071話 攻略キャラ R
4-7.攻略キャラ R
なしてアンタが此処に居るのん?
「ああ、君がミネルか。ふ~ん、直接見ると大したものだねぇ。へぇ~」
客が待っているという部屋に入ると、椅子に座りながら優雅に紅茶を飲む男の子が居た。
服装からして確実に貴族。そして、何やらニコやかに微笑む顔で俺を見るお客さん。その目、すっげー品定めされている感じで嫌なんですけど。
うん、でもさ、ちょっと待って。待とうか、君。え~と、イベントか?イベントなのか?
俺、5日ぶりに目覚めたばっかだからさ、ちょっと休ませてくんない?休暇届ってドコよ?
「初めまして、ミネル。僕の名前はレギオール=J=ミクシオロン。これか、どうぞよろしくね」
飲んでいた紅茶を机に置き、椅子から立ち上がる少年。すんげー見覚えのある顔が近付いて来て、その少年が握手の為に右手を差し出した。
とりあえず握手。よろしくー。
ああ、こんな時くらいヒロイン補正は休止してくれてもいいんじゃないの?そんなにヒロイン役と攻略キャラとの出会いを求めているのか、この世界は。その補正力って、停止ボタンは何処にあんの?
『レギオール=J=ミクシオロン』。 はい、攻略者ッスね。勘弁して下さいよぉ。
えーと、思い出せ、俺。4日間、休止していた頭脳をフル回転させよ。確かこいつは宰相の息子で、頭脳明晰な知識人で乙女ゲームでいう『インテリ枠』の攻略キャラだったはず。それに____
「なんで何も喋らないんだい?ミネル」
俺がモクモク思い出し作業をしていたらレギオが話し掛けてきた。ちょっと待って、俺は病み上がりなんっすよ?労わってくれ。
「えーと、まずは何で俺の名前を知ってんの?」
「ふふっ、気になるかい?気になるよね?仕方ないから教えてあげるよ」
そういえば、こういう喋り方してたわ。コイツってば子供時代から面倒な性格してたんだな。
「君の名前はね、たくさんの精霊達が教えてくれたんだよ」
「え?精霊達が?でも精霊は喋んないんじゃ・・・」
「ああ、そうか。君は〝視る〟だけしか出来なかったね。でも僕は違う。ちゃんと視て、聞いて、話す事が出来るんだよ」
とても良い笑顔で教えてくれたけどさ、若干言葉に棘があるような・・・。まぁこいつだから仕方ないけど。
でも思い出した。そうだった。こいつ、レギオールのスキルは____
「だから君の名前を知っていて当然なんだよ。だから僕は、君に会いに来たんだよ。ミネル、君にね」
レギオが俺を指差す。うん、すげー嫌な予感がする。本当は聞きたくない、聞きたくないけど確認しないと。どうか、どうかあの言葉だけは言わないでほしい。お願いだから。
もし、あの言葉をレギオが言ってしまったらイベント確定なんだよ。だから、あの言葉だけは止めてね。どうかお願いします、お願いしますだ。
ビクビクしながら俺は尋ねてみた。さぁ、どうだ!?言うなよ!あの言葉を!絶対に!
「・・・それで、何の為に俺に会いに来たんだ?」
「う~ん、そうだねぇ。もう、はっきり言っちゃうけど、僕は君が〝気に入らない〟んだよ」
いぃーーーーやぁぁあああああ!!やっぱり、これイベントじゃんかぁぁあああ!!!神様の鬼ぃぃいいいい!!!
俺の病み上がりで疲れきった心は木端微塵に砕け散った。
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「君が有名な聖女様かい?」
「えっと、はい。恥ずかしながら国王様より拝命仕りました、ミネルソフィ=ターシアと申します」
「ふ~ん、君がねぇ。はっきり言っちゃうけど、僕は君が気に入らないんだよねぇ」
「・・・え?」
「だってさ、恥ずかしくないのかい?ただ精霊が視えるだけなんて。僕みたいに精霊の声を聴く事も、精霊と話す事も出来ないんだろう?君はそんな小さな力なのに『聖女』だなんて大層な称号を名乗るだなんてさ」
「・・・・・」
「僕には出来ないね、そんな恥知らずな事。小さな力しか持っていない君が『聖女』の称号を受け取るなんて凄いよ。他人に自慢できる事がそんなに欲しかったのかい?良かったね、素晴らしい称号を授与されて」
「・・・いえ、私は・・・」
「あ、ショックを受けてしまったのかな?少し言い過ぎてしまったかい?本当の事を言われて、さぞ驚いただろう?」
「・・・確かに私の力は小さいです。でも、その小さな力でも喜んでくれる人が居る。私は、ただそれだけで満足ですから。ただ、それだけで私は幸せです」
「・・・・・」
「あなたの力も、いつか誰かの為になるでしょう。そうなれば、貴方も私のこの気持ちが分かるようになるわ」
「・・・やっぱり僕は、君が気に入らないよ」
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