062話 ※ルード※ Prt.1
3-22.※ルード※ Prt.1
※ ※ ※ ??? ルード 視点 ※ ※ ※
兄さんが変だ。
ミネルが王都へ旅立って数日が過ぎた。今日も早朝から剣の稽古を兄さんと二人で行なう。
だけどミネルが居なくなってから、兄さんが変になった。
寂しいのは分かる。俺だって仲が良かったし、別れは辛い。でもさ、冒険者になって王都へ行けばまた会うと約束をした。
なのに、兄さんは落ち込んでいる。正直、ちょっとイラッとくる。
「兄さん。今日も俺の勝ちだったね」
「・・・ああ、負けたな」
はぁ・・・ポンコツになっている。
剣術の訓練で打ち合いをしている時、試しに〝そういえば、ミネルがさ〟と言えば確実に動きが止まり隙だらけになる。そんなので冒険者にちゃんとなれるのだろうか。心配だ。
「兄さん、ミネルが居なくなって寂しいのは分かるよ?でもさ~・・・」
「・・・何だよ?」
「もしも、あの時の〝あの噂〟が何かの間違いで真実だとしたらどうするの?」
4年前にリナリクトの町である噂が流れた。
『光の聖女様が現われた』。
俺達兄弟は、その噂にされている人物が誰か分かってしまった。ミネルだ。フードを被って冒険者と一緒に討伐依頼に向かった子供は彼しかいないので間違いない。
「そっ!それは無い・・・はずだ。ミネルは男だ、聖女なんかじゃない。ちゃんとミネルも〝違う〟と否定したし」
「だから〝何かの間違いで〟って言ったんだよ。もしミネルが聖女だと現実がおかしな事になったら・・・」
「・・・なったら、何だよ?」
「・・・俺達はミネルと戦う事になるかもしれないんだよ?」
俺達について少しだけ話そうと思う。
まず、大切な事だから言っておくよ。絶対に周囲の人達に知られたらダメな秘密事があるんだ。
俺達兄弟は人間族じゃない。
父親は人間。だけど、俺達の母親は・・・魔族側の者。
俺たち兄弟の母親の一族は、結婚した夫がたとえ人間族でも、鬼人族でも、悪魔族だったとしても、母親の一族から生まれるのは、俺達みたいに父親の種族の特徴をもたない者が生まれる。
つまり、その生まれた子供は全て母親の一族と同じ姿となる。
それは、俺達が『闇』属性を必ず主軸とする一族である事と関係しているみたいだ。
人間の子供を孕んだとしても、一族は受け入れてくれる。父親が誰であったとしても、生まれるのは自分達の一族と同じ姿だと分かっているからだ。
でも、俺達の両親が選んだのは一族の村で過ごすのではなく、人間族の町で暮す事だった。それが間違いだというのに。
俺達は母親からもらった魔道具で人間の姿を保つ事ができた。俺達がいつも着けている、この腕輪のおかげ。でも、純正の魔族である母さんはダメだった。
人間達は俺達親子を〝魔王軍の手の者〟として追いやった。そして捕まり、犯罪奴隷として売られた。
俺たち兄弟は奴隷商から逃げる事に成功した。奴隷の誰かが店に火を放ち火事にしたからだ。でも、何人かの奴隷はその火事で死んだかもしれない。逃げるのに必死で、構っていられなかった。
そして俺達は、このリナリクトの町まで逃げてきて、孤児院に保護された。人間の子供として。
父さんも母さんも、生きているのか死んでいるのか分からない。奴隷になった時、離されてしまったから。最後に見た父さんと母さんは・・・泣いていた。
父さんは「生きろ」と、母さんは「ごめんね」と。離されてしまう前に、最後にそう聞こえた。だから俺たち兄弟は、一緒に強く生きようと誓ったんだ。
・・・正直に言うと、俺は人間族が憎い。兄さんは分からないけど、俺はまだ・・・許せないでいる。
立派な冒険者になったら、両親を探してみようと兄さんと約束した。
でも、本気では探さない。見付かるとは思っていないし・・・死んでいる可能性だってあるから。
「ミネルは・・・ミネルは俺達に魔族の血が流れていようと襲ってきたりはしない。あの町の奴等と同じにするな」
「・・・ごめん、兄さん。今のは俺が悪かったよ」
でもさ、兄さん。俺だってミネルが『聖女』になるなんて考えたくない。けど、もしそうなってしまったら聖女や勇者は魔のモノを討ち払う象徴。俺達は魔族側の姿をもって生まれてきてしまった。
もし、ミネルが聖女となってしまって俺たちの事がバレたら・・・
だから絶対に隠し通さないと。俺達が『ダークエルフ』だという事を。
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