095話 トラウマ改変計画の相談
5-8.トラウマ改変計画の相談
ターシア男爵家の老夫婦。
乙女ゲームのヒロイン、ミネルソフィの祖父と祖母。親族の中で唯一、ミネルソフィを愛してくれた人達。
母親は娘を捨てるような駄目女だし、爵位を継いだ父親も娘には無関心。しかも、娘であるヒロインちゃんが聖女だと分かれば〝お前は私の娘なのだから、私の所有物だ〟とか言う腐れ外道。
そのせいもあってか、あの老夫婦の愛情には泣けたねぇ。
でも、でもさ____
俺は、あなた達の孫だという意識がありません。
体はそうでも、俺は〝宮沢 秋斗〟という人格だ。父方のお爺ちゃんとお婆ちゃんは健在だし、母方のお婆ちゃんもいつも元気で、美味しい野菜を毎年くれた。
なので、ターシア家の老夫婦の孫、と言われても実感がまったく無い。会ったとしても喜べないし、何を言えば良いのかも分からない。会った事も無い他所の老夫妻としか思えないから。
だからさ・・・会わないよ、俺は。ごめんなさい。
俺は、もう一度ターシア家には帰らないと心に決めた。
彼等からしても、俺が生きているか死んでいるかも分からんだろう。その内、諦めてくれると思う。孫が欲しいのなら、その男爵家の当主さんに言って下さい。
そもそも、俺のせいで老夫婦が苦しんでいると思ったが、原因はその男爵だ。遊びで付き合った女性が妊娠して子供が産まれたから別れたとか、本当に外道だな。
「そういえば、小夜さん。俺さ、ゲーム設定に逆らってレギオの母親を救おうと思ってるんだけど、協力してくれない?」
俺は話を変える為に、レギオのトラウマ阻止計画についてを相談する。
「レギオールの?あ~、トラウマのやつね。確かにゲーム通り、ミクシオロン家の奥様は病に伏せっておられるわ。ず~っと前からね。秋斗君は、あの方を救いたいの?どうするつもり?」
「小夜さんはアンジェラ役だから闇が主軸で得意なんだろう?だからさ、近い内に隠蔽魔法でこっそり侵入しようと思ってさ」
「・・・普通にレギオに頼めば良いんじゃないの?」
「レギオは貴族だから家にメイドとか執事とか居るし、主治医とかも居るよな?いきなり来た人物に母親を任せられないだろうし、それで元気になったら大騒ぎになるだろう?結果、俺が祭り上げられる危険があるじゃん」
「そうねぇ・・・でも、それって二度手間じゃない?」
「え、なんで?」
「だって、そうでしょう?結局は王都に広まった疫病に罹ってしまうのだから。乙女ゲームでも、そうだったでしょう?体が弱い母君が疫病に感染してしまい、抵抗力が弱いために聖女の奇跡が間に合わずに死に至る」
小夜さんは乙女ゲームの物語を話して説明した。
「今、治療したとしても王都で発生する疫病でまた倒れるのよ?そうなると、秋斗君はレギオールの母君に2度の治療を行なう事になるわ。なら、疫病が蔓延してすぐに治療すれば一度で済むと思うわよ?」」
「でも、ゲーム通り間に合わなかったら嫌なんだ。ゲームでは、いつ亡くなったのか分からなかったし。だったら、先に健康な体になってもらって体力を回復してもらっていた方が良くないか?」
「そうねぇ、疫病への抵抗力は皆無でしょうし。そうなると、影と影を繋ぐ転移魔法で行けたら本当は良いのだけど、あれは術者しか移動不可能なのよね。それなら、私がレギオの屋敷へ行った時に秋斗君がこっそり侵入するっていうのが一番の手なのかしら?」
あ~、そういえば有ったな移動の魔法。闇属性と水属性のどちらかを主軸になっていないと無理な高等魔法。
悪役令嬢アンジェラは、その転移魔法も習得できる。魔術師にとって重要な敵との距離を離す事ができる便利な魔法。魔王の最高幹部なだけあって、あれはチートだった。
「俺の計画も、こっそりと侵入する予定なんだ。協力してくれない?小夜さん」
「ん~・・・でも、それってかなり危ないわよ?今、ミクシオロン公爵家にはかなりの凄腕剣士が護衛に居ると聞いたから。私の魔法が気付かれないとも言えないし、姿は消せても気配は消せないから」
「げっ、気配とか分かっちゃう系が居るの?漫画みたいだな、それ。侵入するのは公爵家だし、バレたらヤバいよな?」
でも、気配なら俺のマジックバックに保管してある〝アレ〟を使えば・・・でも、それでも確実では無いだろうし心配ではあるか。
「狙うとしたら、あの家の当主である宰相様が王城へ出勤した時ね。その護衛は当主の傍に居るハズだし、その時なら侵入が可能になるんじゃないかしら?」
小夜さんの提案で、レギオの母親を救おう大作戦〔序章編〕が決まった。計画実行の日時は小夜さんに任せる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
今日の朝食、いつもの孤児院でフェイと一緒に食べる。ただ、いつもと違い1人多いです。
「タジルさんや?」
「ん~?」
「いつの間に__というか、なしてタジルが孤児院に居るのん?」
早朝に寝室のベットから起きようと思ったら、またもやタジルに抱き枕にされていた。まさか、獣人のフェイに気付かれずに侵入できるとは、さすがは攻略キャラの先行隊。フェイ、侵入者に気付けずに少し落ち込んだ。
脱出不可能なタジル要塞から逃げ出したくて、フェイとカムイ君に協力してもらった。そして、抜け出すのは不可能と分かり、タジル要塞くんを起こす事に成功する。本当に大変だった。モソッと起きたかと思ったら、また俺を抱きしめて布団へIN。その繰り返しだった。
この人は本当に朝が苦手だな。朝は冒険者だが、裏バイトとで夜中にホストをしてるとか言わない?
「明日からまた『上級ダンジョン』への攻略に行くからさぁ。しばらくミネルに会えないと思うと、兄ちゃん寂しいんだよ」
最近、タジルが俺の兄になる事を目指している。確かに、乙女ゲームではタジルのキャラ設定は『年上のお兄ちゃん枠』だったけどもさ。
以前、商店街にあった屋台を見つけて悪フザケで「お兄ちゃ~ん、あれ買って~」とか言った俺のせいでもあるかもしれないが。
はい、反省しとりますです。串肉、とても美味しゅうございました。
でも、そっかぁ。タジル達、また上級ダンジョンに行くのか。
乙女ゲームでも遊びまくった、ダンジョン攻略。冒険者ギルドの依頼は、このダンジョン関係が多い。ヒロインちゃんは冒険者ではなく、教会所属だったけどな。
回復役として教会と冒険者ギルドは協力関係にあるから。冒険者からの頼みで教会関係者が共にすることも多い。
教会の『聖女依頼』と、冒険者ギルドの『協力依頼』。このゲーム設定でヒロインや攻略キャラ達のレベルを上げていく。お金も稼ご事ができ、装備や持ち物などに費やしていく。
この王都近くには『初級ダンジョン』『中級ダンジョン』『上級ダンジョン』の三つのダンジョンがある。
それぞれ101階まであるダンジョンで、冒険者ランクで行ける階やダンジョンが設定される。ゲームではミネルソフィが主人公なので、その場合は〝冒険者の協力ランク〟としてゲーム設定されていた。
冒険者ギルドで依頼を受けてから行くのが一般的だけど、別に依頼を受けなくてもダンジョンには入れるのでレベル上げにどうぞ。
「せっかくA級になったし、51階層から攻略していかないとな。またミネルにお土産を持って帰るから楽しみにしてろよ」
「わ~い、ありがとー。お兄ちゃ~ん、僕ぅ『聖獣ユニコーンの角』が欲しいなぁ。入手、できればだけどー」
「そ、それはぁ・・まぁ、うん、あればな。というか、出会えればな」
あんなレアアイテムは売れば大金になるから、もちろん冗談だ。
タジル達は度々ダンジョン攻略へ行くようになった。なので、王都で暮らしているのにあまり会えない。冒険者の仕事を頑張っているので、仕方ないんだけどな。
今回も、まぁ怪我はするだろうけど死なずに帰って来い。タジルは攻略キャラだし、仲間達も強いから大丈夫だと信じているが、やっぱり魔物との戦闘だし心配だ。
「聞いたわよ、淫乱ピンク!あなた、フェイお兄ちゃんが隣に居るというのに他の男を連れ込んだらしいじゃない!やっぱり、本性は淫乱ピンクね。フェイお兄ちゃんは、やっぱり私の物よ!!」
はぁ~、食後のお茶は美味しいザマス。