074話 レギオのトラウマ
4-10.レギオのトラウマ
孤児院の庭に生えていた光る若木から、神気が漏れ出しているらしい。〝漏れ出している〟ってなんか嫌だな。〝溢れている〟って言葉の方が良いな、そうしよう。
神気が溢れている木。神々から頂いた神具である、あの聖剣と同じく。
ほ~ん、この木がねぇ。
俺は風呂上りに『神気が溢れる凄い木』をつんつんと指で突く。案の定、精霊達に怒られた。ごめんなさい。
聖剣
魔王を倒せる唯一の武器。大聖堂に保管されていた物だが、俺のせいで保管場所が消滅。無事だったらしい聖剣は今、王城の宝物庫に保管されていると国の発表にあった。
『大聖堂』と『聖剣』を見に来た観光客の皆様、すんまそん。特に他国から来た人は本当に申し訳なく思っているッス。でも大部分は教会が悪いんで、ソコんとこよろしく。
乙女ゲームではヒロインちゃんが大聖堂に保管されていた聖剣を覚醒させるイベントがあって、その時は凄い威力だった。さすがは神具と思ったね。特に魔族にとっては殺戮兵器に近いみたいだし。
その聖剣とこの光る木が同じくらい凄いんだとレギオが教えてくれた。そんな凄い存在なら召還されるサンタさんも一人じゃないかも?
お~、それは嬉しい。サンタさん一人につき一個のお願いだとしたら・・・・10人くらいは来て欲しいなぁ、ぐへへ。
そういえばさぁ、なんでこの光る木は急に成長したのだろうか?あんなにも小さくて可愛かったのに。
俺がぐっすり四日間も寝ている間、密かに成長した元・若木君。ん~、分からんね。精霊達が何か栄養のある物をあげたとか、樹と光の精霊達が勝手に成長魔法を使ったとか?
でも一度、俺が成長魔法をこの木に使った時は無反応だったのに。なんじぇ?
精霊達は庭にある果物の木みたいに、よくこの光る木の周りでもクルクルと踊っている姿を見た。その効果が発揮されたとか?もしかして時間差的な現象なのか?
孤児達は、俺が倒れた日の夜に木が成長しているのに気が付いたらしい。あの日に・・・か。
思い出したくないけど、あの日に起きた事を思い出してみるか。いつもと違った出来事を。
1.俺の知っている子供が血塗れになって殺された。
2.今の俺では不可能かもと思われた『蘇生魔法』が奇跡的に成功した。
3.俺が激オコして消滅魔法を使っての暴挙を行なう。そして黒歴史が刻まれた。
4.精霊達による異常気象。王都の空に(うじゃうじゃ)たくさん精霊が集まった。
5.・・・・うん、その5は、やっぱりアレだよなぁ・・・
『 ___ねぇ 誰に?____ 』
・・・・
・・・・・・・うん、分かんにゃい。
もう保留!保留だ、保留!分からんもんは分からん。なので放置します。今度、王都の図書館にでも行って調べる事にしよう。
それと、明日は大聖堂のあった場所にフェイと一緒に行ってみるか。
フェイは今、孤児院の子達のお風呂の手伝いをしている。誤まって溺れるかもしれないからな、小さな子が居し。ヴァンさんから給料が貰えるって聞いたし、頑張っているんだな。
あれからもレギオはちょくちょく・・・というか毎日、孤児院に来ている。きっと、友達がいな___こほん。
レギオはきっと、この聖域となった場所が気に入ったのだろう。魔術師にとっては嬉しい場所だしな。
攻略キャラ『レギオール=J=ミクシオロン』か。あいつのトラウマになるイベントって確か___
ん?そういえば、あれって今くらいじゃなかったっけ?俺は今、10歳だろ?つまりはヒロインのミネルソフィが10歳になり、王国による聖女認定の発表がなされて・・・・・
・・・え、起きるの?アレが!?
おいおい。でも、そうなると乙女ゲームの設定と今この世界との違いがヤバい状況にならないか?マズくね?
だって聖女になるはずだった『ミネルソフィ=ターシア』はここに居て、国が発表した聖女は『アンジェラ=K=モンテネムル』だ。つまり、乙女ゲームでは悪役令嬢だったアンジェラ。今のこの世界は、あの子が聖女になっている。
で、でもさ、分かるじゃん!アンジェラが『光』属性を主軸にして、光の女神様に加護をもらっているかどうかが!本当に立派な聖女様なのか!
やった。そうだよ、そうなんだよ。このイベントで俺は貴族学園へ行かなくても確認できるようになる。
あー良かった、良かった。これで・・・・っておい、俺よ。これでもし聖女とされている『アンジェラ=K=モンテネムル』が光属性を主軸にしていなくて、光の女神様から加護を貰っていなかった場合どうなるか分かってんのか?
・・それはぁ・・かなりヤバい事になる、よな?それはもう、大量の死者が・・・
どうしよう、忘れてたよ。『聖剣の覚醒』の事で頭がいっぱいになっていたから。あのトラウマイベントでは光の女神様から加護をもらったヒロインちゃんが必須だったんだ。
もしアンジェラに加護がない場合は、魔王によって世界が崩壊する前にこの王都の人達が大勢、死んでしまう。あぁ俺のアホたれ、何で忘れてたかなぁ。
つまりその場合はレギオの家族も全員、死ぬって事か?でもゲーム通りだったとしても、父親は助かるが母親が死んでたよな?
母親の『死』、それがレギオのトラウマだった。
このゲームさ、少女達が楽しむ乙女ゲームなのに攻略キャラのトラウマイベントが本当に酷いんだけど。よく売れたよな、こんなゲーム。
ヒロインちゃんである『ミネルソフィ=ターシア』が送る学園生活は平和だったな。攻略キャラとのピンク色世界を築き上げ、冒険者からの依頼イベントとか教会の聖女イベントとかあってさ。
楽しかったなぁ、あのプレイした乙女ゲームは。その時代まで行けるスキップ機能とかないだろうか?
現実逃避してる場合ではなかった。今はレギオのトラウマイベントの事だよ。それが何日に起きるのか覚えていないのがイタい。
・・・何か策を考えないと、早急に。もしもの時は、アンジェラの代わりを俺がしなければならない。そうしなければ、この王都が危険だ。そこに住んでいるタジルや、フェイや、レギオ、そして俺も。
さてと、考え込んでいたら夜もかなり遅い時間になりましたな。そろそろ寝ましょうかね。
「ほら、ミネル。寝に行くぞ、来いよ」
フェイが俺を迎いに来た。
あの〝フェイが拗ねちゃった事件〟から、フェイとは同じ部屋で寝る事にしました。あっ!もちろん違うベットで、だかんな。〝腐〟の方々は勘違いしないように!
『俺とフェイはちょ~仲の良い友達だよ大作戦』だ。一緒の部屋で寝起きをして結ばれる友情。これは修学旅行で経験済みだし、効果も確認済みだ。今度、孤児達を誘って枕投げでもしようかな。友情も深まるだろう。決して愛情ではありませんので。
これで拗ねてしまったフェイも、俺とは大の仲良しだよ!という気持ちが伝わるだろう。さすが俺、よく気が付いた!
でも、でもさ。ちょっと不満な事があります。寝る時に、わざわざ呼びに来てくれるのはありがたいんだけど・・・
「フェイ。聞きたかったんだけど、なんで毎回俺を抱えて行くの?しんどくないか?」
「俺は力が異常にある方なんだよ。ミネルは軽すぎるしな。・・・あとは、お前が抱えやすいのが悪い」
〝抱えやすい〟ってなんぞや?まぁ俺は楽だから良いけどな。俺専用フェイタクシーは今日もベットまで送り届けてくれた。