083話 魔本
4-19.魔本
今日は買い物の為に、王都の商店街に来ています。
今日はレギオールも一緒。レギオってば最近、孤児院の庭にある果実に興味があるみたいだ。来た時は必ず持って帰る。
聖域で実った果実の効果などの研究がどうのとか言ってたけど、美味しそうに食べてたから口実だと思う。
レギオは、〝無料であげるよ〟と俺が言ってもお金を払ってくる。有り難いから、いつも貰ってているけどな。旧市街にある孤児院はヴァンさんが管理しているから金欠とは言わないが、貰えるのだから貰っておこう。
「・・・僕のお母様は、あまり体が強い方では無くてね。食も細い人なんだよ。でもこの果実は、とても美味しそうに食べて頂ける。だから・・・感謝してあげても良いよ」
とか言いながら御代をくれる。・・・ツンデレ2号?
まぁ、精霊達が楽しそうに育てるから果物や野菜は毎日、大量にある。ジャンジャン持っていって。
〝買い物に行ってくる〟と孤児院に来たレギオに言ったら、着いてきた。護衛さんも着いてくるつもりだったのだが、レギオールの命令で孤児達の遊び相手として留守番中。護衛としてならフェイが居るので安心してほしいと護衛さんに伝えてある。
そんで、やっぱりレギオとフェイは仲が悪い。
「ソレじゃねぇって言ってんだろうがよ。その右だ右!なんで分かんねぇんだよ」
「本当にうるさい駄犬だね。どれも同じだろう?そんなに文句があるなら自分で取ればいいさ。そんな事も分からないのかい?」
「手が塞がってんだよ!見れば分かるだろうが、ボケ!いいから、その右のやつだ!それにしろ!」
「君がミネルの荷物を全部持とうとしたからだろう?尻尾なんか振っちゃってさ。本当に飼い犬みたいで笑えたよ」
「ああぁ!?んだと、こらぁ!?泣かすぞ!!」
・・・喧嘩するほど仲が良い・・のか?
それは無いか。しかし二人とも、すっげー目立ってるぞ。ただでさえレギオは仕立ての良い高価な服を着ているし、態度や仕草がいかにも貴族。
商店街の買い物客や店主などに、口喧嘩している二人は注目されている。この二人は気付いていないのか、それとも興味が無くて無視しているのかは分からん。
俺もピンク頭の為に目立る。なので、口喧嘩する2人から少し離れる事にした。新しく孤児院に来た子たち用に食器でも買いに行こう。
2人は・・まぁその内、追いついて来るだろう。俺のピンク頭を目印に。
俺はそう思い、商店街を一人でトコトコ歩く。
そして・・・見付けてはならない物を、見付けてしまったんだ。
ソレを見てしまった俺は衝撃のあまり体が固まってしまった。
え?待ってくれ
あれは・・何だ?
・・っ!?う、嘘だ。そんな・・そんなハズはないっ!!
・・こんな・・・こんな事って。
あってはならない事だ。こ、こんな、こんな事___
俺は混乱した。
俺の脳が全力で拒否している。認めようとしない。
ダメだよ、これは。これは存在してはならない。いったい何で、どうして・・・
俺は商店街の大通りで立ち止まり、ある一点だけを見ていた。
立ち尽くし驚く俺が見付けてしまった原因は、商店街の書店に置かれていた。
そこに置かれていたのは___
『
ランブレスタ王国に選ばれし 偉大なる 聖女様
アンジェラ=K=モンテネムル様 著作
新刊 『モンドュール × アルバンジング 愛の囁きと旅』
男 × 男 の友情と愛の物語
____あなたはまだ この神秘の物語を知らない_____
一冊 1500円 店長のオススメ!
』
そう、俺は・・俺は・・・・
俺は、その書店で『魔本(BL本)』を見つけてしまったのである。
待って、お願いだから待ってくれ。
この世界は乙女ゲームの世界ですよ?なして、こげな『魔本(BL本)』が存在するんっすか!?ありえねぇだろ!?
俺は書店の前で、数分固まってしまった。
『魔本(BL本)』。
それは〝宮沢 秋斗〟の世界では、一部の女性達が『聖書(BL本)』として崇める書物。
もちろん、この乙女ゲームをプレイしていた時も一度たりとも出てこなかったアイテム。存在しない物。
それが今、書店の、それも中央の一番目立つ場所にズラーーっと並ばされている。
このピンクの異空間と化した場所は、危険極まりない。というか、俺の頭と同じ色をこういう使い方をしてほしくない。
いったい、なんで______
「どうしたんだい、ミネル。そんな所で立ち止まっていては危ないよ?大丈夫かい?」
俺が居る場所へ、さっき口喧嘩をしていたレギオールとフェイレシルがやって来た。
俺が一切動いていなかった為、心配したレギオに聞かれた。ちなみに大丈夫では無いです。
「いったい何を・・・へぇ~、君はコレに興味があるのかい?それは知らなかったよ」
「れ、レギオ、こ、こここ、これ何?」
「それは侯爵令嬢のアンジェラ=K=モンテネムルが書いている『びーえる本』って本らしいよ。最初は貴族の御令嬢やご婦人に人気があったらしいんだけど、今では庶民の皆様にもって事で売られるようになったみたいだね」
びー える ぼん
「大々的なヒット作になったらしいから僕も読んでみたんだけどね。僕には良さがまったく理解できなかったよ。でもアンジェラを筆頭に『腐神教』と呼ばれる集団が設立されてね、その集団の『聖書』らしいよ」
ふ ふしんきょう
「教会側もこれには困り果てているらしい。でも、相手が聖女様だからね。困ってはいるが、止められない。しかも王女様をも味方に加えてしまってね。今では、この王都に『腐信者』と呼ばれる者が増えたそうだよ」
ふしんじゃ
「もしも読みたいのであれば、買わなくていいからね。僕のを譲ってあげるよ。なんだか部屋に置いておくだけで、聖書と呼ばれている筈なのに、その存在で寝苦しくてさ」
『びーえるぼん』 『ふしんきょう』 『ふしんじゃ』
この世界に、この乙女ゲームの世界には存在しない物。
書いているのは聖女様である侯爵令嬢。乙女ゲームでは悪役令嬢役だったアンジェラ=K=モンテネムル。
それは つまり まさか____
俺と同じで アンジェラ=K=モンテネムルは『転生者』?