・・手入れや掃除は大変だろうに。
今回の作戦実行前に〝バレないよう、ゆっくり動きなさい〟と小夜さんから命令が下りました。あまり速く動くと空間が歪んでしまってバレちゃうみたい。
今は小夜さんから隠蔽魔法を施され、レアアイテム〝闇の衣〟を身に着けています。
そして、前を歩く小夜さんの後方で、こっそりと付きまといます。そう、ストーカー犯罪者の如く・・・ちょっとヘコんだ。
「ごきげんよう、レギオール様。突然の訪問を願うお手紙、受け取ってくださり、ありがとうございます。許可して下さった事、嬉しく思います」
「ようこそいらっしゃいました、聖女アンジェラ様。貴女様が我が家へお起こしくださるとは喜ばしい事です。それにしても、珍しいですね。本日は、どのような御用件で?」
「あら、レギオール様。こんな玄関では無く、紅茶でも飲みながらゆっくりとお話しを致しません?丁度、遠方から珍しい茶葉を入手しましたの。ご一緒に如何かしら?」
「それは失礼しました。淑女の貴女様を、このような場所で立たせてしまうなんて。申し訳ありません、どうぞ中へ」
・・・・アンタ等、誰やねん。
美男と美女が微笑みながらの会話。
普通は誰もが見惚れる様な場面。だけど、空気が禍々しいのはなんで?近くの若いメイドさんがプルプルして怖がっていますよ?
この2人、猫かぶりが凄いッス。しかも、その飼っている猫が化け猫じゃないですか。すげー
2人の名演技を鑑賞していたが、俺には2人から別の声が幻聴として聞こえていた。
__来てやったんだから、ありがたく思いなさい。
__突然、何しに来たのお前?さっさと用件話して帰れよ。
__こんな所で話せと?アンタ、女性に対して失礼ね。礼儀がなっていないわ。茶、持って来てやったんだから中へ入れろや。
__ちっ、嫌ならさっさと帰ればいいのに。仕方ないから入れてやるよ。
気のせい、気のせい。幻聴に惑わされるな、俺。こんな美男と美女が、そんなゲスな言葉を言うはず無いだろうに。
レギオの案内で、小夜さんが屋敷へ入って行く。その後ろをこっそり着いて行く俺氏。まるでストーカー・・・いや、忍びの如く。
小夜さんの魔法によって、俺の姿は透明人間と化した。闇属性の隠蔽魔法で身を隠し、久々登場の「闇の衣」で存在を薄くする。そんな素晴らしいコラボレーションによって無事に潜入は成功した。
精霊が見えるレギオにもバレぬよう、精霊達にはレギオの近くに居る精霊と一緒にドコかへ遊びに行ってもらった。
という訳で、いざお宅拝見__じゃなかった、潜入作戦スタートだぜぃ!
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「いい?秋斗君。レギオールの母君を助けるのは良いのだけど、今回の作戦では完全な治療はしないで」
「え、なんで?」
「長年、あの方が病に侵されているのは貴族界では有名な話なの。今回、私がレギオールの家へ訪問する理由は〝珍しい霊薬が手に入ったから〟。その薬で完全回復なんてしてしまったら、あとの言い訳に矛盾が生じるわ」
「あ~、なるほど。そうなったら小夜さんの所に病で苦しむ人達が集まるし、何処の、何の薬か?って聞かれちゃうよな」
「それだけなら誤魔化せるけど、まぁそういう事よ。だから、今回は完全には治療しないで。程々に、程々によ?秋斗君、忘れないでね」
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小夜さんとの作戦を思い出しながら、レギオと小夜さんの後を追う。
治癒魔法の実行は小夜さんが持って来た、俺が樹の大精霊と協力して作った栄養粉薬をレギオの母親に服用させてから。小夜さんの話術で、どうにか今日__というか、すぐにでも服用させてほしい。
今回の作戦で一番注意が必要なのは、当主の護衛である凄腕剣士。その人には会わないように注意する事。気配でバレたら終了、すぐに撤退らしい。
レギオと小夜さんが客室へと入っていった。
俺は今、廊下。閉ざされた扉の前に居ますだ。
・・・俺が入る前に扉が閉まっちゃった。しまったな、どうしよう(ダジャレじゃないよ☆)。
で、でもでも、客室にレギオの母親が居るはずないし、その内に二人は出て来る・・のかな?うん、絶対に出て来るから、待っていよう。
暇になったので、持って来たクッキーをモソモソ食べながら廊下にある美術品を眺める。
なんで金持ちって廊下に壺とか鎧を置くのだろう?邪魔じゃん。壁に絵画があるのも定番だ。値段はいくらするのだろうか?あ、鎧に着いている宝石が綺麗に輝いている、ちょっと欲しい。
廊下にある美術品を見て、怪盗○○○みたいに盗んでみる?いやいやダメダメ、と自分自身とで葛藤をしていたら二人が客室から出てきた。
小夜さんが右手で自分の黒い髪をイジっている。作戦成功の合図だ!俺は二人の後を追った。
到着したのは綺麗な庭園を通り抜けた先にある別邸。この立派な離れの家に、レギオの母親は居るみたいだ。
レギオと小夜さんの登場に、別邸に居たメイド達が頭を下げる。そして、大きな扉が開き、別邸の中へと俺達は入っていった。
物があまり存在しない大きな部屋。中央には、大きな寝台が置かれていた。そして、その寝台で本を読んでいる女性が居る。
エメラルド色の長く綺麗な髪、優しそうな青の瞳。美人な人だ。でも・・・本を持つ手が、すごく細い。
俺は部屋の隅へと行き、会話を聞く。
母親の主治医らしい老人が来て、小夜さんが持って来た栄養粉薬を確かめてから頷いた。どうやら無事に薬を飲んで頂けるようだ。
メイド達から水の入ったコップを受け取り、栄養粉薬を飲んでくれた。
そのあと、少し話をいたらレギオと小夜さんは部屋から出ていった。レギオの母親は少し休むと言って眠りにつく。
メイド達も部屋から出ていき、静かな空間となった。
俺は、ゆっくりとレギオの母親に近付いた。呼吸の乱れは無さそう。ベットで眠る、その女性の顔をジッと覗いてみた。
肌が真っ白で痩せている。うん、いかにも病人って感じ。この人がレギオの母親でトラウマになる人物なのか。
俺はさっそく、この女性に上級の回復魔法を使った。
確かに・・・確かに酷い状態だった。聖女の魔力量でも半分以上を失った。光の精霊達にも来てもらい協力してもらったのに、だ。
聖女の最大上級魔法である〝アレ〟なら完治するだろう。でも、今回はダメだと小夜さんに言われた。今は我慢だ、俺。
感覚的に女性の体内にある汚れみたいな物が、かなり少なくなった。これだけ取り除けば大丈夫だと思う。青白かった顔も血色が良くなった気がする。
でも聖女の上級魔法でも、これが限度。やはり完全には治せそうにない。あの魔法なら・・・でも、小夜さんが〝今はダメ〟だと言っていたし約束もした。ごめんなさい、きっと全部治すから。でも今は、ごめんなさい。
今回の作戦で目的だった治療を終えた俺は、部屋の窓から庭に出た。そして、玄関へと向かう。
すると玄関には立派な馬車が停車していた。その馬車の傍に居るのはレギオにそっくりな男性。あの嘘っぽい笑顔なんて瓜二つだ。
きっとレギオの父親だな。という事は、その父親の傍に居るのが要注意人物な護衛さん?
・・・あ、あれ?あの人、見た事あんぞ?レギオが孤児院へ来た時に、護衛として一緒に来ていた人じゃん。動く事のない孤児達の木登り遊具さん。孤児院へ来たら、いつも孤児達の遊び相手になってくれた人だよな。
おっと、それよりも今は逃げないと。玄関は無理っぽいから壁を飛び越えようか。俺は風の精霊達に協力してもらい、屋敷を囲んでいる壁の上まで跳躍。退散、退散。
でも、壁を乗り越える前にあの護衛とチラッと目が合った気がした。