075話 大聖堂跡地
4-11.大聖堂跡地
俺は今日、あの場所に来ていた。
あの場所。今はもう大聖堂跡地とされている場所だ。
俺が聖女の力で消滅魔法を使い、消してしまった黒歴史。その事実を、この更地となった場所が物語っている。本当になーんも無くなった。俺は猿でもできる反省をしています、ごめんなさい。
更地となった土地。今では大聖堂の再建復興を国が行なっている。その為、これ以上は立ち入り禁止とされて近付けない。一生懸命、働く建築関係の皆様、頑張ってください。悪いのは教会なんです。
あれだけ広く大きな建物だった大聖堂。時間も、そして費用も・・・そうだよな、費用も凄い事になっているだろう。俺が犯人だと絶対にバレてはいけない。弁償しろとか言われたら破産する、というか払えない。
この世界には〝土魔法〟という便利なものがある。王都なので、それはそれは素晴らしい大魔術師様が居てくれる。その大魔術師様によって再建築はスイスイと建てられる・・・よな?と初心者の俺は考えていた。でも、実際この場所に来て思い知った。ファンタジーの世界でも、そう甘くはないみたいだ。
今までの歴史が全て無くなった。外壁にはあった見事なレリーフも存在しない。偉大なる神々の模した銅像や、女神様の姿が掘られた飾り。神話が描かれた壁や天井。長い年月を掛けて育った大樹。
それらが全て無くなった。たった一日で。歴史ある建造物が。
・・・・お、おおお、俺も悪いけど、きょ、教会だって悪かったんだからな。もう一度言わせて、教会が一番悪いんだ。ちゃんと反省しているし、お祈りだって懺悔だってする・・・つもりだ。あ、いや、ちゃんとします絶対に。
光属性の最大攻性魔法である消滅魔法を放ったというのに死者はなし。奇跡すぎる。
でもさ、いくらなんでも威力があり過ぎたと思う。あの威力、どう考えても異常だ。
俺の__というかミネルソフィの消滅魔法は属性が『光』。対である『闇』属性ほどの威力は無い筈なんだ。乙女ゲームでもボスキャラには効かない魔法だし、まさかこんな威力が出るなんて思わなかった。
俺的には大聖堂の一ヶ所だけでも消せたら〝ざまぁw〟と思ってたのに、消し去ったのは大聖堂そのもの。ありえない。なんじゃい、その兵器は。聖女が殺戮魔法少女化するわ。
確かに光の精霊達が大量に居て、協力してくれたよ?でも光の精霊って基本、穏やかさんなのにな。攻性魔法に、あそこまでの威力を引き出してくれるだろうか?火の精霊じゃあるまいし。
・・・やっぱり、あの時に聞こえた声が関係していると考えるのが妥当か。
『 ___ねぇ 誰に?____ 』
とても可愛らしい少女の声。
この世界に来てからは聞いた覚えのない、本当に初めての声だった。俺が知る限り乙女ゲームでも聞いた事が無い。
でもさ、俺はあの声に聴き覚えがある。確かにこの乙女ゲームでは聞いた事はないけど、〝宮沢 秋斗〟の時にテレビで見た有名なアニメで聞いた覚えがあんだよ。あの声は、そのアニメに出て来たキャラクターの声と似ている。
じゃあさ、あの有名な女性声優さんの声だとしたら乙女ゲームの登場人物って事じゃないか。俺が忘れているだけか?
・・・いったい、誰の声だったのだろう?
「そういえばさ、ありがとうな。フェイ」
俺は大聖堂跡地から、隣に居たフェイの方向を向いて礼を言った。
昨日、一緒に行かないか?と頼んだら、すぐに「・・ああ」と了承を貰えた。フェイはまだ教会総本部からの攻撃を警戒しているのか、心配で護衛の為に着いて来てくれたみたい。
俺の言葉に、大聖堂跡地を見ていたフェイが俺の方を向く。
「あ?んだよ、急に」
「この場所でさ、あの魔法を放った後、ぶっ倒れた俺を運んでくれたんだろう?ロイドさんから聞いた。だから、ありがとな、フェイ」
フェイが助けてくれてなかった場合、俺はきっと王都にある牢の中だ。王都で有名な建造物だった大聖堂を消滅させてしまった俺は、重罪人として捕まっていただろう。
フェイが居て、本当に助かったよ。
「・・・気にすんな。俺が好きでやった事だ。お前が気にする事ねぇんじゃねぇの」
俺から視線を外して、また大聖堂跡地を見るフェイ。クールぶっているけど、尻尾が凄い勢いで振っている。
「そうだったとしても、やっぱりありがとうだよ。本当に助かった、フェイ」
「・・・・・・・おう」
俺等はその後、もう少しだけ跡地を見てから孤児院へと帰って行った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「なぁ。そろそろ二人とも、仲良くなってみない?」
俺の前には歯を剥き出しにして睨んでいるフェイと、まったく気にせず無視して紅茶を飲んでいるレギオが居る。
この2人、一緒の部屋にいるとすぐに喧嘩するんだよ。なんで、そんなに仲が悪いのん?
「それは無理なんじゃないかな?そこの野犬君はずっと敵対心を剥き出しなんだよ?そんな犬君と仲良くしようとしたら噛みつかれてしまうじゃないか」
「ああぁん!?俺は犬じゃねぇって言ってんだろうが!?物覚えの悪い奴だな!俺は狼だ!」
「そうか、野犬ではなくて飼い犬だったね。でも、本当に躾がなっていないな。飼い犬なら飼い犬らしく、尻尾振って愛想良くしていれば良いのにさ。それなのに、そんな野犬の様な態度には本当に呆れるよ。まったく」
「てめぇ、この野郎!ふざけんな!ぶっ殺すぞっ!」
フェイが怒鳴る。俺ビビる。フェイ~、お前15歳だろう?相手は10歳の子供なんだよ?子供好き設定が、またどっか行って迷子になってんじゃん。捜して来いよ。
フェイの言葉にピクッとしたレギオが、飲んでいた紅茶のティーカップをゆっくり降ろす。
「・・へぇ~。本当に愚かな犬だね、君は。この精霊達が多く住む聖域で、魔術師の僕と戦おうってのかい?僕は別に構わないよ?ミネルの代わりに僕が躾けてあげても」
おっと、なんかマズイ展開になっちまった。いきなり戦闘態勢を始めちゃったよ、この2人。
レギオの瞳が虹色となり鮮やかに輝き、フェイの拳が炎を纏う。
・・・うん、ちょっと待って二人とも。それマジなやつだよね!?
こんな室内で本気だすなよ!?レギオなんて、それ必殺技だよな!?アホなの!?
この孤児院を俺がどんだけ努力して修復して修繕したと思ってんだ!お前等が本気で戦ったら数秒で木端微塵になるわ!!
これは止めないとマジでヤバい。だって二人とも目が本気だ。
「うん、ごめん。俺が悪かった。だから二人とも、ここでの戦闘は本当に止めて欲しい。家が壊れるから!」
「・・・・ミネルがそう言うなら、止めてやる」
「僕はその飼い犬君が噛みついて来ないなら、何もしないよ?だって、どうでもいいからね」
レギオ、レギオ、最後が余計。フェイ、「ぐるるるるっ」って歯を向けないで。本当に止めて、家が壊れる!
あの後、なんとか落ち着いてくれた二人。良かった。どうやら、お互い無視する方向で決まったらしい。
あのさ君達、乙女ゲームでは仲間だったんッスよ?協力して魔王を一緒に倒した仲じゃん。何故にそんなに仲が悪いのん?この二人が仲が悪いなんて、そんな設定はゲームに無かったぞい?
二人とも攻撃職だからか?なんだっけ・・・〝同族嫌悪〟ってやつ。
乙女ゲームでは『神獣の加護』をもつ、バリバリ接近攻撃型で物理戦闘職だったフェイレシル。
そして『精霊の愛子』をスキルにもつ、超後方攻撃型で精霊魔術師のレギオール。
この二人の相性が悪すぎる。