059話 神の救い
3-19.神の救い
俺の口から、自然と言葉が紡がれる。
「・・・【神々に・願います・大いなる慈悲を・涙の元に・大いなる祝福を・悲しみの元に・死せる魂に・どうかご加護を ≪ソウル・レイズ≫】」
乙女ゲーム世界で唯一、聖女だけが使えた魔法。それは『蘇生魔法』。
光属性の最大上級魔法で、一時間以内なら死んだ者でさえ生き返る神の御業。
覚えるのは、ストーリー終盤。ラストダンジョンである魔王城へ行く手前くらい。
魔王城からは格段に難易度が上がってしまう。ボスの連戦、つまり魔王幹部との連続戦闘だ。その高難易度の為に、製作者が作った特別救援処置。それが『蘇生魔法』だった。
まだ子供の俺に使えるのだろうか?
無理か?でも今使えないと。 __使えないと?
死ぬんだ。 __誰が?
男の子が。 __何で?
な・・・んで? __うん、何で?
斬られたから。_誰に? 血がいっぱい出てた。_誰に? もう死んでるって。_誰に? 妹が泣いていた。_誰に? 優しかった男の子が・・・
___ねぇ 誰に?____
俺の体が光りに包まれる。
そうか、ありがとう光の精霊たち。協力してくれているんだな、本当にありがとう。
俺と共に、血塗れの男の子も光に包まれる。とても暖かくて、優しい光だ。
ああ、良かった。ゲームのエフェクト通りだね。本当に、良かった。
「・・・ん・・・あ、れ?カ・・ンナ?」
男の子が目を覚ますと、周りの人達が驚きのあまり固まった。女の子を除いて。
「おに、おにい、ちゃん?カムイ、おにいちゃぁぁああああん!!うわぁぁああああん!!」
妹が兄に抱き着き、泣き叫ぶ。良かった。本当に、良かった。成功・・し・・た・・・
___ねぇ 誰に?____
王都が突然、黒い雲に覆われる。
____突然の闇の支配。ああぁ、闇の精霊たちが怒っている。
黒い雲から、雨が降り出した。王都中に雨が降る。
____突然の水の支配。ああぁ、水の精霊たちが悲しんでいる。
王都中が、真夏の暑さの様に気温が上がる。
____突然の火の支配。ああぁ、火の精霊たちが喜んでいる。
黒い雲から雷が落ち始めた。
____突然の光の支配。ああぁ、光の精霊たちが嘆いている。
ごめんな、風の精霊たち。怖がらせて。
ごめんな、樹の精霊たち。俺は止まらない。止められないんだ。
だから行ってくるよ、あそこへ。あの場所へ。本当に、ごめんな。
あれ?俺は・・・泣いていたのか。いつからだろう?
もう男の子が生き返ってくれたのに、兄妹が抱き合っている姿を見れたのに、嬉しいはずなのに、俺の涙が止まらない。
そして、俺の心は・・・胸が、とても痛い。
行かないと・・・だから行かないと、あの場所へ。
さぁ、行こうか。
俺は市街地にある大聖堂へ向けて歩き出した。