088話 魔本の閲覧
5-1.魔本の閲覧
俺の前には、一冊の本が机の上に置かれている。
場所は孤児院の院長部屋。ヴァンさんから鍵を預かっているから、俺は入れるんだ。今、この部屋には俺と精霊たち以外誰も居ない。
そして、その一冊の本とは『聖女』であり乙女ゲームでは『悪役令嬢』だったアンジェラ=K=モンテネムルが著作った本。
そう、俺が見付けてしまった『魔本(BL本)』だ。
か、買ったんじゃないからなっ!この魔本(BL本)はレギオから譲り受けた物だ。さすがに書店で買うのはちょっと・・・
でも、これは俺と(たぶん)同じ転生者が書いた本だ。
一応、読んでみるべきだと思う。
でも・・でも一人は怖いから精霊達と一緒に読む事にした。男性二人が抱き合っている絵が描かれた表紙をビクビクしながら、ゆっくりと開く。
いざっ!BでLなる世界へ!
___三分経過____
うん、まだ大丈夫。やっぱり美男子×美男子なんだな。
___六分経過____
お、お、おう。そそそうなんだ、へぇ~。な、なんて積極的な。
___九分経過____
そんな、ここここれが、おおおお大人の世界というやつか。
___十二分経過 (LOVEシーン あり)_____
げふーーーー!!!
俺は、俺はもうダメだ。精霊達よ、あとは、たの、んだ・・・・
・・う、うむ、凄い世界であった。俺は今日、1歩大人への階段を・・・踏み外したかもしれない。
この(おそらく)転生者さんはBL病の重篤者みたいだ。大人の世界とは、なんて濃厚なっ///。
この魔本(BL本)は厳重に封印しておかねば。これは危険極まりない物体だった。さすがは、まさに魔本だ。
さて!紅茶でも飲んで、ゆっくり落ち着いた所で考えよう。
乙女ゲームで悪役令嬢だったアンジェラ=K=モンテネムルは、おそらく転生者だろう。
まぁ、俺もたぶん転生者なのだろうから居ても別におかしくはない事だ。
問題は、その転生者がこの世界が乙女ゲームの世界だと知っている or プレイしていたか分からない。
というか俺は関わるべきなのだろうか?それとも放置?
あとは性格か。もし「逆ハーレムだぜぃ!うぇ~い」みたいだったら、どうしよう。
・・・ふむ、そもそもBL病発症者とはどう接すればいいのん?
でも、このアンジェラが『光』を主軸にして、光の女神様から加護をもらっていなかったらヤバい。もしそうなら、レギオのトラウマイベントは俺がどうにかしないと。
ずっと『聖剣の覚醒』ばかりを考えてしまい、忘れていたイベント。乙女ゲームで、わりとすぐに始まった特大級の危険イベントだ。
ミネルソフィの『聖女の目覚め』。
このレギオのトラウマイベントでヒロインであるミネルソフィ=ターシアが本当に聖女様なのだと、この国や他国にも認知される出来事。
ただ、ゲームではレギオのお母さんは助からなかった。元々、体が病弱だったせいもあったから。
その事が原因でレギオは初め、ヒロインちゃんの事が気に入らなかった。八つ当たりだと自分でも分かっていたんだけどさ。
〝どうして、もっと早く!〟と思うようになってしまったんだ。
多くを助けたミネルソフィだけど、レギオの母親は助からなかった。なのに世間ではミネルソフィの事を「聖女様」と褒め称えられる様になったから。
それがレギオにとって、とても気に入らない事だった。
俺はいずれ来るであろう、このトラウマイベントでレギオの母親が心配になった。
一応、樹の大精霊であるダイアナさんに「体が弱い人に、してあげられる事ないかな?」と相談したら、〝この聖域に実る食物を食せば良くなるかも〟と教えてもらえた。
それなら良かった。レギオは孤児院へ来る度に、研究の為とか言いながら大量の果物を持って行ってくれていたから。レギオのお母さんも、ここの果物は美味しいと食べていたらしいし。
でも、完全には治らないと思う。ダイアナさんも〝病は治せないけど、体力の回復効果はある〟と言っていたので。
タジルの仲間も、スザクの父親も助ける事が出来た。乙女ゲームにあった物語は崩す事が可能だと知った。なら、レギオの母親も助ける事が可能なのだろう。
よっしゃ。俺はヒロイン役、今回も頑張ってみっか!
今回のイベントについてを決意して、部屋にある時計を見る。そろそろレギオっちが来るかも?と思っていたら、部屋の扉が「コンコン」とノックされた。
「ミネル。客が来てんぞ」
フェイの声だ。客という事は、レギオが到着したのかな?
「入っていいよ~」と返事をして、部屋へ入って来たのはフェイとレギオ。やっぱり、客はレギオだったみたい。
「おはよう、ミネル。実は君に教えないといけない事があるんだよ。聞いてくれるかい?」
レギオが何やら申し訳なさそうな顔で俺に尋ねて来た。おはようさん、レギオ。朝からどったの?
「朝から悪いね。実は君に_____」
「この部屋に『ミネルソフィ=ターシア』が居ますの!?」
レギオの話している途中で、誰かが押し入って来た。その侵入者は、ゴリッゴリの黒いゴスロリ衣裳を着た女の子だった。
俺は、とても嫌な予感がした。