064話 ※ロイド※ Prt.2
3-24.※ロイド※ Prt.2
※ ※ ※ 護衛 ロイド 視点 ※ ※ ※
「そいつ等が今回、問題を起こしたんだねぇ。間違いないかな?」
俺の前には縄で縛られた男が4人、床に転がされている。
「はい、ロイドさん。尋問も終了しているので、間違いはありません」
俺の部下が答える。そうか、こいつ等のせいか。
先日、王都にあったあの巨大な建造物でもある大聖堂が消滅した。〝破壊〟されたのではなく〝消滅〟したんだ。建物が塵も残さず消えた。
突然の出来事に王都の民達は混乱と恐怖で大騒ぎとなった。観光地として有名で、毎日たくさんの礼拝者や観光客が訪れていた場所が突如、消失したのだ。これから何日も王都は騒がれるだろう。
この事態は『大聖堂消滅事件』とされ、王国中に広がった。
そして、その事件は俺達が出会ったあのピンク髪の男の子、ミネル君によって行なわれた。
その日は、いつものように俺とヴァンは旧市街にある孤児院に来ていた。孤児院の庭にできている果物や野菜を買い取りにきたからだ。ジル君と、ジル君の冒険者仲間のタジル君も来ていた。その時は、まだ平和だった。
いつものように果物などを買い取り、その商品を持ち上げようとした時だった。
平穏した場は一気に崩れ去った。血塗れの兄妹の姿によって。
妹さんの方には怪我は無く、ただ泣いているだけ。だが・・・お兄さんの方はもうすでに息が無かった。即死なのか、出血のせいなのかは不明。だが、確実にもう息を引き取っている。
大きな斬り傷がある。背中と腕、それにお腹を貫かれているな。これは剣による斬撃。こんな小さな子供に・・・。俺は生気を失くした男の子の瞳をゆっくり閉ざした。
ミネル君は、それでも回復魔法を続けていた。凄い子だ。こんなにまだ小さいのに、これほどの魔力を有しているなんてな。信じられないくらいに才能がある子だ。
だが、だがもうダメなんだよ。確かに男の子の傷は無くなった。凄い威力だ。しかしこれ以上、魔法を使ったとしても無駄なんだよ、ミネル君。この子はもう生きていないのだから。
「ミネル君・・・ミネル君!もう止すんだっ!その子は、その男の子はもう死んでいるんだ」
俺は、辛い事だがミネル君に教えた。今のミネル君を見ている俺自身が、胸がつぶれそうになったから。すまない、ミネル君。もう止めてくれ。
俺の言葉に呆然と立ち尽くしたミネル君は、回復魔法を止めた。泣く事も、叫ぶ事もしない。ただ死んでしまった男の子を見つめているだけだった。
だが、ある変化が訪れた。
ミネル君が、ミネル君の体が急に光り出したんだ。
俺達は驚いた。見た事もない現象だ。いったい何が起きようとしているのか分からなかったが、咄嗟に俺はヴァンを庇うために前へ出る。
「・・・【神々に・願います・大いなる慈悲を・涙の元に・大いなる祝福を・悲しみの元に・死せる魂に・どうかご加護を ≪ソウル・レイズ≫】」
ミネル君の声が辺りに響く。魔法の呪文だ。≪ソウル・レイズ≫?そんな魔法、学園では習わなかったと思うのだが。
ミネル君と死んだ男の子が光りに包まれる。そして、奇跡が起きた。
男の子が・・・死んでしまった男の子が生き返ったのだ。もう開かれないと思われていた瞼がゆっくりと開き、呼吸をして、妹の名を口にした。信じられない状況だった。
「・・・死者の蘇生?」
ヴァンの小さな声が俺に聞こえた。
・・・は?死者の、蘇生?いやいやいや、そんな事は不可能だろう。死んだ者を蘇えらせるなんて、ある訳が・・ない・・はずだ。だが・・・。
生き返った兄とそれを喜ぶ妹が抱き合う。妹さんは大泣きだ。お兄さんの方は混乱しているみたいだが、俺だって混乱している。
俺はミネル君に質問しようとしたが・・・それは無理だった。
ミネル君が泣いていたんだ。
そのミネル君の涙に従うかのように、王都の空が突然暗くなり雨が降り始めた。
ミネル君が、ゆっくり歩き出す。止めようとしたが、ミネル君の肩に触れようとした瞬間に火花が散る。ダメだ、触れない。
ミネル君はそのまま、大通りがある方へと歩いて行った。
__そして空に巨大な光り輝く魔法陣が現われ、光と共に大聖堂が消滅した。
それが今回、俺が知っている『大聖堂消滅事件』だ。今、この事件が王都での一番の話題となっている。
「それでロイドさん。こいつ等どうしますか?」
おっと、あの日の事を思い出していたら呆けていたようだ。
こいつ等のせいで、あの兄妹が傷ついた。俺は部下を使い、あの事件の原因となった者達を探し出して、捕まえた。あの男の子を殺した、こいつ等をな。
「どうやら後ろに教会の教祖さんが居るみたいだし、宰相君にでも渡しておこうかな」
学園での旧友、アイツも今はこの国の宰相となっている。王太子の奴も無事に王を継いだし、騎士を目指してた奴なんて今では団長にまでなってやがる。凄いよな。
その騎士団長になったアイツと俺は、剣術を同じ師匠に学んだ。つまりは兄弟弟子だな。
その兄弟弟子から今回の『大聖堂消滅事件』について聞いてみた。
奇跡的に死者はゼロ。何か理由があったみたいだが、そこは教えて貰えなかった。ケチな奴め。まぁお前が喋らなくても調べる方法なんて、いくらでもあるけどな。
「了解しました。後はお任せを」
「ああ、よろしくな~」
部下たちは、縄で縛られた男達を連れて部屋から出て行った。
今、このヴァンの邸宅にミネル君が寝ている。あの後、あの大聖堂が消滅してからフェイ君が連れてきたんだ。ミネル君は気を失っているらしく、俺達は急いでヴァンの屋敷まで連れ帰りベットへ寝かせた。
ミネル君は大聖堂があった場所の前で気を失って倒れたらしい。ヴァンもあれ以降、城から帰って来ていない。出来ればミネル君には迷惑が無いように済んでほしい。
でも、ミネル君って何者なのだろう?
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