087話 ※レギオ※ Prt.3
4-23.※レギオ※ Prt.3
※ ※ ※ 攻略キャラ レギオール=J=ミクシオロン 視点 ※ ※ ※
今、僕は精霊達が言っていた旧市街にある孤児院へ向かっている。精霊達も〝こっちだよ〟と言いながら案内してくれていた。
この旧市街は数年前に王国が放置して無法地帯となったと聞いた。今では衛兵の巡回もされないくなったので、犯罪者が増えたとか。
しかし、ある伯爵家がこの旧市街を牛耳るようになってからは少しマシになったらしい。僕も王城で開かれたパーティーでその伯爵家現当主を見た憶えもあり、とても威厳のある男性だったと記憶している。
堂々とした佇まい、冷静な態度、力強さを感じる眼差し。そんな伯爵家現当主の隣には常に、長身でヒョロっとしたキツネ目の者が傍に居た。おそらくは護衛だろう。そして、その伯爵様と話している人物には驚いた。
僕の父様だった。
伯爵位の当主と宰相である父様が話していても不思議では無いのだが、父様が笑っていたんだ。
いつもは嘘の笑顔を張り付けた父様が、本当に心から笑っている。2人は・・いや、伯爵様の護衛を入れた3人で話しているみたいだ。あの父様が本当に楽しそうに話す姿には驚いたものだ。ただの付き合いではなく、演技でもない本当に笑う姿。本当に稀な光景だった。
あの伯爵様が、旧市街にある孤児院を運営しているとグレイソンから報告を受けていた。
その孤児院に母様の難病を治せるかもしれない人物が居る。そこへ今日、護衛のグレイソンを連れて向かっている。
僕の幼い頃からの願いが叶うかもしれないと思うと、歩く速度が次第に速くなっていった。
そして目的の場所に到着した僕は、信じられない光景を目にした。
目的地である孤児院の庭には、数え切れない程の精霊達が集まっていた。僕が住んでいるミクシオロン家の邸宅よりも確実に多い。そして果物に野菜、薬草などが庭中に実っている。非常識でもあり、そして奇跡的な光景だった。
僕は、その精霊の数に期待と嫉妬が膨らんだ。
これ程までに精霊達に愛せれている人物。僕の母様を救ってくれる可能性は高まった。僕が幼い頃から求めていた事が叶うかもしれない。
そして・・・とても悔しい。魔術師にとって最高のスキルである『精霊の愛子』を持つ僕でさえ、こんな事は不可能だった。
普通の人には、この庭は果実が実る便利な広場に見えるだろう。でも、僕のスキル『精霊の愛子』で見た光景では、まったく違うモノに見えてしまう。
地面はボンヤリと光り、その大地から魔力の元となる元素が空へと昇っていく。地面を通して庭にある木々も光っていた。地面の光を吸収している様にも見える。その木に実っている果実も、そして葉さえも少し光っているんだ。
僕は、この現象を本で読んだ覚えがある。
数百年前に、滅びゆく都でたった1人の聖女が神々に祈りを捧げて奇跡を起こした。大地は光りに包まれ、滅びゆく都は緑豊かな大自然となり、聖なる果実を実らせて苦しむ人々は救われたという。
「・・・まさか、『聖域』?」
あの本に書かれていた歴史に、精霊達が守護し、神々から祝福を授かった聖なる大地。まさに奇跡の場所。
・・・こんな王都の放置された旧市街に、なんてモノを。
僕は精霊達が〝大好き〟と宣言していた『ミネル』という人物が、ますます気になってしまった。
そして、もっと気に入らなくなった。僕よりも確実に実力が上、それがとても悔しい。
残念ながら『ミネル』という人物には会えなかった。孤児院に住んでいる子供達は〝ミネル〟という人物を知らないと言っていたが、王都で噂された黒いフードを被っている人物なら知っていた。
そして、あの大聖堂が消滅した日から黒いフードを被った人物は帰って来ていないらしい。
庭に居た精霊達も〝ミネル 今は居ない〟と教えてくれた。
「精霊達、ミネルが今居る場所へ案内してもらえないかい?」
_ごめん レギオ_ _ダメなの レギオ_ _ミネル 寝てるの_ _きっと 会えないの_
・・・どうやらミネルという人物は、あの日から目覚めていない様だった。まぁ、納得だね。あれ程の事をしてしまったのだから。魔力なんて残ってはいないだろう。
でも、戻ってきたらすぐに会いたいし、これからは毎日この孤児院に訪れよう。
あれから三日、あの『大聖堂消滅事件』から五日目が経った。
諦めずに来ていた甲斐もあり、念願の『ミネル』という人物に会える事ができた。
毎回、孤児院に訪れる僕を狼の獣人が怪しんでいたけどね。やっと会えたね、ミネル。
初めて見たミネルという人物は、特徴的な髪の色をしていた。目立ち過ぎる程の、鮮やかなピンク色。遠くに居ても、すぐ発見できるから迷子にはならないんじゃないかな?
ああ、でも、なるほど。だから黒いフードをいつも被っていたのか。
そして、初めて会ったミネルは、とても小さかった。聞いた情報では、あの事件の犯人は黒いローブを被った子供。なので、ミネルは子供だろうとは思っていたが、想像よりも幼く見えた。
「初めまして、ミネル。僕の名前はレギオール=J=ミクシオロン。これかも、どうぞよろしくね?」
僕のあいさつに困惑顔のミネル。なにやら考え込んでいるみたいだけど、拒否はされていない様で良かったよ。
本当はすぐに聞きたい。〝ミネルは回復魔法を使えるの?〟〝どんな難病でも治せるのかい?〟〝僕の母様を救う事が可能なの?〟〝母様を治療してくれるかい?〟
でもダメだ。まだ聞いてはダメ。焦らず、ゆっくりと彼を知ろう。
僕は会ったばかりだし、警戒されている時にそんな事は言えない。だから、これから出来るだけ毎日会いに来よう。少しずつ、この警戒を解いていかないと。
ミクシオロン家にある自分の部屋で、震える手で紅茶を飲む。
やっと・・・少し落ち着けた。
今日、衝撃的な出来事が起きた。
そして、衝撃的な事実を知ってしまった。
あの時は、混乱するばかりで頭の整理が不可能だった。僕もまだまだ、なんだと少し落ち込んだ。
いつも父様が「冷静に考え、判断し、行動なさい」と仰ったのに、あの時はまったく考えが纏まらなかった。
まず、樹の大精霊様との出会い。魔術師にとって崇拝する存在でもある大精霊様と初めての接触。それも、僕の主軸である『樹』を司る大精霊様だった。素晴らしく神々しい御方だった。
そして、聖樹ユグドラシル。ミクシオロン家の書庫にも、聖樹についてが記された本や研究資料は沢山ある。まさか、その聖樹を実物で見れるなんて信じられない。
あの伝説の神聖な大樹を、安っぽい鉢植なんかに植えて・・・なんて非常識な事をするんだい、ミネル。
そして・・・一番、僕が驚いた事。
ミネルは『聖女』である。
大精霊様に教えてもらった事。それは、つまりミネルが聖女だというのは事実。
ミネルは男。そう飼い犬君が大精霊様に質問していたが、僕にとってはどうでもいい。だから何?ミネルが男でも女でも、〝聖女〟としての素質があるなら後の事はどうでもいい。
僕は先ほど書庫から持って来た本を開く。
『聖女』
苦しむ者を癒し、悲しむ者に祝福をもたらす。神の恩恵を授かり、奇跡の力で全てを救う。その者の魔法は如何なる傷も完治し、病もまた消える。まさに人々への神の遣い。
僕は聖女についての書物を何度も読み返した。『勇者』が救世主なら、『聖女』は救済者。そして僕が今、求めている人物だ。
「・・・〝病もまた消える〟」
僕はその文章を指でなぞりながら、もう一度読み直して呟いた。
〝あの女〟には無理だと断られてしまったけど、国が選んだ『聖女』と大精霊様が教えてくれた『聖女』だ。どちらが本物なのかは考えなくても分かる。きっとミネルだったら____
やっとだ。やっと出会えたよ、母様を救える存在に。
僕の頬から涙が流れたのが分かった。急いで涙を、自分の袖の服で拭う。大事な本が濡れてしまうから。
あとはミネルの実力。彼の治癒能力が、今どれくらいかを知らなければ。冷静に、慌てるな。失敗は許されない。
彼は『大聖堂消滅事件』の犯人。バレない様に、王都から逃げられない様に。少しずつ仲良くなり、警戒を解いて、屋敷に招待しよう。
母様、もう少しだよ。必ず成功させるから。
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4章 終わりです
レギオ視点が 予想よりも長くなってしまいました
明日から 5章を始めていこうと思います
よろしくお願いします (。・ω・)ノ゛