007話 攻略キャラ T
1-7.攻略キャラ T
はい、誰も助けてくれませんでした。ぐすん (ノω・。)
結局、この誘拐犯(仮)のお兄さんによって冒険者ギルドへと連れて来られた。
でもさ、ちょっと感動。冒険者ギルド、すんげー!乙女ゲームでもお世話になった冒険者ギルドに今、俺は居るんだ。まぁ、お世話になったのは此処ではなく王都の冒険者ギルドだったけどさ。
王都より少し小さな冒険者ギルド。しかし、ゲームにもあった背景絵のような内部の造りや掲示板、沢山の冒険者達に感動。俺ってば本当にゲームの世界に居るんだ、すげー。
ギルドに入った時、冒険者が何人かこっちを見た。俺を抱える誘拐犯(仮)を見たのに、皆が親しげに挨拶をした。あれ?みんな俺の事、見えてる?ねぇ、助けてよ。
冒険者達から親しげに挨拶される誘拐犯(仮)。人気あんだなぁ、この人。でもさ、みんな俺をチラッと見るだけかよ。無視すんなよ。助けろよ。
必殺、涙目うるうる。
「あの・・どうしたのですか、その子は?」
よし、効いた奴が居た!
「ギルマスは居るか?」
「え、あ、はい。上に____」
「分かった」
おいぃぃ!!「あ、はい」じゃねぇよ、止めろよ!
受付の人(男)が「どうぞ」と奥を示し、入って行く俺と誘拐犯(仮)。冒険者ギルドの受付といえば美人なお姉たまなのに・・・さすがは乙女ゲーム。女性向けの設定すぎる(泣)。
俺はそのまま冒険者ギルドの2階へと運ばれ、ギルマスが居るらしい部屋の前まで来ました。そして、また猫の様に襟首を掴む持ち方をされる。俺の服が伸びちまうよ。
コンコンっと扉を叩き、中から「入れ」と声が聞こえた。
扉を開き中へ入ると、立派なソファーに座らされた。うむ、ふっかふかなソファーだ。誘拐犯(仮)はギルマス(クマ?あ、人間か)の方へ行き、二人でヒソヒソと話し合う。俺を無視してだ。連れてきて無視ってどうよ?帰って良い?
机の上に、秘書っぽい人がお菓子とジュースを用意してくれた。遠慮なくプスッとフォークでケーキを一刺しして口へと運ぶ。馬、この菓子、すげー美味い。さすがはギルマス、良いもん食ってやがる。。
「君のおかげで、違法奴隷を行なっていた関係者共を捕まえたと聞いた。礼を言う、ありがとう」
俺がお菓子を堪能していると、内緒話が終わったらしく向かいのソファーにデカい男が座り、話し掛けてきた。誘拐犯(仮)は何故か俺の後ろに待機している。
この人がギルマスか。うん、クマっぽい。人間のクマっぽい人。是非とも、赤いTシャツに蜂蜜を持って頂きたい。きっと笑えるから、ぎはははっ。
「この町の領主に依頼され、冒険者ギルドと衛兵は共に犯人達を追っていたのだ。君のおかげで助かった、報酬を用意しよう」
へぇ~、そうなんだ~。・・・ん?報酬?お金!?
報酬という言葉に喜びながら、俺は机の上にあるお菓子をモソモソ食べる。こんな美味しいお菓子、次はいつ食べられるか分からない。なので食べ続ける、リスの如く。
「ところで聞きたい事があるのだが・・・君はその年齢にして暗殺者なのか?」
ブッ!!!!
ギルマスの言葉に、口の中で咀嚼していたお菓子が外に出てしまった。
おい、せっかく頬に詰め込んで味わっていたのに何しやがる。あ~あ、美味しいお菓子が全部出ちゃったじゃないか。なんて勿体ない事を。
「・・・どうなんだ?」
「暗殺者?違いますよ、なんでそう思うのです?」
「君の後ろで待機している彼からの報告で、君はネミネ草を使い、家と家との間を跳んで上へと移動したそうじゃないか。ネミネ草を使う知識に技術、そして身体能力。怪しまれて当然だろう?」
ギルマスが俺の背後に居た誘拐犯(仮)を指差しながら教える。ネミネ草の知識や技術と言われても、樹の精霊達から貰った種だし、育てたのもヒロインちゃんの魔力のおかげだ。
もちろん俺は暗殺者ではないので、言い訳を考えなくては。あの曲芸は風の精霊達のおかげ・・・と、言える訳もなく。どうしたものか・・・
「ボクは森で育ったんです。森の中で遊んでたら、そういう事が出来るようになりました」
もう、コレで良いや。さて、机の上にあったお菓子も食べ終わったし、報酬も頂いた。そんじゃ、お暇するとしますか。あざっした~。
「お菓子、美味しかったです。ごちそう様でした。それでは、さようなら~」
俺はソファーから立ち上がり、精霊達と一緒にお辞儀をする。さて、お家(洞窟)に帰りましょう。良い子は早く帰らなければ。
「まぁ、待ちなよ。まだ聞きたい事もあるし」
俺は後ろにいた誘拐犯__ではなく、冒険者のお兄さんに肩を抑えられ、またもやソファーに座らさせられた。離陸失敗、残念無念。
「そういえば、名前がまだだったな。自己紹介しよう、俺は冒険者のタジルマース。仲間からはタジルって呼ばれているから宜しく。君もそう呼んでくれ」
・・・・・え?〝タジルマース〟??
冒険者のお兄さんがした自己紹介に、俺の頭脳がピコン!と乙女ゲームの事を思い出した。
俺はすぐ、後ろに居る彼へと振り向いた。緑色の髪に翡翠の様な色をした瞳。少し若いが間違いない。
この人、乙女ゲームの攻略キャラだ。
おいおいおいおい、ちょっと待ってくれ。
ははっ、くそったれ。さっそくか。さっそくコレか!?
まだ俺が乙女ゲームの世界で目覚めて2日目なのに、さっそく攻略キャラと遭遇?ヒロイン役である俺と攻略キャラが出会うのは運命だというのか。この世界は、ヒロインの補正力が強すぎるだろう!?
い、いやだ。もしも、もしもだ。そんなに、ヒロイン補正が強力なら、俺は、俺は・・・
ヒロインの補正力によりヒロイン道を強制的に走らされていると思えた俺は、ある幻覚が見えてしまった。
それは男の俺が、ふりっふりのピンク色ドレスを着て攻略キャラ達と共に花咲く野原を笑いながら走り周るという最悪な悪夢の光景を・・・
「それで?君の名前は何ていうんだい?」
はっ!?混乱している場合ではない。攻略キャラのタジルマースが俺の顔を覗いて質問してきた。
名前、名前か。さて、どうしようか・・・・。
「・・・山田 太郎です。どうぞ、よろしく」
「や、やまぁどあ、たるー?タルーでいいのかな?」
誰が〝ヤマードア=タルー〟じゃ。