058話 失われた命
※注意※
この話には少しだけ「残酷な描写あり」があります
苦手な方はご注意ください m(_ _)m
3-18.失われた命
最近、教会の連中が大人しくなった。なんて素晴らしい事だ。
神官長が≪翼をください≫を実演してくれた日から数日が過ぎた。今日もヴァンさんとロイドさんが果物と野菜を買い取りに来てくれた。
そして、今日はそのヴァンさんに会いに息子のジルさんと、ジルさんの冒険者仲間であるタジルが孤児院にやって来ている。
ついでに、ジルさんが俺にお菓子をくれた。クッキーを作るマッチョのジルさん・・・シュールだ。
もしかして、これが噂の〝オトメン〟というやつだろうか?
はっ!?ダメダメ。せっかく俺の為にお菓子を作って持ってきてくれたんだ。俺はなんて失礼な事を考えている。ジルさん、ありがとう。お菓子、美味しく頂きます。
そういえば、ヴァンさんとタジルも仲良さそうに話している。普通は伯爵様と庶民の冒険者が話し掛ける場合、凄く面倒な言い回し?超丁寧語?みたいな話し方をしないとダメなんだろう?なのに2人は、すごく親しげに話している。ジルさんはタジルの冒険者仲間だから、それで仲良くなったのかな?
そう思うとヴァンさんって、すごく話しやすくて助かる。ロイドさんに教えてもらった〝元は孤児院に暮していた〟というのが関係しているのかな?
孤児院で暮らしていた孤児が伯爵になる。まぁ、色々大変な事があったんだろう。一番考えられるのが俺、っていうかミネルソフィ=ターシアと境遇は同じかな?
男が金持ちだと分かり一夜を共にし、子供を授かったが関係が上手くいかず、結局は捨てられ、邪魔な子供は捨てられる。捨てられたその子が、何らかの理由で貴族に迎え入れられる事になった。まるで昼ドラみたーい。
まぁ、そんな深い事情を聞ける訳がなく、仲良く話せるならソレでいいです。ラブ・アンド・ピース。
そんな和気藹藹とした空間は、女の子の悲痛な叫び声によって終わってしまう。
「ふぇ、フェイおにいちゃ~ん!たすけてぇ、フェイおにいちゃ~ん!!」
1人の女の子が体中を真っ赤な血で染めながら、男の子を引きずって孤児院へとやって来た。
その場に居た者達は全員、一瞬で凍りついたかのように固まり動けなかった。
血塗れで泣く女の子。そして、その女の子に引きずられている男の子もまた真っ赤な血で全身が染められていた。
そんな状況に誰もが理解するのに数秒の時を奪われる。
「か、カンナ!?」
フェイの叫び声に全員が我に返った。
急いでその子達の元に駆けつけ、俺は2人に全力の回復魔法をかけた。タジルとジルさんが外に居た他の子供たちを孤児院に入れている。
「カンナ、何があった!?カムイは大丈夫なのか!?」
「か、カムイおにいちゃんが、カムイおにいちゃんがぁああああ!!!」
女の子が泣き叫び、何があったのか分からない。どうにかしてフェイが女の子を落ち着かせようとしている。
「・・・ミネル君。女の子の方は怪我は無いみたいだ。でも、この男の子はもう・・・」
ロイドさんが男の子の容体を確認してから、首を振っている。
・・・俺は、この男の子を知っている。この旧市街にある孤児院の場所を教えてくれた兄妹のお兄さんだった。妹に優しかった、あの・・・
え?〝もう〟何?何でロイドさんは首を振っているの?
分からない。分からない。分からない。
・・・分かりたくない。
「お、男の、ぐずっ、男の人達に、急に、囲まれて、ひっく、剣で、剣でぇええええ!!!」
「カンナ!カンナ!お願いだ!泣いていたら分からない。もう少し詳しく!何があったんだ!?」
「男の、ぐずっ、がぁ言ってた、ぐすっ、〝邪教徒〟ってぇぇえ!!」
・・・〝邪教徒〟?
そう、〝邪教徒〟と言ったんだね?
思い出すのは数日前に言われたロイドさんからの言葉。
___フード姿の子供を闇討ちしてるという情報が入ってるんだよね
___どうやら教会が絡んでいるっぽいし、ミネル君も十分に気を付けてね
この子は俺みたいにフードなんて被っていない。なのに・・・なのにっ!
俺のせいか?俺がこの子達と一緒に居たからか!?だから狙われたのか!?
「ミネル君・・・ミネル君!もう止すんだっ!その子は、その男の子はもう___」
ロイドさんが、男の子に回復魔法を使い続ける俺を止めようとする。その顔は、とても辛そうだった。
ロイドさん、止めて。お願いだから。それ以上言うのは止めて。聞きたくない、聞きたくないんだ。
「___もう死んでいるんだ」
死______
なんだっけ、それ。
死んで____
思い出せない。思い出したくない。
死んでいるんだ
そうか 嫌だ そうなんだ 嫌だ だったらさ 嫌だ だったら 嫌だ 嫌だ 嫌だ 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だっ!!
『 生き返らせればいい 』