093話 作戦会議
5-6.作戦会議
今日もまた、モンテネムル家の本邸に御招待されました・・・あの黒いゴスロリ馬車で。
今回の手見上げは果物ではありません!前回、果物の手見上げを渡した時に微妙な顔になったメイドさんを見逃さなかったから。庶民の食べる果物はダメですか、そーですか。
なので、今回お持ちした商品はこちら!王都で大人気店の、もちろん高級なお菓子詰め合わせセット(レギオからの横流し品)!これで、もうメイドさんからの苦笑いを見なくても済むだろう!
今日会った小夜さんは、昨日悲しそうに泣いたのが嘘かのように凄くスッキリした良い笑顔だった。
初めて会った時は〝キツそうな目だな〟と思ったけど、今の小夜さんの目は優しげだ。本当の彼女に会えた気がする。
この世界に転生してから、ず~っと苦しんでいたんだな。
てな訳で!
第二回!『王都疫病事件』作戦会議 in モンテネムル邸!・・・を行う前に、俺が気にしている事を小夜さんに教えよう。
「あの、俺さ、小夜さんに謝らないといけない事があるんだよ」
俺が持って来た(レギオから貰った)高級お菓子をテーブルに広げ、美味しいお茶を頂いた。そして、頬にお菓子の粉が付いていようと俺の顔は真剣だ。
「なぁに?あ、聖女である事を隠して暮そうとした秋斗君を責めるつもりはないわ。貴方の立場を考えると理解できるし」
「まぁ、それもあるんだけど謝りたいのは別の事なんだ」
「そうなの?なに?」
「実は、ですね。魔王軍の何人かに『聖女』が恨まれているんですよ、俺のせいで」
そう、コレ。ずっと心配になってた。
魔王の幹部である『死霊王』と『呪術師』、それと日ノ国で出会った『ゲンブ』は確実に聖女を恨んでいる。あの時、そんな捨て台詞を言っていたしな。
__だが忘れるな。必ず聖女のお前は我が殺す。覚えておくがいい。
__この屈辱は忘れませんよ、聖女。必ずあなたを呪って差し上げます。
魔王の幹部でもある死霊王と呪術師ライバッハは、確かにそう言った。
そして、スザクの叔父であるゲンブも、自分の計画を邪魔した聖女を憎んでいるだろう。
あの時はフードを深く被っていたし、子供の声で男女は不明だったはず。頑張れば、ソプラノボイスさえ出せるし。聖歌隊みたいに綺麗な声じゃないけどな。というか音痴なんだよ、俺ってば。
その後、この王都でアンジェラが『聖女』だと国が大々的に発表した。そのせいで、あの時の聖女はアンジェラだとアイツ等は考えるだろう。だから、正体不明のはずだった聖女に復讐できると知り、その復讐される対象はアンジェラになってしまう。
この事は、小夜さんにも教えとかないとダメだろう。
「あら、そうなの?」
「うん、本当にゴメン」
「・・・あ。あ~、なるほどね。そういう事だったの」
ふへ?俺まだ詳しく説明してないんですけど?何が〝そういう事〟なのん?
?マークを浮かべて首を傾げている俺に小夜さんが教えてくれた。
「実はね、数日前に私用で王都の外まで馬車で出掛けていた日があったの。そして、その日に敵の襲撃を受けたわ」
「え!?しゅ、襲撃!?」
「ええ。馬車が急停止して私は最初、盗賊か何かと思ったのだけれど違った。相手は人間では無かったの。襲撃者の姿から、いかにも魔族って感じがしたわ」
「う、うん、それで?相手が誰か分かった?」
「その襲撃者は、自分の事を『死霊王』と言っていたわね。私も乙女ゲームで見覚えがあったし、間違いはないわ。死霊王、本人よ」
アイツ、さっそく復讐に来たんかい!
聖女の発表がされて半年も経たずにかぁ。計画性とか、まったく感じられないな。
それだけ俺の事が憎かったのか。まぁ、魔王さんから貸出されていた『闇の宝玉』を聖女(俺)に壊されたからな。余程、魔王さんに怒られたのだろう。
無事に闇の宝玉を完成させていたら、褒美としてその宝玉を貰えるはずだったのだ。そりゃあ、恨まれても当然か。
「まぁ、もちろん撃退したけどね。アイツ、馬鹿よね~。この私に闇属性なんか使ってきたのよ?本当、お馬鹿さん」
あはは・・・死霊王、哀れ。乙女ゲームでは『黒き魔女』として恐れられたアンジェラに闇属性の攻撃は無意味でしかない。どんまい!
「でも、止めを刺す前に逃げられちゃったのよ。私とした事が仕損じたわ、本当に悔しい!その襲撃のせいで私専属のメイドが一人、足を擦りむいちゃったのよ?許せないわ!」
「それは、すいませんでしたです、はい」
「え、秋斗君は謝らなくて良いのよ?全て、あのお馬鹿さんのせいだから。次、もし会ったらすぐに消滅魔法を放ってやるわ。もう逃げる隙は与えない。存在全てを消してやるの」
小夜さん、可愛い笑顔なのに言っている言葉がデンジャラス。
すんごい怖い。光属性より、闇属性の方が消滅魔法は強力で数も豊富。つまり、本物の殺戮魔法少女の完成だ。うん、怒らせないようにしよう。死霊王よ、安らかに眠れ!
「それよりも、今回の王都疫病事件よ。確か、このイベントには魔王軍の幹部である病魔師が犯人・・・で間違いは無いわよね?」
「うん、そう。あの気持ちの悪い姿をした双子の敵キャラ」
『病魔師』ガダルとメガル
病魔族の双子。魔族では、かなり珍しい種族という設定だった。
その種族は、体の各部分にそれぞれ違う毒を貯えている。見た目はポッチャリした姿で、2人とも片目が無い。
魔王軍の幹部の中で唯一、2人で1キャラという設定だった敵のキャラクター。
「秋斗君は、その双子が王都で疫病を撒き散らす為に出現する場所を知ってる?」
「俺は知らないなぁ。ゲームでも、いつの間にか王都に疫病が広まっていたって感じだったし。それで感染した市民が救いを求めに大勢が大聖堂へ・・・あっ」
そうだった、大聖堂・・・今、存在してないんですけど。
俺が消しちゃったんだ、テヘペロ。
そうなると、乙女ゲームとは違うストーリーになってしまう。
でも、この王都には教会がいくつもある。だから市民達は、その教会へ集まるだろうから大丈夫・・だとは思う。うんうん、大丈夫だ。大聖堂が別に無くても・・・はい、ごめんなさい反省しておりますですたい。
せ、責任は全部、教会の人達にして下さい。俺は少ししか悪くないぞ!
「あぁ、そうだったわ。秋斗君も王都に住んでいたのなら知っているでしょうけど、何者かによってこの王都にあった大聖堂が消し飛ばされてしまったの」
「う、うん、知ってるよ」
その犯人だから。
「私も現場である大聖堂の跡地へ見に行ったけど、あれは間違いなく消滅魔法の痕跡だったわね」
だーい正解。
「それで、秋斗君。貴方、チート級に強くなっていると言ったわね?大聖堂が無くても、光属性の治癒効果で疫病を治す事は可能なの?」
「あ、うん。それは大丈夫だと思う。光の精霊達が、かなりこの王都に集まっているから」
大聖堂の事は・・・まぁ今は良いか、言わなくても。怒られるのヤダし。その内、小夜さんの機嫌が良い日にでも教るとしよう。
「そう、良かった。なら安心ね、任せるわ。私は治療は専門外だし」
「は~い、了解ッス!任せてくんろ」
「秋斗君は、そのまま疫病の治療に専念してちょうだい。私は____」
小夜さんは、とても可愛らしい笑顔で言い放った。
「___私はこんな事をしでかす元凶、病魔師を処分してくるわ」